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1.イケ好かない男
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「まだ冒険者を続けているのかシモン」
冒険者ギルドで依頼の報酬を受け取っていたら、俺が誰よりも嫌いなやつの声が後ろからした。
「うるせぇハインツ。そう簡単に辞めてたまるか」
受付嬢から受け取った報酬を鞄に入れながら振り返り、相手を睨む。
背後には、金色の長い髪を靡かせ、暑苦しいローブを纏ったイケ好かない男の姿。
その容姿はすれ違った女が十人中百人は振り返りそうなほど整っており、青い瞳が冷たい表情をさらに冷たく感じさせていた。
俺のような短い焦げ茶色の髪に茶色い目と言う地味の申し子のような存在とは、明らかに違う嫌味なまでに顔の整ったその男は、この町の冒険者ギルドの出世頭。Sランク冒険者のハインツ。
魔法の天才と呼ばれ、俺が最も嫌いで気にくわない男だった。
「一人では限界があるだろうに……」
などと言葉を続けたハインツが肩をすくめる。
自分は、一人でSランクになったっていうのに俺には無理だってか?
だが、その言葉は俺には当てはまらない。
「はん! 残念だったな。ついさっき領主からの指名依頼を終えて、Sランクになったばかりだ。お前ばかりがSランクだと思うなよ!」
受け取ったばかりのSランクカードをハインツに突きつければ、氷のように無表情だったハインツの顔が歪む。
「なぜ、お前に領主からの指名依頼が……」
「お前が長期の依頼に出てたからな。急ぎの依頼で、俺に回ってきたのさ。お前の代わりってのは面白くないが……これでお前にでけぇ顔されないで済むってならバンバンザイだ」
いつも表情の変わらないハインツの顔を歪めさせれたのが嬉しくて、口の端が上がる。
「……でかい顔をしているつもりはないのだがな」
「なにをー!」
肩を竦めたハインツに思わず拳を握る。
「シモンさん。ギルド内での争い事はご法度です。ハインツさんも、不必要にシモンさんを煽らないでください」
「わ、わりぃ」
俺達の様子を見ていた受付嬢から注意が入り、握りこんだ拳をほどく。
せっかくSランクに上がったのにこんなことで降格とか勘弁願いたいからな。
「とりあえず、お前から遅れようがこれで同格だ! もう二度と今までみたいに突っかかってくんなよ!」
金輪際関わりたくない! という、意思を示すようにハインツを指差したら、ハインツが呆れたように首を振る。
「最初に突っかかってきたのはお前だろう」
「何年前の話だ!」
「十四年前だ」
「ぐっ……!」
「私がDランクに上がったその日に文句を言われた」
「うぐぅ……!」
若い頃……それこそ、冒険者になって半年のハインツに絡んだ時の事を正確に告げられて、突きつけた指が弱々しく曲がる。
確かに最初に因縁をつけたのは俺だった。
まだ、俺が十六で、ハインツが十五の時の話である。
俺より半年遅れて冒険者になったハインツが、あっさりと見習いであるFランクからDランクへと上がった事が許せなくて、言いがかりをつけたのだ。
そして、見かねたギルド長が俺達に模擬戦をするように命じ……俺は、こてんぱんに負けた。
ハインツは、魔法だけではなく、剣も強かったのだ。
剣だけなら負けないと思っていた俺は、ハインツに手も足も出ず、それはそれは落ち込んだ。
おそらく、あれが初めての挫折だっただろう。そして、俺とハインツの因縁の始まりだった。
その一件で、他人に興味のないハインツが俺の事を認識したのだ。
俺と顔を会わせる度に「まだ冒険者をやっているのか」と、言われた。まるで、俺には才能がないとでも言うように。
それが悔しくて悔しくて、冒険者を続けた。
ある意味一種の意地だろう。
体を鍛え、剣の腕も磨いた。魔法じゃ勝ち目はないとわかっていながらも、身体強化の魔法だけは訓練を続けた。
鍛練を続けたおかげか、それとも身体的には恵まれていたのか、身長は伸び、ハインツを見下ろせるくらいにはなったし、筋肉だってそんじょそこらの冒険者には負けないくらいについた。
それでも、ハインツは魔導師として活躍し、あっという間に遠い遠い存在となった。
だけど、諦めず続けた甲斐があってようやく追いついた。これでもう馬鹿にされるいわれは無くなったのだ。
「あ、あれは、若気の至りだ! 俺もSランクになったんだから、もうお前に構っている暇はねぇんだよ!」
だからもう言いがかりつけてくんな! という思いで叫べばハインツが首を傾げた。
「……Sランクになったのなら、共同依頼を指名される事の方が増えると思うが?」
ハインツの言葉にサッと青ざめる。Sランクの冒険者は、少ない為大規模な魔物の発生などに駆り出される事がある。
その際に発生する依頼が共同依頼だ。
Sランクの冒険者だけで構成される臨時パーティーとでも言えばいいだろうか。
俺みたいなぺーぺーSランクからしたら先輩のSランクと組める機会は貴重だが……。
「お、お前なんかと組んでたまるか!」
ハインツとだけは無理だ。
絶対に何かある度に嫌みを言われるし、四六時中一緒に行動するなんて無理だった。
「……共同依頼を断ると降格だぞ?」
「お前とだけが無理なだけだから勘違いすんな! とりあえず、もう俺に声かけんじゃねぇ!」
もう一度、ハインツに指を突きつけて、俺はハインツの横を通りすぎる。
これ以上ギルドに居たら本当に問題を起こして降格させられるかもしれないからだ。
それに……長い間、ハインツの冷めた表情を見ていたくなかった。
冒険者ギルドで依頼の報酬を受け取っていたら、俺が誰よりも嫌いなやつの声が後ろからした。
「うるせぇハインツ。そう簡単に辞めてたまるか」
受付嬢から受け取った報酬を鞄に入れながら振り返り、相手を睨む。
背後には、金色の長い髪を靡かせ、暑苦しいローブを纏ったイケ好かない男の姿。
その容姿はすれ違った女が十人中百人は振り返りそうなほど整っており、青い瞳が冷たい表情をさらに冷たく感じさせていた。
俺のような短い焦げ茶色の髪に茶色い目と言う地味の申し子のような存在とは、明らかに違う嫌味なまでに顔の整ったその男は、この町の冒険者ギルドの出世頭。Sランク冒険者のハインツ。
魔法の天才と呼ばれ、俺が最も嫌いで気にくわない男だった。
「一人では限界があるだろうに……」
などと言葉を続けたハインツが肩をすくめる。
自分は、一人でSランクになったっていうのに俺には無理だってか?
