上 下
64 / 114
第二部:王様に嫁入りした側妃ですが子供達の未来に悩んでいます

21:夕食の席での発表

しおりを挟む
 シュロムが子供達と遊んでいるうちに夕食の時間となり、食堂へと向かう。

 いつもと変わらない美味しい料理を食べ、普段通りの会話を楽しんだ後、シュロムが話を切り出す。

「イデアルの婚約が正式に決まった」

 その言葉にイデアルは身を固め、アグノスとティグレは小さく首を傾げる。

「兄上の婚約って……兄上と結婚するって人が決まったってことですか父上」
「そうだ」

 きょとんとしながらも、言われた内容を理解しようと、尋ねたティグレにシュロムが頷く。

「はー……」

 頷いたシュロムにティグレはポカンとしながらも、しばらくすると内容が理解できたのか目を輝かせる。

「それじゃあ、俺とアグノスに姉上ができるのですね!」

 いや、気が早い。

 目をキラキラさせて、そんな事を言ったティグレに僕もシュロムも苦笑した。

「婚約というだけで、婚姻するわけはないから気が早いぞティグレ。だが、まあ……王族になるかもしれないご令嬢だ。お前達が顔を合わせることのできる年齢になったら、親しくしてやってくれ」
「はい!」

 元気いっぱいに頷くティグレに、その期待がイデアルへの負担になっていないかと視線を向けるもイデアルもティグレの様子に苦笑している。

 圧倒的なポジティブの前には、イデアルの不安も吹き飛んだようだった。

「父様ー、アグノスに姉上できるのー?」
「まだ、確定じゃないよ。でも、仲良くできると良いね」
「うん!」

 正確には、今のアグノスの姉にはならないんだけど……まあ、十歳のお披露目でアグノスが正式にシュロムの養子に入るのなら義姉にはなるから間違ってはいないだろう。

「姉上ってどんな人かなー」
「姉上ー」

 幼い二人はすでに姉という存在に夢中になっていて、その素直さが微笑ましい。

 十歳のお披露目が終わるまでは、マリカ嬢との顔合わせはできないから、ティグレで二年、アグノスで四年は会えないと思う。

 それまで、二人に中で姉という存在がどういう存在になってしまうのかちょっと不安だけど……まあ、二人の性格からしたらたぶん大丈夫だろう。

「それでだ。イデアルとディロスには、一ヶ月後に婚約者であるマリカ侯爵令嬢と顔合わせを兼ねた茶会を行ってもらう」

 きた。一ヶ月後か……。

「父上! 俺は! アグノスは!」
「お前達は、十の顔見世が終わっていないからこの離宮で留守番だ」
「えぇー!そんなー!」
「えぇー!」

 シュロムの答えにティグレとアグノスが残念そうな顔をする。

「兄上とディロスいいなー」
「いいなー」

 しょんぼりと呟く二人に思わず笑みが浮かぶ。

「どんな方かは、僕とイデアルで話してあげるから」
「ホントか?」
「ホント? 父様?」
「うん」
「やったー!」
「わーい!」

 二人と約束すれば、二人は嬉しそうに喜んだ。素直で助かる。

「ディロス」
「なに? シュロム」

 喜ぶ二人を微笑ましく見ていたら、シュロムに呼ばれて視線を向ける。

「茶会までの期間とそれ以降の妃教育をエリーに頼もうと思う」
「エリーに?」

 侍女長を引退したエリーの名前が出てきて、首を傾げてしまう。

 彼女は、シュロムの乳母で泣き王太后……シュロムの母上の侍女だったが妃教育とは結びつかなかったのだ。

「エリーは、子爵家出身だが長らく俺の母の侍女も勤めていたし、レーヌへの妃教育も母とともにつけていた。お前も知らない者から教わるよりは、気が楽だろう」

 エリー、僕が思うよりずっとすごい人だった。優しくしてもらった記憶しかないから実感はないのだけど。

「でも、引退したのにいいの?」
「許可は、得ている。侍女として住み込みで働くのは、難しいが通いであればまだまだ現役でいたいそうだぞ」

 自身の乳母であるエリーの様子を思い出してかシュロムが笑う。

 手紙のやり取りでも元気そうなのは伺えたが、まだまだ元気そうだ。

「わかった。その方が僕もありがたいし、エリーに会えるの楽しみにしてる」
「エリー来るのかー……」
「エリーくるのー!」

 僕が頷けば、エリーに叱られる事の多かったティグレが肩を落とし、アグノスが喜ぶ。

 そんな対照的な二人に笑いが起きながら、夕食の席は進んでいったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

