上 下
28 / 114
一部番外編

番外編4-2:誕生日

しおりを挟む
「とうさま!あぐのすのすきなものいっぱい!」

 全員が揃った夕食の席で、テーブルに並ぶ好物の数々にアグノスの興奮が最高潮に達していた。まだ、ケーキがあるんだけど大丈夫かな……?

「今日はアグノスの誕生日だからね」
「……たんじょうび?」

 僕の言葉にアグノスだけではなく、ティグレやイデアルも首を傾げる。

「この国では、祝う習慣はないが他の国では生まれた日を祝う習慣があってね。その事をちょうど思い出して準備してもらったんだ」

 シュロムに許可と一緒に祝ってもらえるかの確認をして、一応用意してもらっていた厨房にも決行を告げて、プレゼントは用意できなかったけど、それでもアグノスの好物で夕食を揃えてもらった。

 急ごしらえの祝いの場ではあるが、唐突なお願いだったのに叶えてくれた厨房の皆には感謝してもしきれない。

 僕の誕生日の説明にへー……!と、目を見開く子供達に小さく笑い告げる。

「もちろん、ティグレやイデアルの時もやるから楽しみにしてて」
「っ!ほんと!おれのすきなものいっぱい!?」
「うん、厨房の皆に作ってもらおうね」

 今にも立ち上がりそうなほどに目を輝かせるティグレを微笑ましく見つめながら頷く。

「その……私は、もう十一ですし……十の祝いもやったので……」

 もじもじと断ろうとするイデアルにシュロムが笑った。

「ははっ、別に十の祝いをしたとしても、祝っていいじゃないか。俺としてもお前達の成長を祝える習慣ができるのは嬉しい」
「……父上が、そう言ってくださるなら」

 シュロムの言葉にイデアルがはにかみながらも笑う。そんな姿を和みながら見ていたら、ティグレが椅子から立ち上がった。

「じゃあ、ちちうえとディロスのたんじょうびもいわっていいってことですね!」

 アグノス以上に興奮が最高潮を突き破ったかのような勢いで目を輝かせるティグレの笑顔があまりにも眩しすぎて押される。

「ま、まあ、そうだね」
「他国では王の即位記念日以外に生誕祭として祝いもするようだから、有りと言えば有りか」

 大人になっても祝ってもらえる気恥ずかしさにどもる僕とは違って、他国の風習を知っているからゆえに当然のごとく受け入れるシュロム。そういうところもかっこいい……。

「やった!」

 僕とシュロムの言葉に喜ぶティグレがガッツポーズを決めた後、満足気に椅子に座り直すと、ハッとしたように僕を見た。

「ちちうえとあにうえのたんじょうびはしってるけど、ディロスのたんじょうびはいつなんだ?」

 ティグレの質問に、計八つ……四人の赤い瞳が僕を見つめる。

「えっと……先月の二十八日……本当は二月の二十九日なんだけどね」
「もう過ぎてるし、本当は四年に一回しかないじゃないですか!」
「なんで、じぶんのたんじょうびのときにおもいださなかったんだ!」

 ちょっと、気まずい思いになりながら答えれば、案の定イデアルとティグレから言葉が飛んできた。

 いや、あんまり自分を祝う感覚がなくて……という言い訳は別の意味で怒られそうだから黙っておく。

 でも、初めてやる誕生日祝いが自分の誕生日って凄く自己愛が強く見えちゃうし、思い出したのがアグノスの誕生日でよかったと思うんだ。

「来年!来年は祝いますからね!来年は、二月の二十九日もある日ですし!」
「おれもあにうえも忘れないからな!ちちうえもおぼえておいてくださいね!アグノスも!」
「わかってる。覚えておこう」
「?はーい」

 なぜだかやる気のイデアルとティグレに、そんな二人に苦笑いしつつも微笑ましく見つめるシュロム。そして、首を傾げながらもティグレの言葉に頷くアグノス。

 来年は、ちょっと覚悟しておいた方がいいのかも……。

 なんて思いながら、アグノスの誕生日を祝い楽しんだのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

愛され奴隷の幸福論

東雲
BL
両親の死により、伯父一家に当主の座を奪われ、妹と共に屋敷を追い出されてしまったダニエル。 伯爵家の跡継ぎとして、懸命に勉学に励み、やがて貴族学園を卒業する日を間近に迎えるも、妹を守る為にダニエルは借金を背負い、奴隷となってしまう──…… ◇◇◇◇◇ *本編完結済みです* 筋肉男前が美形元同級生に性奴隷として買われて溺愛されるお話です(ざっくり) 無表情でツンツンしているけれど、内心は受けちゃん大好きで過保護溺愛する美形攻め×純粋培養された健気素直故に苦労もするけれど、皆から愛される筋肉男前受け。 体が大っきくて優しくて素直で真面目で健気で妹想いで男前だけど可愛いという受けちゃんを、不器用ながらもひたすらに愛して甘やかして溺愛する攻めくんという作者が大好きな作風となっております!

不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました

織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?

転生した脇役平凡な僕は、美形第二王子をヤンデレにしてしまった

七瀬おむ
BL
(追記)アンダルシュノベルズ様より書籍化予定となります。本当に、応援してくださった皆様のおかげです! ■転生した平凡執事が、無意識に美形第二王子をヤンデレ化させてしまう話。 美形ヤンデレ第二王子×平凡転生執事/ヤンデレ・執着攻め/ハッピーエンド ■あらすじ 前世でプレイしていた乙女ゲーム『ルナンシア物語』の世界に転生してしまった、第二王子の執事「エミル」。 『ルナンシア物語』は、ヒロインの聖女「マリア」が、俺様系第一王子「イザク」と、類稀なる美貌を持つが心に闇を抱える第二王子「アルベルト」、この二人の王子から取り合いをされるドキドキの乙女ゲームである。 しかし、単なる脇役執事であるエミルは、主人である第二王子アルベルトと、ヒロインのマリアが結ばれなければ死んでしまう!  死を回避するため奮闘するエミルだったが、なぜかアルベルトはマリアに興味がなく、それどころか自分に強い執着を向けるようになって……!? ■注意書き ※カップリングは固定、総受けではありませんのでご了承ください。 ※サブキャラ同士ですが、男女カップリングがあります。 ※攻め→→→[越えられない壁]→→(←←)受けくらいのイメージです!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

買った天使に手が出せない

キトー
BL
 旧タイトル『買った性奴隷が天使過ぎて手が出せない』  妹の結婚式後に飲酒運転の車にはねられた零。気がつくと知らない世界に若返って転生していた。  その世界で性奴隷として売られるが、順応性の高さと天然な性格が相まって買い主であるダイヤを振り回す。  不定期に番外編更新予定です。 ※予告なく性的な表現がふくまれることがあります。  誤字脱字がございましたら教えてもらえると助かります!  

嵌められた悪役令息の行く末は、

珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】 公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。 一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。 「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。 帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。 【タンザナイト王国編】完結 【アレクサンドライト帝国編】完結 【精霊使い編】連載中 ※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。