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四章:穏やかな日常

52:落ち着く体温

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「片づけは明日にして寝ようぜ」
「そうだな」

 散らかった部屋を見なかった事にした渉に穂が苦笑しながらも頷き、ベッドから降りる。

「あれ、下で寝んの?」
「お主が床で寝るように言っただろう?」

 およそ四時間前の事を思い出しながら渉は悩む。

(そういえばそうだった。でも、客を床で寝かせるのって悪くねぇか?穂、神様でもあるし……俺が床で寝るべき?)

 床に座った穂を見下ろしながら、首を捻った渉は、穂へと言葉を向けた。

「あー……やっぱ客を床で寝かせるの抵抗があるから穂ベッドに寝ろよ。俺が床で寝るからさ」

 頬を書きながらばつが悪そうに呟く渉に穂は首を傾げる。

「寝台は、家主のお主が使うべきでは?」
「いやいや、俺は床でも気にせず寝れるし気にすんなって」

 穂の言葉に渉が立ち上がろうとすると穂は、渉を手で制し、立ち上がった。

「では、折半案といこう」
「へっ?」
「以前のように二人で寝台に寝ればいい」

 事もなくそう告げた穂が渉の体を寝台へと押し倒し、その横に横たわる。

「あっ、ちょ……穂!狭いだろ!?」
「気にならん。それに、お前は抱き心地がいいからなよく眠れそうだ」
「なっ!?だから、俺は抱き枕じゃねぇって!」

 さも当然と渉の体を抱き抱える穂に渉が抗議の声をあげるが、穂は渉の腰を抱えた腕とは反対の手で渉の唇へと指をあてた。

「っ!?」
「周りに迷惑になる。良い子にな」

 近距離で微笑まれ、渉は言葉を失う。

「良い子だ」

 落ち着いた柔らかい声が渉を褒め、唇に指を当てていた手が離れると、渉の頭へと伸び、髪をすくように撫でた。

「……子供扱いすんなよ」
「我からしたら人の子は皆、幼子よ」
(出た、神様ムーブ)

 子供扱いを不服と声をあげる渉だったが、煙巻くような穂の答えに眉を寄せる。だが、頭を撫でる手も、抱き締められた体に感じる穂の温もりも心地よく、渉の意識は睡魔へと襲われた。

(でも……なんだか寝たくない)

 眠らなければならないのはわかっている。しかし、昼間のホラー映画を見たからか自分で寝ようと言ったのに、渉は寝る事が恐ろしかった

「っ……」
「眠れ、渉。今度は、誰にも触れさせんよ」

 睡魔に抗おうとする渉に穂が囁く。それだけで渉の心は落ち着き、安堵した。

「……うん」

 渉は、その言葉に頷くと睡魔への抵抗を止め、瞼を閉じる。そして、穂の体温を感じながら穏やかな眠りにつくのだった。

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