【第一部&番外編・完】故郷の英雄と歩む冒険者生活~家族に売られた僕は憧れの冒険者のものになりました~

海野璃音

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第一部:本編

2:審査

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 売られた僕が連れてこられたのは、冒険者の集うダンジョンの近くにある町だった。

 うちの村から馬車で一週間ほどの大きな町。

 僕は他の村から集められた他の奴隷と共に馬車から下ろされ、その場で服を脱がされると、魔法で頭から水をかけられて洗われた。

「っ……!」

 水が鼻に入っても喋ることは許されないから、息を飲んで痛みを堪える。

 裸のまま体つきを見られ、たくましい人は戦闘奴隷として高い評価を与えられていく。

 その評価が商品としての扱いを決めていくようで、高い評価を与えられた人は、質のいい服を与えられていたし、低い評価の人はくたびれた服を与えられていた。

 評価の決まった奴隷の頬には、黒い刺青のような紋様が刻まれている。

 店主の魔法によって刻まれてたそれが奴隷の証なのだろう。

 そんな様子をぼんやりと眺めていたら僕が品定めされる番が訪れた。

「名前は?」

 この奴隷商館の店主だろう壮年の男性が僕に名前を尋ねてくる。

「……エルツです」

 答えないという選択肢はなく、僕は名前を告げた。

「そうか。エルツ、顔をあげなさい」

 その言葉と共に、店主は僕の返答を待つ事なく、ややうつむいていた僕の頬を掴み、僕の顔をあげる。

「っ……!」
「ほう、綺麗な瞳をしているじゃないか」

 僕の瞳を見た店主は、良いものを見つけたと言うように笑みを深めた。

「まるでエメラルドのような澄んだ緑色だ。涙に濡れるとより美しく輝くだろう。これでもう少し髪色が明るければ、性奴隷として理想だったのだが残念な事だ……」

 僕の黒髪を見て、店主がそんな事を言う。

 この国では、明るい髪色が美人の証だ。一番好まれるのは金や銀。その次に赤や薄い茶色。その後に濃い茶色、黒と続く。

 もちろん、髪色を凌駕するほどの美形もいるとは思うけど……僕には当てはまらないと思った。

「だが……まあ、気に入る客はいるだろう。雑用奴隷としてだけではなく、性奴隷としても学んで貰おうか」

 だけど、僕の考えは否定される。性奴隷としての価値なんてないと思ったのに、店主は僕を性奴隷としても扱うと決めたのだ。

「抱いたり、抱かれた事は?」
「あ、ありません……」
「では、未通のまま仕上げるとしよう。初めてというのは、どちらに買われようともありがたがるものはいるものだ」

 青ざめる僕を気にする事なく店主は僕の処遇を決める。

「さて、君の評価も決まったし……刻印を入れるとしよう。」

 青ざめる僕を気にする事なく店主は、僕の頬……目尻の下、頬骨の上辺りへと指を這わせ、僕のわからない言葉を呟いた。

「っ……!」

 焼け付くような痛みが頬に走る。その痛みは一瞬だったが、痛みが止んでもじんじんとした感覚が店主が指を離した後も続いていた。

「これで君は、正式に我が商館の商品となった。くれぐれも逃げようと思わぬように」

 それだけ言って店主は次の奴隷のもとへと歩いていく。

 奴隷の刻印を押された僕には、僕より先に奴隷になったであろう人から服を渡される。

 渡されたのは、まだ綺麗だと言えそうな服。

 最上位というほどではないが、それでも商品としてそれなりの価値の認められた証だった。
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