だが、その言葉は俺には当てはまらない。
「はん! 残念だったな。ついさっき領主からの指名依頼を終えて、Sランクになったばかりだ。お前ばかりがSランクだと思うなよ!」
受け取ったばかりのSランクカードをハインツに突きつければ、氷のように無表情だったハインツの顔が歪む。
「なぜ、お前に領主からの指名依頼が……」
「お前が長期の依頼に出てたからな。急ぎの依頼で、俺に回ってきたのさ。お前の代わりってのは面白くないが……これでお前にでけぇ顔されないで済むってならバンバンザイだ」
いつも表情の変わらないハインツの顔を歪めさせれたのが嬉しくて、口の端が上がる。
「……でかい顔をしているつもりはないのだがな」
「なにをー!」
肩を竦めたハインツに思わず拳を握る。
「シモンさん。ギルド内での争い事はご法度です。ハインツさんも、不必要にシモンさんを煽らないでください」
「わ、わりぃ」
俺達の様子を見ていた受付嬢から注意が入り、握りこんだ拳をほどく。
せっかくSランクに上がったのにこんなことで降格とか勘弁願いたいからな。
「とりあえず、お前から遅れようがこれで同格だ! もう二度と今までみたいに突っかかってくんなよ!」
金輪際関わりたくない! という、意思を示すようにハインツを指差したら、ハインツが呆れたように首を振る。
「最初に突っかかってきたのはお前だろう」
「何年前の話だ!」
「十四年前だ」
「ぐっ……!」
「私がDランクに上がったその日に文句を言われた」
「うぐぅ……!」
若い頃……それこそ、冒険者になって半年のハインツに絡んだ時の事を正確に告げられて、突きつけた指が弱々しく曲がる。
確かに最初に因縁をつけたのは俺だった。
まだ、俺が十六で、ハインツが十五の時の話である。
俺より半年遅れて冒険者になったハインツが、あっさりと見習いであるFランクからDランクへと上がった事が許せなくて、言いがかりをつけたのだ。
そして、見かねたギルド長が俺達に模擬戦をするように命じ……俺は、こてんぱんに負けた。
ハインツは、魔法だけではなく、剣も強かったのだ。
剣だけなら負けないと思っていた俺は、ハインツに手も足も出ず、それはそれは落ち込んだ。
おそらく、あれが初めての挫折だっただろう。そして、俺とハインツの因縁の始まりだった。
その一件で、他人に興味のないハインツが俺の事を認識したのだ。
俺と顔を会わせる度に「まだ冒険者をやっているのか」と、言われた。まるで、俺には才能がないとでも言うように。
それが悔しくて悔しくて、冒険者を続けた。
ある意味一種の意地だろう。
体を鍛え、剣の腕も磨いた。魔法じゃ勝ち目はないとわかっていながらも、身体強化の魔法だけは訓練を続けた。
鍛練を続けたおかげか、それとも身体的には恵まれていたのか、身長は伸び、ハインツを見下ろせるくらいにはなったし、筋肉だってそんじょそこらの冒険者には負けないくらいについた。
それでも、ハインツは魔導師として活躍し、あっという間に遠い遠い存在となった。
だけど、諦めず続けた甲斐があってようやく追いついた。これでもう馬鹿にされるいわれは無くなったのだ。
「あ、あれは、若気の至りだ! 俺もSランクになったんだから、もうお前に構っている暇はねぇんだよ!」
だからもう言いがかりつけてくんな! という思いで叫べばハインツが首を傾げた。
「……Sランクになったのなら、共同依頼を指名される事の方が増えると思うが?」
ハインツの言葉にサッと青ざめる。Sランクの冒険者は、少ない為大規模な魔物の発生などに駆り出される事がある。
その際に発生する依頼が共同依頼だ。
Sランクの冒険者だけで構成される臨時パーティーとでも言えばいいだろうか。
俺みたいなぺーぺーSランクからしたら先輩のSランクと組める機会は貴重だが……。
「お、お前なんかと組んでたまるか!」
ハインツとだけは無理だ。
絶対に何かある度に嫌みを言われるし、四六時中一緒に行動するなんて無理だった。
「……共同依頼を断ると降格だぞ?」
「お前とだけが無理なだけだから勘違いすんな! とりあえず、もう俺に声かけんじゃねぇ!」
もう一度、ハインツに指を突きつけて、俺はハインツの横を通りすぎる。
これ以上ギルドに居たら本当に問題を起こして降格させられるかもしれないからだ。
それに……長い間、ハインツの冷めた表情を見ていたくなかった。
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