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神子の大神殿での日々
十九話
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大神殿での平穏な日々は続き、シオンとの文通も相変わらず順調だ。
季節は二度目の冬を迎え、今度の春でここで暮らすようになって三年目になる。神子として、神官としての教育はほとんど終わり、今では貴族社会の礼儀作法を集中して学んでいるがそれがまた難しい。
カトラリーの使い方だったり、立食パーティーのマナーだったり、給仕への貴族らしい対応だったり……。そんなのいいから、祈ってだけ暮らしたいと思ってしまうのは逃げである。
推し達と学園生活をエンジョイしたいから頑張るしかないのだが。
今日もリアンと一緒にマナーの勉強をした。レオーレ様は、冬に出る魔物が大量発生し、王都の周辺の村々が被害にあったらしく、一か月ほど前からその討伐と復興支援にあたっている。
被害を聞いた時は、自分の力不足を嘆いたが、神子が居ない時に比べると被害が少なく、死者がいなかったと聞き、自分が祈る事の意味を失わずに済んだ。
レオーレ様が大神殿を出た日から毎日のようにレオーレ様の無事と被害にあった村々の一日も早い復興を願いながら祈り、勉学に励んでいる。
今日の授業を終え、リアンにお茶を入れてもらいながら一人休んでいると部屋の扉が叩かれた。
リアンが扉を開け、外の神官といくつか話して戻ってくる。
「ルカ様。レオーレ様がご帰還されたようですよ」
「ホントに!?」
一か月近く会っていなかったので、リアンからもたらされた知らせは俺の心を湧きたたせた。
「出迎えたいけど、今どこに居るのかな!?」
「すぐにこちらにいらっしゃると思いますが……まずはナザール様に報告されるでしょうし、おそらくはそちらかと」
ナザール様への報告は仕事だから邪魔できないけど、ナザール様の部屋に行く前に顔ぐらいは見れるかもしれない。
「リアン、おかえりだけでも言いたいんだけど……ダメ?」
「……仕方ないですね。少しだけですよ?」
「わかってる!」
リアンから許可がでたので、白いコートを着せてもらって廊下に出る。外は雪が降っているし、回廊のようになっている廊下もとても寒い。
白い息を吐きながら同じ区画にあるナザール様の部屋へと向かえば、廊下の反対側から茶色い毛皮のコートを着たレオーレ様が歩いてきた。
「レオーレ様!おかえりなさい!」
「ルカ様!?なぜこちらに」
「レオーレ様が帰ってきたと聞いてお迎えしようと思って」
俺の着ているコートよりもふもふな毛皮を纏っているレオーレ様に抱き着けば、手袋越しにレオーレ様が俺の頭を撫でてくれる。
子供っぽいと怒られたらどうしようかと一瞬よぎったけど、優しくなでてくれる手に甘える様にすり寄った。
「わざわざ寒い中ありがとうございます」
「少しでも早く会いたかったから」
レオーレ様が仕事で大神殿を出る事は多々あれど、俺がいるからか長くても一週間……二週間なかったくらいだから、今回は本当に長い間いなかったのだ。
レオーレ様のいない日々は寂しく、リアンやナザール様に心配されるくらいには大人しかったらしい。いつも通り振舞っていたと思うんだけど……俺の心の平穏にレオーレ様は必須らしい。
「そうですか」
俺の言葉にレオーレ様はその美しい顔で微笑み俺の頬を撫でる。
「私も、ルカ様と会いたくて仕方がなかったですよ」
蕩けるような慈しみと優しさあふれる微笑みを直視し、顔にボッ……!っと、熱が昇った。倒れなかっただけ褒めてほしい。
「これからナザール様への報告があるので、終わったらルカ様のお部屋に向かいます。この一か月、なにをして過ごしていたかお聞かせ願えますか?」
「うん……れ、レオーレ様が何をしてきたかも聞いていいですか?」
「もちろん」
最後にもう一度頭を撫でてもらってからレオーレ様から離れる。
「リアン、ルカ様を部屋まで頼む」
「かしこまりました」
レオーレ様に一礼したリアンと共にナザール様の部屋へと入っていくレオーレ様を見送り、部屋へと戻る事にした。
「リアン、レオーレ様とのお茶会の準備をお願いできる?」
「はい。冬の旅路は凍えたでしょうから、温かな紅茶とそれに合う茶菓子を用意しましょうね」
