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本編

20:母の料理

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 ヒルドに運ばれて、たどり着いた厨房……の、大食堂。

 基本的には使用人とかが使う場所らしいけど、今日はここの広い所を三人で独占らしい。

 ヒルドが俺を椅子に座らせ、メディがシチューやパンをテーブルに並べてくれる。

「簡単なものですまんの」
「いや、メディのシチュー好きだから嬉しいよ」

 旅の途中、飯は俺かメディしか作らなかった。

 なんたって聖女は、貴族生まれ神殿育ち。騎士も貴族生まれ、貴族育ちのご令嬢方だ。

 世話は全部付き人がやるのが当たり前のヤツら。メディが仲間になるまでは、俺が世話役だったのだ。勇者なのに。

 なので、料理や野営の準備を手伝ってくれるメディの存在はありがたかった。

 まあ……あの聖女野営嫌がって、同行しなかった事もチラホラあるんだが……。

 当時を思い出して、内心ため息を吐きながらもシチューを頬張る。

 肉の旨味と野菜の旨味をミルクのまろやさかが包んでて旨い。

 食べたら空腹を思い出してもぐもぐと食べ続けていたのだが、俺の正面に座るヒルドもシチューを食べている。

 まあ、その食べ方は俺とは全然違ったんだけど。

 さっき聞いた通り水分しか取らないのか、具を選り分けたスープだけのシチューを指先から伸ばした触手で吸っている。

 熱くないのかな? と、思ったがあの聖剣の爆発に耐えたヒルドである。

 このシチューの熱さも気にならないのだろう。

「ヒルドは、昔からこれ食ってたのか?」
「うむ、母上のシチューは好物の一つだ。お前のように固形物が食べられないのが惜しいくらいだ」

 俺の問いに、ヒルドが無念そうに答える。

 確かに、具もあっての旨さだろうしなぁ……もったいないといえばもったいない。

 ってか、ヒルドがシチューっていうの響きがかなり可愛いな。

「妾は、お主らの食べっぷり見てるだけで嬉しいがの。ほれ、もっと食べるとよい」

 食べている側から追加をよそってくるメディ。

 見かけ美女なのにヒルドの母親二百年もやってたらただの母親になるんだな。

 メディのよそうシチューもりもりと食べて腹を満たす。食える幸せはいいもんだ。

 ただ……食い終わったら、またヒルドに抱っこされそうなんだよなー……堪えれるか俺?

 シチューを食べながらもそんな事を考えていたら、シチューの鍋が空になる。

 結構あったのに食ったな。具は俺がほとんど食ったからちょっと自分でも驚く。

 旅の間は、四人だったし、食料配分も決めてたからこんなに食えなかったんだよ。

「よく食べたのぅ……」
「俺もビックリ」
「明日には、料理人達を呼び戻すが……一言告げておくか」
「あー、いいよ? 別に普通の量でも」

 食べなくても問題ないっちゃないし、迷惑かけられないしな。

「いや、伴侶……と、なるものを飢えさせるのは我が沽券に関わる。満たしてやってこその伴侶だろう」

 やだ、俺の好きな人かっこいい……。

 心が乙女になりながら、食い意地までキュンとする。

「さて、食べ終えたし戻るとしよう」

 そう言って、俺を抱えに来たヒルドに乙女心発動中の俺は気を失ったのだった。
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