虐げられた召喚勇者は人外魔王に愛される

海野璃音

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勇者視点

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 異世界に召喚されて勇者になるなんて僕には縁のないことだと思っていた。ゲームやマンガ、小説の主人公のように勇気も正義感もない。そんな主人公達に憧れてはいたけど、僕は弱虫で痛いことも怖い事も苦手だったから、憧れるだけでいいと思っていたんだ。
 放課後、図書室でいつものよう図書委員として本の整理をしていたら、突然足元が光って知らない神殿のような所にいた。辺りには神官のような人と王様みたいな人がいて、勇者として魔王を倒せって言われた。
 そんなの無理ですって言っても聞いてくれなくて、訳もわからぬままに騎士団の訓練に混ぜられて、容赦なく叩きのめされた。毎日、毎日、体がボロボロになるまで木剣で殴られる。殴られる痛みに慣れてきたら、今度は真剣で切られた。何があっても剣を落とさぬ訓練だって言われたけど、周りの騎士はそんな事してない。皆、僕がボロボロになっていくのを楽しそうに見ているだけだった。
 死なれては困ると、訓練が終わるたびに回復魔法をかけられたけど、どうせならそのまま死なせて欲しかった。何度も何度も痛めつけられる日々が続き、僅かに動けるようになったら、一人の騎士と魔法使いを付けられて城から放り出された。
 騎士は、次期団長候補とか言われてるけど、訓練中に一番僕を楽しそうに甚振ってきた男で、魔法使いは賢者の卵とか言われてるけど、騎士の友人で訓練中僕を罵りながら回復魔法を使ってきた男だった。最悪としか言えないパーティーメンバー。そして、本当にこれが悪夢の始まりだったんだ。










「おら、もっとケツ締めろ!」
「ぁ……がっ……」

 騎士に犯されながら首を絞められる。旅が始まってすぐ、ろくに精処理ができないからと無理矢理犯された。最初は抵抗したけど、容赦なく殴られた。泣き叫ぶ僕の懇願は騎士を興奮させるように作用したようで、慣らしもせずに突っ込まれたお尻は裂け、血塗れになった。それからずっと、騎士の都合のいいように犯され続けている。時には魔法使いすらも犯してくるから最悪だ。

「っ……!」
「ぃあ……ぁ……」

 中で騎士が何度目になるかわからない精液を吐き出した。首を絞められ、酸欠の頭でこれで終わって欲しいと願う。その願いが聞き届けられたのか、満足したらしい騎士は僕から離れ、自分の部屋に戻っていった。
 重い体を何とか起こし、この世界に来て覚えた魔法で体を清める。それでも、中に出されたものは自分で掻き出すしかなく、それがすごく惨めで僕の心を蝕んでいく。
 汚れたシーツと毛布をベッドから剥がし、野営用の毛布を鞄から引っ張り出して包まる。体が痛い……朝起きたら魔法使いに魔力の無駄とか言われながら罵られながら治されるんだろうなぁ……。僕が悪いわけじゃないのに……。もうやだ……。こんな世界……。










 何度嘆いても、現実は変わらない。恐怖と暴力に支配されながら僕は旅を続ける。心に刻まれた恐怖は、僕が騎士や魔法使いより強くなっても根深く残り、二人に言われるがままに従い、犯され、嬲られる。
 どんどん擦り切れていく心。魔王を倒せば何か変わるのだろうか……いや、変わらない。きっと僕は二人やあの国の王様に支配され続けるのだろう。いっそ……魔王に殺されてしまいたい。こんな世界の為に働きたくなかった。









 目の前に、魔王の住処とされるお城がそびえ立っている。ほんの僅かに殺してもらえるかもという期待と共に魔王城へと足を踏み入れた。何もいない……静かなお城って怖いんだな……。まあ、お城自体にいい思い出ないんだけどね……。
 邪魔が入らないからあっさりとお城の奥にあった玉座がありそうな扉の前まで来た。僕が先頭で扉を開ける。
 大きな広間の向こう。少し高くなった所に魔王は居た。王座に座り、僕達を見下ろしている。人の形をしているけど、全身が黒い。そして、強大な魔力がその体から放たれていた。
 側にいる魔法使いなんて目じゃないくらい……僕よりずっと強い魔力に恐ろしさから息を飲む。でも、この魔王なら殺してくれるかもしれない。そう思って、一歩踏み出し……背後から聞こえた破裂音に足を止めた。