悪役のはずだった二人の十年間

海野璃音
BL
 第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。  破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。  ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

子育て騎士の奮闘記~どんぶらこっこと流れてきた卵を拾ってみた結果~

古森きり
BL
孤児院育ちのフェリツェは見習いから昇格して無事に騎士となり一年。 ある魔物討伐の遠征中に川を流れる竜の卵らしきものを拾った。 もしも竜が孵り、手懐けることができたら竜騎士として一気に昇進できる。 そうなれば――と妄想を膨らませ、持ち帰った卵から生まれてきたのは子竜。しかも、人の姿を取る。 さすがに一人で育てるのは厳しいと、幼馴染の同僚騎士エリウスに救助要請をすることに。 アルファポリス、BLoveに先行掲載。 なろう、カクヨム、 Nolaノベルもそのうち掲載する。

召喚された聖女の兄は、どうやら只者ではないらしい

荷稲 まこと
BL
国にほど近い魔境に現れた魔王に対抗するため、国に古くから伝わる"聖女召喚の儀"が行われた。 聖女の召喚は無事成功した--が、聖女の兄だと言う男も一緒に召喚されてしまった。 しかもその男、大事な妹だけを戦場に送る訳にはいかない、自分も同行するから鍛えてくれ、などと言い出した。 戦いの経験があるのかと問えば、喧嘩を少々したことがある程度だと言う。 危険だと止めても断固として聞かない。 仕方がないので過酷な訓練を受けさせて、自ら諦めるように仕向けることにした。 その憎まれ役に選ばれたのは、王国騎士団第3隊、通称『対魔物隊』隊長レオナルド・ランテ。 レオナルドは不承不承ながら、どうせすぐに音を上げると隊員と同じ訓練を課すが、予想外にその男は食いついてくる。 しかもレオナルドはその男にどんどん調子を狂わされていきーーー? 喧嘩無敗の元裏番長(24) × 超鈍感初心嫌われ?隊長(27) 初投稿です!温かい目で見守ってやってください。 Bたちは初めからLし始めていますが、くっつくまでかなり長いです。 物語の都合上、NL表現を含みます。 脇カプもいますが匂わせる程度です。 2/19追記 完結まで書き終わっているので毎日コンスタントに投稿していこうと思っています。 思ってたよりずっと多くの人に読んでもらえていて嬉しいです!引き続きどうぞよろしくお願いいたします。 2/25 追記 誤字報告ありがとうございました!承認不要とのことで、この場でお礼申し上げます。 ちょっと目を離した隙にエラいことになっててひっくり返りました。大感謝!

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。

柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。 頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。 誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。 さくっと読める短編です。

使い捨ての元神子ですが、二回目はのんびり暮らしたい

夜乃すてら
BL
 一度目、支倉翠は異世界人を使い捨ての電池扱いしていた国に召喚された。双子の妹と信頼していた騎士の死を聞いて激怒した翠は、命と引き換えにその国を水没させたはずだった。  しかし、日本に舞い戻ってしまう。そこでは妹は行方不明になっていた。  病院を退院した帰り、事故で再び異世界へ。  二度目の国では、親切な猫獣人夫婦のエドアとシュシュに助けられ、コフィ屋で雑用をしながら、のんびり暮らし始めるが……どうやらこの国では魔法士狩りをしているようで……?  ※なんかよくわからんな…と没にしてた小説なんですが、案外いいかも…?と思って、試しにのせてみますが、続きはちゃんと考えてないので、その時の雰囲気で書く予定。  ※主人公が受けです。   元々は騎士ヒーローもので考えてたけど、ちょっと迷ってるから決めないでおきます。  ※猫獣人がひどい目にもあいません。 (※R指定、後から付け足すかもしれません。まだわからん。)  ※試し置きなので、急に消したらすみません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。