「ありがとう」
リアンと一緒に冷たい風の吹く廊下を歩く。それなのに心はわくわくして寒さを感じなかった。
季節は二度目の冬を迎え、今度の春でここで暮らすようになって三年目になる。神子として、神官としての教育はほとんど終わり、今では貴族社会の礼儀作法を集中して学んでいるがそれがまた難しい。
カトラリーの使い方だったり、立食パーティーのマナーだったり、給仕への貴族らしい対応だったり……。そんなのいいから、祈ってだけ暮らしたいと思ってしまうのは逃げである。
推し達と学園生活をエンジョイしたいから頑張るしかないのだが。
今日もリアンと一緒にマナーの勉強をした。レオーレ様は、冬に出る魔物が大量発生し、王都の周辺の村々が被害にあったらしく、一か月ほど前からその討伐と復興支援にあたっている。
被害を聞いた時は、自分の力不足を嘆いたが、神子が居ない時に比べると被害が少なく、死者がいなかったと聞き、自分が祈る事の意味を失わずに済んだ。
レオーレ様が大神殿を出た日から毎日のようにレオーレ様の無事と被害にあった村々の一日も早い復興を願いながら祈り、勉学に励んでいる。
今日の授業を終え、リアンにお茶を入れてもらいながら一人休んでいると部屋の扉が叩かれた。
リアンが扉を開け、外の神官といくつか話して戻ってくる。
「ルカ様。レオーレ様がご帰還されたようですよ」
「ホントに!?」
一か月近く会っていなかったので、リアンからもたらされた知らせは俺の心を湧きたたせた。
「出迎えたいけど、今どこに居るのかな!?」
「すぐにこちらにいらっしゃると思いますが……まずはナザール様に報告されるでしょうし、おそらくはそちらかと」
ナザール様への報告は仕事だから邪魔できないけど、ナザール様の部屋に行く前に顔ぐらいは見れるかもしれない。
「リアン、おかえりだけでも言いたいんだけど……ダメ?」
「……仕方ないですね。少しだけですよ?」
「わかってる!」
リアンから許可がでたので、白いコートを着せてもらって廊下に出る。外は雪が降っているし、回廊のようになっている廊下もとても寒い。
白い息を吐きながら同じ区画にあるナザール様の部屋へと向かえば、廊下の反対側から茶色い毛皮のコートを着たレオーレ様が歩いてきた。
「レオーレ様!おかえりなさい!」
「ルカ様!?なぜこちらに」
「レオーレ様が帰ってきたと聞いてお迎えしようと思って」
俺の着ているコートよりもふもふな毛皮を纏っているレオーレ様に抱き着けば、手袋越しにレオーレ様が俺の頭を撫でてくれる。
子供っぽいと怒られたらどうしようかと一瞬よぎったけど、優しくなでてくれる手に甘える様にすり寄った。
「わざわざ寒い中ありがとうございます」
「少しでも早く会いたかったから」
レオーレ様が仕事で大神殿を出る事は多々あれど、俺がいるからか長くても一週間……二週間なかったくらいだから、今回は本当に長い間いなかったのだ。
レオーレ様のいない日々は寂しく、リアンやナザール様に心配されるくらいには大人しかったらしい。いつも通り振舞っていたと思うんだけど……俺の心の平穏にレオーレ様は必須らしい。
「そうですか」
俺の言葉にレオーレ様はその美しい顔で微笑み俺の頬を撫でる。
「私も、ルカ様と会いたくて仕方がなかったですよ」
蕩けるような慈しみと優しさあふれる微笑みを直視し、顔にボッ……!っと、熱が昇った。倒れなかっただけ褒めてほしい。
「これからナザール様への報告があるので、終わったらルカ様のお部屋に向かいます。この一か月、なにをして過ごしていたかお聞かせ願えますか?」
「うん……れ、レオーレ様が何をしてきたかも聞いていいですか?」
「もちろん」
最後にもう一度頭を撫でてもらってからレオーレ様から離れる。
「リアン、ルカ様を部屋まで頼む」
「かしこまりました」
レオーレ様に一礼したリアンと共にナザール様の部屋へと入っていくレオーレ様を見送り、部屋へと戻る事にした。
「リアン、レオーレ様とのお茶会の準備をお願いできる?」
「はい。冬の旅路は凍えたでしょうから、温かな紅茶とそれに合う茶菓子を用意しましょうね」
「ありがとう」
リアンと一緒に冷たい風の吹く廊下を歩く。それなのに心はわくわくして寒さを感じなかった。
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