「えっ……?」

 服を濡らす生暖かく鉄くさい液体。振り返れば、僕の後ろにいた二人は中から破裂したかのように幾つもの肉片を撒き散らしていた。もう、何が誰か……わからない。

「えっ……?」

 今まで僕を支配していたものが死んだ。それを理解した瞬間、力が抜ける。死んだ。二人が死んだ。もう、僕を見張るものはいない。もう……頑張る必要もない。張り詰めていた糸が切れたような気がした。
 血溜りと肉片の中に座り込み、騎士と魔法使いだったものをぼんやりと眺める。王座に座っていた魔王がゆっくりと動く気配がしたけど、もう動く気力なんてない。自分がどうなるかも興味がわかなかった。
 すぐ側まで魔王が近づき、ようやく顔を上げる。そこには黒いミミズのような触手が絡まり、人の形をしているような魔物がいた。うごうごと蠢く触手。普通は気持ち悪いと思うんだろうけど、壊れた僕にはただそこにあるだけの何かでしかなかった。
 魔王が手らしきものを伸ばす。それをじっと見ていたら、頬を撫でられた。優しく、壊れ物を触るかのように魔王は僕を撫でる。この世界に来て初めて触れる優しさだった。

「あ……ぁ……」

 涙がボロボロと零れる。壊れた心でも、泣けるんだななんて思っていたら、魔王の指が僕の涙を拭う。それがあまりにも優しい手つきだったから、僕は異形の魔王に縋りついて、子供のように声をあげて泣いた。
 縋りつく体は脆そうな触手の固まりなのに僕をしっかり受け止め、宥めるように背中を撫でる手はやっぱり優しい。
 泣いて、泣いて、泣き疲れて、だんだんとぼんやりとしてきた僕の頭を魔王が撫でてくれる。あまりの心地よさに意識がゆっくりと沈んでいく。……このまま、食べられてもいいな。なんて思いながら僕はゆっくりと眠りについた。










 目を覚ますと僕は王座に座る魔王の膝の上にいた。魔王の手は僕の腰をしっかりと抱いていて、抜け出せそうにない。少し困って魔王を見上げる。すると僕が起きた事に気づいたのか魔王は僕を覗き込むように頭を動かした。
 触手が絡まる魔王の顔に目はないのに、なんとなく目が合ったような気がする。なんか不思議な感じだ。魔王と見つめ合っていたけど、魔王は僕を放すつもりがないようで仕方なくその胸に寄りかかると、魔王は満足げに僕の頬を撫でる。不思議な事に魔王はすごく優しかった。ただ、ここに居るだけで甘やかしてくれるような気がする。
 こうして、僕のただ魔王に甘やかされる日々が始まった。










