転生冒険者と男娼王子

海野璃音

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2-1.転生冒険者と男娼王子の新しい日常

三十九話

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 朝食を終え、自室でゆっくり過ごしているとフレデリック様の様子を見にアルフレッドが訪ねてきた。

 母国の事やらその後の避難民の事など、全てを任せてしまっているのでこうやって訪れるのはアルフレッドの時間に余裕がある時だけだ。それでも定期的に来てくれるのは感謝しかなかった。

「体調に関しては問題なさそうですね。食事も量は少なくても通常食を食べ続けて居られているのは喜ばしい。これなら、運動を始めてもいいでしょう」

 長椅子に座ったフレデリック様に問診をしながら、診察を終えたアルフレッドに俺は安堵のため息を吐く。

 ある程度、体力が戻ってきたとはいえ医者であるアルフレッドからのお墨付きが出たのであれば、俺も安心できる。

 まあ、そうなったら抱えて歩く理由も減ってしまうので残念ではあるのだが。

「運動と言うが……どの程度までならさせていいんだ?」
「とりあえずは、普段から歩くくらいでいいでしょう。貴方の事だからどうせまだ抱えて歩いているんでしょう?」
「う……」

 アルフレッドに俺の考えは見透かされているようで、言葉に詰まる。仕方ないだろう。フレデリック様の世話ができるのが嬉しいのだから。

「本当に歩けなくなる前に運動させてくださいね。今は、すぐに疲れるでしょうし疲れてから抱えればいいだけなんですから」
「……!その手があったか!」
「……あなたそんな人でした?」

 俺の言葉にアルフレッドが呆れたような表情を浮かべる。まあ……アルフレッドが知る俺とは違うだろうな。

「……アルフレッドから見た二コラは、どんな人間なんだ?」

 俺とアルフレッドのやり取りを見ていたフレデリック様が首を傾げながらアルフレッドへと問う。

「そうですねぇ……生意気な子供ですかね」
「おい、アルフレッド!」

 余計な事を言うアルフレッドに慌てて制止をかけるが、気にせずにアルフレッドは言葉を続ける。

「初めて出会った頃のニコラウスは、若者特有の全能感に溢れた子でしたよ。実力はありましたし、お人好しでもありましたから人に好かれる子でしたけどね」
「アルフレッド!」

 若気の至りの無鉄砲さを知られている相手がゆえに、いくら俺が凄もうがアルフレッドには通用しない。それどころか……。

「二コラ。座れ」

 フレデリック様は、他の人間から見た俺の事を知りたいらしく、語るアルフレッドを邪魔しないようにする為か、俺に自分の足元に座る様に床を指さす。

「いや……あの、フレデリック様……?」
「座れ」

 柔らかく笑っているがその笑みは俺に口答えを許す気はないようだ。フレデリック様からの命令にはどのような事でも従うつもりなので、大人しくその足元に膝をつく。

「いい子だ」

 俺が大人しく従った事に満足げに笑うフレデリック様が俺の両頬を両手で撫でる。まるで、犬が褒められているようではあるが、飼い主がフレデリック様なのであれば喜ばしい事だ。

「……本当にニコラウスとは思えませんねぇ。最近では、この子も選り好みが激しくなったというのに」
「選り好み?」
「私が言えた事じゃないんですけど、上位冒険者らしくなったんですよ。基本的には、お人好しなんですけど……冒険者優先というか……貴族嫌いと言うか……まあ、プライドが高くなったとも言えますね」

 アルフレッドの言葉に顔を歪める。

「仕方ないだろう……貴族からの依頼は面倒くさい」
「そこには同感です」

 上位冒険者になるほど貴族からの依頼に振り回される。六つ星になったら冒険者の方が立場が上になるが、五つ星辺りはそれはそれは面倒くさいのだ。

 貴族お抱えになるのが目的なら問題ないが、六つ星あたりまで上がれる冒険者だといつの間にやら貴族嫌いになるのがほとんどだ。まあ、いい貴族もいるがそれでも面倒くさい事に間違いはない。

「まあ、その辺りはどの上位冒険者にも言える事なんですけどね」
「冒険者が嫌いになるような貴族の方が多いのだな……嘆かわしいことだ」

 フレデリック様がため息を吐きながら、俺の頭を撫でてくるので撫でやすいようにフレデリック様の腰に抱き着き、膝へと頭を乗せる。

「冒険者には、王宮騎士団や各領地の騎士団では対応できないモンスターへの対処を任せているのだから、それ相応の対応をするべきだと思うのだがな」
「それがわからない王族や貴族が多いのですよ……。あの、私がいるのに堂々と甘えないでもらえますかニコラウス」
「別に気にしなくていいぞ。俺は好きにするから」

 俺の話から、二人して真面目な話をし出したので、俺は大人しくした方がいいと思っただけだ。好きに話したらいい。フレデリック様の意識がアルフレッドに向いているからと言って寂しいわけではない。

「今のあなたを他の皆が見たら笑いますよ」
「俺が笑われるぐらいなら構わん。フレデリック様が笑われたら殴る」
「忠犬どころか狂犬じゃないですかあなた」

 俺の答えにアルフレッドがため息を吐き、額に手を当てる。

「そうなる事は予想出来てましたけどね……まあ、あなたがそれでいいなら私はなにも言いません」
「そうしてくれ」

 俺の様子に諦めたアルフレッドに答えつつ、フレデリック様の膝を堪能する。普段は俺が抱えてばかりだが、これはこれでいいものだ。たまにはしてもらおう。

「はぁ……これ以上ここにいても胸やけがしそうなので帰ります」

 そう言って、アルフレッドは鞄からフレデリック様の薬や栄養剤をテーブルへと出していく。

「新しく自然治癒を促進するポーションを処方してあります。運動しすぎて、動けなくなった時などに飲んでください。もちろん、容量は守ってくださいね」
「わかった。ありがとう」

 アルフレッドからの薬の説明を聞き、フレデリック様が頷いた。薬の量は減ってきたが、状況によって何か追加されたりするから、やはり完治というには程遠い。フレデリック様がなににも頼ることなく生活できるようになるのはいつになるんだろうな。

「それでは、良い一日を」
「いつもありがとなアルフレッド」

 一通り説明を終えたアルフレッドが転移しようとする瞬間、俺からも声をかければアルフレッドが笑みを浮かべた。

「これが私の使命ですから」

 そう言い残し、アルフレッドの姿が俺達の前から消える。ああいう事、すらりと言えるから恐ろしい男だよ。
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