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第二部:王様に嫁入りした側妃ですが子供達の未来に悩んでいます
57:深夜の来訪者
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しばらくアグノスとじゃれあっていたけど、やがてアグノスから寝息が立ち始める。
ずっと気分が沈んだままだったから疲れたのだろう。
穏やかなアグノスの寝顔を見ていると、僅かに扉の開く音がする。
視線を扉へと向けると、従者の一人が外の人物と話している姿が見えた。
様子を伺っていると、話をしていた従者が僕の側まできて小さな声で囁く。
「失礼しますディロス様。陛下が少しだけお会いしたいと……お通ししてもよろしいでしょうか?」
どうやら扉の向こうにいたのはシュロムだったようだ。
おそらくアグノスにかかりきりで、全然話せなかったから様子を見にきたのだろう。
「うん、いいよ」
従者の言葉に頷けば、従者は扉へと戻り、シュロムを迎え入れる。
部屋に入ってきたシュロムは、お風呂に入った後らしく寝巻きであるガウンに着替えていた。
「寝ているところすまんな」
「ううん……僕も、少し話したかったから」
「俺もだ」
アグノスを起こさないように寝たままの僕の頬に膝まづいたシュロムが触れる。その触れ方が優しくて、自然と頬が綻んだ。
「今日は大変だっただろう」
「そうかも……でも、どうってことないよ。僕は、アグノスの父親で、ティグレとイデアルの親でもあると思ってるから」
「そうか」
僕が答えればシュロムの顔に安堵したような笑みが浮かぶ。
シュロムの言うとおり今日は大変だった。
マリカ嬢とノウリッジ夫妻とのお茶会。アグノスの甘えた。ティグレの将来の夢。
一日で、普段の何倍もの事があったような気がする。
でも、僕は三人の親だから。シュロムの側妃だから……これぐらいでへこたれるわけにはいかなかった。
「だが、アグノスには悪い事をした。お前と離れるのはほとんどないことだっただろうからな」
「そうだね……僕が君に保護された日くらいじゃないかな……離れてたの。あの日よりは、短かったけど……もしかしたら怖かったのかも」
僕を撫でていた手がアグノスの頭へと移り、優しく撫でている。
アグノスと僕との距離が大きく離れたのは、僕が告発をした日以来。
あの日は、丸一日以上離れて大号泣だったから、それを考えると今日の甘えたはまだ可愛いものだったのかもしれない。
「あの時も、可哀想な事をした」
「シュロムは、最善を尽くしてくれただけだよ。それに、次の日には合わせてくれたんだから……気にしないで」
「そうか……。いや、だが……いつもお前達ばかりに苦労させている気がする」
表情を曇らせるシュロムにほんの少しだけ馬鹿だなぁと思ってしまう。
「一番苦労してるのはシュロムだよ。いつも、いろいろ考えてくれてありがとう」
アグノスを撫でる手に指を絡めて僕の方へと引き寄せる。
少し硬い指先は、シュロムが王として頑張っている証だ。
執務も、自らの鍛練も、すべて最善を尽くそうと努力している証。
それだけ悩み、頑張っている証だった。
ずっと気分が沈んだままだったから疲れたのだろう。
穏やかなアグノスの寝顔を見ていると、僅かに扉の開く音がする。
視線を扉へと向けると、従者の一人が外の人物と話している姿が見えた。
様子を伺っていると、話をしていた従者が僕の側まできて小さな声で囁く。
「失礼しますディロス様。陛下が少しだけお会いしたいと……お通ししてもよろしいでしょうか?」
どうやら扉の向こうにいたのはシュロムだったようだ。
おそらくアグノスにかかりきりで、全然話せなかったから様子を見にきたのだろう。
「うん、いいよ」
従者の言葉に頷けば、従者は扉へと戻り、シュロムを迎え入れる。
部屋に入ってきたシュロムは、お風呂に入った後らしく寝巻きであるガウンに着替えていた。
「寝ているところすまんな」
「ううん……僕も、少し話したかったから」
「俺もだ」
アグノスを起こさないように寝たままの僕の頬に膝まづいたシュロムが触れる。その触れ方が優しくて、自然と頬が綻んだ。
「今日は大変だっただろう」
「そうかも……でも、どうってことないよ。僕は、アグノスの父親で、ティグレとイデアルの親でもあると思ってるから」
「そうか」
僕が答えればシュロムの顔に安堵したような笑みが浮かぶ。
シュロムの言うとおり今日は大変だった。
マリカ嬢とノウリッジ夫妻とのお茶会。アグノスの甘えた。ティグレの将来の夢。
一日で、普段の何倍もの事があったような気がする。
でも、僕は三人の親だから。シュロムの側妃だから……これぐらいでへこたれるわけにはいかなかった。
「だが、アグノスには悪い事をした。お前と離れるのはほとんどないことだっただろうからな」
「そうだね……僕が君に保護された日くらいじゃないかな……離れてたの。あの日よりは、短かったけど……もしかしたら怖かったのかも」
僕を撫でていた手がアグノスの頭へと移り、優しく撫でている。
アグノスと僕との距離が大きく離れたのは、僕が告発をした日以来。
あの日は、丸一日以上離れて大号泣だったから、それを考えると今日の甘えたはまだ可愛いものだったのかもしれない。
「あの時も、可哀想な事をした」
「シュロムは、最善を尽くしてくれただけだよ。それに、次の日には合わせてくれたんだから……気にしないで」
「そうか……。いや、だが……いつもお前達ばかりに苦労させている気がする」
表情を曇らせるシュロムにほんの少しだけ馬鹿だなぁと思ってしまう。
「一番苦労してるのはシュロムだよ。いつも、いろいろ考えてくれてありがとう」
アグノスを撫でる手に指を絡めて僕の方へと引き寄せる。
少し硬い指先は、シュロムが王として頑張っている証だ。
執務も、自らの鍛練も、すべて最善を尽くそうと努力している証。
それだけ悩み、頑張っている証だった。
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