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第一部:本編

1:懐古

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 幼い頃、村から誕生した英雄に憧れた。

 平民生まれの冒険者。

 どこにでもいる、ありふれたはずの存在だったその人は、世界各地にあるダンジョンで冒険者仲間と成果を出し、ついにはその功績によって爵位まで賜った。

 そんな事を知ったのは、その人が最後に里帰りしてから数年経った後だったけど、それでも凄腕の冒険者がうちの村から出たというのは偉業も偉業。

 そして、僕のような跡継ぎでもない農家の次男からしたら、物凄く理想で後に続きたいと思えるような人だった。

 彼の話は、活躍が村に届く度に一番の話題となり、僕達子供は目を輝かせて耳を傾けた。

 僕が彼とあったのは一度きり。彼の最後の里帰りの際、憧れの人だった彼に他の子達と纏わりついて冒険譚をねだったのが唯一。

 冒険者として忙しかっただろうに、彼は纏わりつく子供に嫌な顔をせずに話をしてくれた。

 剣を振るい魔物を断ち切る手で子供達を抱き上げ、頭を撫でてくれた。

 力強さを感じる手だったのに、撫でてくれる力は優しく、僕も他の子供達もより夢中になったのは言うまでもなかった。

 大人になったら、この人みたいにすごい冒険者になりたい。

 そう思って体を鍛えたけど、僕には才能がなかったらしく、村では一番ひ弱な大人へと成長した。

 村に現れる害獣すら追い払えない僕。

 友人だった皆には呆れられ、家族からは見放された。

 僕にとって輝かしかった日々は幼い頃に彼に憧れていた時が最高だったに違いない。

 揺れる荷馬車の荷台から遠くはなれていく故郷を眺める。



「役に立たない次男だと思っていたがようやく役に立ってくれたようだ」
「あんたを売ったお金で、馬か牛を買おうとおもうの。あなたも仕事のできない自分が嫌だったでしょう?もっと喜んでもいいのよ?」
「あいつは売ったから、もう安心していいぞ。今まで嫌な思いさせてごめんな」
「ありがとうあなた。これで安心して子供達を育てられるわ」

 僕は今日。そんな言葉とともに奴隷として家族に売られた。

 それが悲しいのか。僕にはもうわからなかった。
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