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六章:夏休みとキャンプ

66:釣り堀

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「渉!釣れた!釣れたー!」
「お、やったじゃん」

 釣り堀に来た三人は、貸出されている竿と釣り餌を持って各々釣りに励む。戦果としては、釣り慣れている渉が一番多く、次に侑士、最後にはしゃぐ二人を見ながらのんびりと釣る穂。

 平和な釣りタイムだったが、穂の周りが静かなわけではなかった。

「きゃー!誰か取ってー!」

 穂に恋人がいると知っても、諦めない一部の女子学生が近くを陣取って、釣り上げた魚を取ってもらおうとしていたからだ。

「あ、釣れたんだ。取ってやるよ!」
「え、あ……ありがとう……」

 だが、それが功を成すとは限らず、侑士や男子学生、他のキャンプ客が彼女らへと助け舟を出す。目的の人物ではなくとも、無下にできるわけもなく自らの失策を後悔するような表情を浮かべていた。

「おなごというのは、強かな事だ。無力を装い男をだますのだからな」
「狙いのお前に通じてないだけ、可哀想だけどな」
「ふふっ、お前がそんな事を言うのか?」

 女子を庇うような言葉に穂の視線が渉へと刺さる。

「一般論だよ一般論。……引っかかってくれるなよ?」
「かからんさ」

 渉の伺うような視線に穂は笑い、そんな穂に肩を竦めながら渉はバケツに入ったニジマスを数える事にした。

「│二、四、六、八、九《にー、しー、ろー、はー、きゅ》……昼飯分ぐらいは釣れたし、そろそろ終わるか。侑士ー!俺ら飯にするけど、どうするー?残るならお前の分、分けるけどー!」
「おー、今行くー!」

 穂目当ての女子に挫けぬ下心を持ちつつ、助けに回っていた侑士が渉の声に返事をした。

「なんか、増えてね?」

 女子学生の元から戻って来た侑士がバケツを覗き込み、首を傾げる。

「お前が女の子構ってる間に穂が釣ってた」
「え、もしかして俺……穂に数負けた?」
「負けてるなー」
「マジかよー!」

 数としては、渉が四匹、穂が三匹、侑士が二匹。釣果としては、食べるのに困らないくらいなので良好と言ったところだが、のんびりと釣りをしていた穂に負けた事を侑士はがっかりしていた。

「で、どうする?全部焼いてもらうか?持ち帰る事もできるから、夜のバーベキューに回す事もできるけど」
「全部焼いてもいいんじゃね?一人三匹は食えるだろ」
「ナチュラルに俺の釣果持ってこうとすんじゃねぇよ。いいけどさ」
「マジで!言ってみるもんだなー」

 侑士と軽口を叩きながら、渉は釣り堀の管理所に向かい、釣果分の金額とニジマスの調理代を払う。

「ほう、代金を支払えば、調理もしてくれると」
「こういう釣り堀は大体調理してくれる事が多いかな。魚の金額に関しては、一匹当たりだったり、重さだったりで変わるけど」

 管理所に隣接している休憩所の席に座りながら、ニジマスが調理されるのを待っていると、穂目当ての女子学生が渉達に続くように入ってくる。それでも、一部は欠片も靡かない穂に見切りを付けて、釣り堀で捕まえた男子と共に入ってきたのだが。

(強かだなぁ……)

 女子特有の強かさに遠い目をしながら、渉は正面に座る侑士へと視線を向ける。

(侑士も俺らについてこずに女子についていればチャンスがあったものを……)

 友人としては、選んでくれた事が嬉しくもあるが、恋人募集中な侑士の事情を知っている為に、ニジマスが調理されるのを楽しみに待っている侑士のどこかズレた所に渉は苦笑した。
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