 僕の一日は魔王の膝の上で始まり、膝の上で終わる。丸一日。起きてから寝るまで。僕は魔王の膝から降りることはない。
 排泄とか食事とか、なんだかわからないけど今の僕の体には必要ないみたいでただただ魔王の膝の上で愛でられて一日が終わる。
 外見からエッチなことしそうだけど、そんな事をすることもなく、本当にただ頭や頬を撫でられるだけだった。
 正直、エッチなことに関しては、犯された事がトラウマになってて、恐怖しかないから助かる。でも、ずっとこうして魔王に甘やかされていると、何かしなきゃいけないんじゃないかなって気がする。
 気のせいなんだろうけど……でも、染み付いた奴隷根性って抜けないんだ。ようやく解放されたのに、馬鹿みたい。大人しく甘やかされてればいいのに、何か返さなきゃって思うんだもの。
 今の僕に出来る事なんて、体で奉仕するくらいしかない。なんて頭に過ぎった時、思わず絶望して泣いてしまった。
 ぐずる僕を困ったように魔王は撫でてくれる。だから、伝わるかわかんないけど、思ってることを全部話した。
 僕が話し終わると魔王は僕の手を取って、手の甲にキスをするような動きをする。それを驚いてみていたら、僕を見た魔王が笑った気がした。
 僕の頬に魔王の手が伸びる。額にキスされて、鼻に、頬に。次々とキスをされた。突然の行動に戸惑うけど、嫌な感じはしない。唇が重なる。そういえば、あの二人はキスなんてしてこなかったからこれがファーストキスだと気づいて、顔が熱くなった。
 唇を、舐めるように触手が動き、それを最後に魔王が離れていく。名残惜しくて視線で追ったら、魔王が笑って、額にもう一度キスが落とされた。
 ぎゅっと抱きしめられて、頭を撫でられて、ここで僕はようやく自分がペットとして甘やかされているのではなく、人として愛されているのだと気づいた。この世界で、人として扱われてなかった僕を人に戻してくれたのは魔王で、壊れた心を癒すように穏やかな愛で包んでくれる。
 悩む必要なんてなかった。きっと僕は愛されているだけでいいのだ。返すのは、僕が全てを愛して欲しいと思った時でいい。そう思って、魔王の胸に頬を寄せた。










 あの日から、僕と魔王の日課にキスが加わった。啄ばむような軽いキスも、舌代わりの触手と絡めあうような深いキスも。どちらも僕に愛されているという幸福感を与えてくれた。

「ぁ……」

 キスをされながら、太ももを撫でられる感覚に身を震わせる。でも、それだけだった。魔王は、時折こうして触れてきては僕の反応を伺う。少しでも嫌がれば、すぐ手を止めて宥めるようにキスの雨を降らしてくれる。本当に優しい。僕はそんな魔王が大好きだ。
 舌を絡め取っていた触手が名残惜しそうに離れていく。変わりにこれで終わりというようなキスが額に落ちた。
 僕は、魔王に縋りながら呼吸を落ち着かせる。でも、今日は体の熱が治まらない。もっと、魔王と触れ合いたい。愛されたい。そんな欲求が僕の中で渦巻く。

「ねぇ……いいよ……」

 魔王を見上げ、ねだる。

「もっと、愛して……」

 僕の言葉にもう一度唇が重なった。口の中を触手で愛撫されて、甘い声が鼻から抜ける。手を形作る触手が解け、ゆっくりと服の中に入ってきて、肌を撫でていく。くすぐったいような感覚は徐々に快楽となって僕の体に染み込んでいった。

「あっ……ぁ……きもちいい……」

 キスに酔っているうちにいつの間にか服は脱がされ、僕は魔王の膝の上で、裸のまま全身を愛撫されていた。魔王の体を作る触手は半分ほど解け、僕の体を包み込むように撫で、心地のいい快楽が広がっていく。

「んっあ……」

 粘液に濡れた細い触手が今から中に入るというようにお尻に擦り付けられる。あの二人に犯された時の恐怖が蘇るかと思ったけど、魔王の愛撫はすごく優しくて、あれとは全然違うものだと感じ、ただただ愛されるがままに受け入れた。

「あっ、あっ……そこ……ぃい」

 気持ちいい場所を擦られて、声が上がる。優しく、ほぐすように何度も何度も、細い触手が中を擦った。

「んっ……!」

 褒めるようにキスが落ちてくる。嬉しくて僕から舌を絡めた。キスしている間にどんどん触手がお尻に入ってくる。でも、痛みはまったくなくて、愛されているという心地よさだけが僕を満たした。

「ぁ……すき……だいすき……もっと……」

 愛される快楽にずぶずぶと溺れていく。そんな僕を魔王は愛おしそうに抱きしめてくれた。









 荘厳な魔王城の玉座の上で、僕は魔王に愛されながら一日を過ごす。キスしたり、エッチしたり、日によって違うけど、僕がお願いしたらお願い通りに愛してくれる。
 この世界は大嫌いだったけど、魔王がいるこの世界は悪くない。魔王が愛してくれる限り僕は幸せだ。
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