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第二部:王様に嫁入りした側妃ですが子供達の未来に悩んでいます
71:明かりの落ちた部屋[シュロム視点]
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手を繋いだままのディロスの手から力が抜ける。
子供達が寝てからもしばらく話していたのだが、徐々に言葉がもたつき始め、ついに眠りに落ちたようだった。
「明かりを落としてくれ」
控えている侍従に指示を出す。
僅かに残されていた明かりが消され、あたりが暗闇に包まれた。
暗闇の中に子供達とディロスの寝息が響く。
眠りにつくまでのこの静かな時間も嫌いではない。
だが、静かだからこそ物思いにふけてしまうのでもあるが。
繋いだままの手を離し、ティグレを挟んで眠るアグノスの頭を撫でる。
ディロスや子供達には、いつも通りになりつつあるが……俺とは、まだ距離を感じる。
おそらくは、ディロスが妃教育を受けるようになったのを俺のせいだとどこかで感じているのだろう。
もちろんそれは、アグノスの感じている通りであるし、俺にもその自覚はある。
初対面でこそ警戒されたが……それ以降は、人懐こい性格ゆえに距離をとられた事はなかった。
ゆえに寂しいと思うのは、俺も甘くなったと言う事なのだろう。
イリスィオ。王家を裏切った。捨てようとした弟。
以前の俺であれば愚弟と切り捨てた存在の落胤。
それなのに、ほんの少し距離を置かれるだけでこうも落ち込むとは……。
二年前……もし、アグノスがイリスィオのように王家へと背く事があれば、その首を落とす覚悟をしていたと言うのに……王としてなんとも不甲斐ない事だ。
今の俺に、手を下せるのか……と、言われたら下せるだろう。
だが、イリスィオが亡くなった時より、隠されていた異母弟であるリスティヒを手にかけたより、俺は後悔するに違いなかった。
異母弟達を切り捨てたのは、俺が王として、王太子として、兄として未熟だったからだと思うことがある。
イリスィオに寄り添っていれば、あれも反逆に手を貸す事もなかったのかもしれない。
先王の愚行に罰を与えずに手を下していれば、貴族達の反感をより少なくできていたのかもしれない。
しかし、それらはすでに過ぎた事。
後悔しても取り戻す事のできないものだった。
善き王であろうと生きてきた。
だが、取りこぼしたものは多かったのだと思う。
だからこそ、これ以上の後悔はしたくない。
アグノスに対しても、この国の未来に対しても。
ディロスとの記憶に差異はあれど、国が荒れる可能性は、残っている。
それをどう防ぐか。退けるか。家族についても、国についても、悩みはつきなかった。
子供達が寝てからもしばらく話していたのだが、徐々に言葉がもたつき始め、ついに眠りに落ちたようだった。
「明かりを落としてくれ」
控えている侍従に指示を出す。
僅かに残されていた明かりが消され、あたりが暗闇に包まれた。
暗闇の中に子供達とディロスの寝息が響く。
眠りにつくまでのこの静かな時間も嫌いではない。
だが、静かだからこそ物思いにふけてしまうのでもあるが。
繋いだままの手を離し、ティグレを挟んで眠るアグノスの頭を撫でる。
ディロスや子供達には、いつも通りになりつつあるが……俺とは、まだ距離を感じる。
おそらくは、ディロスが妃教育を受けるようになったのを俺のせいだとどこかで感じているのだろう。
もちろんそれは、アグノスの感じている通りであるし、俺にもその自覚はある。
初対面でこそ警戒されたが……それ以降は、人懐こい性格ゆえに距離をとられた事はなかった。
ゆえに寂しいと思うのは、俺も甘くなったと言う事なのだろう。
イリスィオ。王家を裏切った。捨てようとした弟。
以前の俺であれば愚弟と切り捨てた存在の落胤。
それなのに、ほんの少し距離を置かれるだけでこうも落ち込むとは……。
二年前……もし、アグノスがイリスィオのように王家へと背く事があれば、その首を落とす覚悟をしていたと言うのに……王としてなんとも不甲斐ない事だ。
今の俺に、手を下せるのか……と、言われたら下せるだろう。
だが、イリスィオが亡くなった時より、隠されていた異母弟であるリスティヒを手にかけたより、俺は後悔するに違いなかった。
異母弟達を切り捨てたのは、俺が王として、王太子として、兄として未熟だったからだと思うことがある。
イリスィオに寄り添っていれば、あれも反逆に手を貸す事もなかったのかもしれない。
先王の愚行に罰を与えずに手を下していれば、貴族達の反感をより少なくできていたのかもしれない。
しかし、それらはすでに過ぎた事。
後悔しても取り戻す事のできないものだった。
善き王であろうと生きてきた。
だが、取りこぼしたものは多かったのだと思う。
だからこそ、これ以上の後悔はしたくない。
アグノスに対しても、この国の未来に対しても。
ディロスとの記憶に差異はあれど、国が荒れる可能性は、残っている。
それをどう防ぐか。退けるか。家族についても、国についても、悩みはつきなかった。
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