お飾り婿の嫁入り 血の繋がらない息子のために婿入り先の悪事を暴露したら、王様に溺愛されました

海野璃音

文字の大きさ
上 下
19 / 114
一部番外編

後日談1-3:窓の向こうに見える雪

しおりを挟む
 朝食の後、両手をアグノスとティグレに引かれながら談話室へと向かう。

 食堂と同じように暖炉に火が焚かれた談話室は暖かく、過ごしやすい温度に保たれている。

 ソファーへとエスコートされ、座った僕の隣をアグノスとティグレに挟まれ、正面にはイデアルが座る。

 マリーが用意してくれた本を受けとれば、袖をティグレに引かれ、そちらへ視線を向けた。

「きょうもおれがよんでやるぞ!」

 目をきらきらと輝かせ、さあ、渡せ!と僕へと視線を向けるティグレ。

 僕が寝ている間に、アグノスの為に読み聞かせをしていてくれたらしく、以前より上達した音読をこうやって披露したいという熱意に、僕は笑みを浮かべながら本を渡す。

「じゃあ、お願いできる?」
「おう!」

 満面の笑みで僕から本を受け取ったティグレは、元気良く内容を読み上げる。

 まだ、たどたどしいが、それでも自信満々にはっきりと読み上げる声は、聞き取りやすい。

 ティグレの反対側に座るアグノスは、近くで聞こうと僕の膝へと乗り出し、目を輝かせているし、正面に座るイデアルはそんな二人を微笑ましそうに見ている。

 僕としてもこの空間は居心地が良く、自然と笑みが浮かんでいた。

 まだ、遊びたい盛りの子供達だけど、こうして離宮の中で遊んでくれているのは、僕に合わせているからだ。

 ある程度体調は回復してきた僕だけど、必要がなければ今季の冬は外に出ないように王宮医師に言いつけられている。

 この前の外出だって、まだ雪が降っていなかったから許されたようなものだ。

 ここ数日天候も崩れてきて曇りが増えてきたから雪が降るのも時間の問題だろう。

 そんな事を思いながら、窓の外を見たら、僕の考えを察したように白い粒が空から降ってきた。

「あ、雪が降ってきたよ」
「ゆき!」
「ゆきー!」

 本を読み終わったタイミングで雪の事を口に出せば、ティグレとアグノスが窓辺へと駆けていく。

 二人並んで窓の外を見上げている姿は可愛らしい。

「積もるでしょうか?」
「どうかな……でも、積もったら二人が喜びそうだね」

 窓の外を眺めるイデアルの言葉に、僕は雪遊びするアグノスとティグレの姿を想像しながら言葉を返す。

 僕は、雪遊びには付き合えないけど、こうやって中から外で遊ぶ子供達を眺めるのは楽しそうだ。

「積もったらイデアルも二人とも遊んでくれる?」
「いいんですか?」

 目を瞬かせたイデアルに、雪遊びしたことがないのだと気づく。

「いいんじゃない?風邪引かないようにしっかり着込んで、終わったらお風呂に入れば大丈夫だよ」
「そうですか。……積もるといいですね」

 微笑みながら告げた言葉に、イデアルの表情が緩み、どこか嬉しそうな雰囲気を感じる。

「ディロス!外行ってきてもいいか!?」
「とうさま!あぐのすも!」
「いいよ。でも、メリー達に言ってしっかり厚着してからね」

 積もる事を待ちきれなかったらしいティグレの言葉に笑いながら、許可を出した。

「……ディロス様」

 着替える為に子供部屋へ駆けていったアグノス達を見送ったイデアルがおずおずと僕へと声をかけてくる。

「イデアルも行っておいで。僕はここで見てるから」
「っ……!はい!」

 嬉しそうに駆けていったイデアルを見送り、雪の降る外へと視線を向ける。

 遠くに見える、霊峰の頂上は白く。前世の知識にあるものと同じように美しかった。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。