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三章:寝不足

40:一つだけのお守り

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 二人で話しながら歩いていると、何かを思い出したかのように穂が口を開く。

「そういえば……渉。お主、我が社で買った護りを持っておるだろう?」
「え、ああ……持ってるけど?」
「少し貸して貰えるか」
「うん」

 差し出された穂の手に、渉は素直に鞄のポケットに入れていた厄除け守を渡す。

「量産品とはいえある程度の加護はあるが……渉の気質考えるとあまりに弱い」
(……まあ、お守り買って五日目にあれに取り憑かれてたっぽいし、ほとんど効果なかったんだろうな……)

 穂の言葉に実感を感じながら、苦い笑みを浮かべてしまった。

「いささか、抵抗はあるだろうが……この護りに我が髪を一房入れようと思うのだ」
「……なんで?」

 なぜ、厄除け守に穂の髪を入れるのだろうか?と、首を傾げる渉に穂は口を開く。

「前に口づけでお主の気質を隠しただろう」
「う、うん」
「あれと似たようなものだ。唾液では、隠しきれなくとも髪であれば、より強い神力が宿っている。持っているだけでも十分な効果があるだろう」

 そう説明しながら穂は、厄除け守の口を開き、すでに切り落としていたらしい一房の髪をその中へと入れる。

「肌身離さず持っていろ」

 厄除け守の口を閉じ、鞄から取り出した長めの赤い組紐を厄除け守の結び紐にくくりつけると、穂はその厄除け守を渉の首へとかけた。

「風呂は?」
「ビニール袋にでも入れて浴室内に置いておけばいい」

 なんとなく尋ねた言葉に、予想外の返答が返ってきて渉は呆気に取られる。

「……なんだ?」
「いや……穂の口からビニール袋って言葉が出るとは思わなくて……」

 古めかしい口調ゆえに、穂の語彙は古いものばかりだ。それゆえにカタカナ言葉が出てきた事に渉は驚いた。

「長く存在しているのだから今時の言葉もわかるに決まっておろう。……ほれ、スマートフォンも持っておる」

 そう言って穂が鞄から取り出したのは、真新しいスマートフォンである。

「うわ、マジだ……しかも、最新機種だし……てか、戸籍と契約とかどうなってんだよ」
「秘密だ」

 渉の問いに意味ありげに笑う穂。

(やっぱ、神様ってわかんねぇわ……)

 謎過ぎる穂にじとりとした目を送る渉だが、穂は気にする事もなく、スマートフォンを操作する。

「ほれ、これが我の番号だ。登録しておけ」
「……わかった」

 渉は、差し出された画面に移る番号を登録し、通話アプリへも同期させておく。

「助けを求められれば駆けつける事はできるが、かといって通常の連絡手段がないのも困るでな。何か、尋ねたい事でもあれば、それで連絡するといい」
「うん……何から何までありがとな」

 謎の多い男だが、それでも渉を守ろうとしてくれている事は理解していた。その事に感謝しながら、渉は登録された番号を眺め、スマートフォンを鞄へとしまう。

「そろそろ大学も近い。現世に渡るぞ」
「うん」

 穂から差し出された手に渉は手を重ねる。そして、ほんの瞬きの間に人の気配のする世界へと戻ってきた。
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