転生冒険者と男娼王子

海野璃音

文字の大きさ
上 下
36 / 47
2-1.転生冒険者と男娼王子の新しい日常

三十六話

しおりを挟む
 俺がアンデットキングを倒してから三ヶ月が経った。

 あの日、抱いたフレデリック様は、翌日寝込んだが熱を出すこともなく、その次の日には、起き上がる事ができるくらいで済んだ。

 それ以降は月一くらいの頻度で淫紋の禁断症状が出ないように抱いている。

 それもこれもアルフレッドの治療があるからだろう。

 俺の母国の後始末があるはずなのに、定期的に時間を見つければ診察に来てくれる。

 貰える薬や副作用の少ないポーションのおかげで、フレデリック様の起きていられる時間は増え、今では部屋の中なら一人で歩けるようにもなってきた。

 家の中も十分に歩けるはずだが、多少広い家な事もあって、ついつい抱えてしまうのは俺の悪い癖だろう。

 フレデリック様も嫌がっているわけでもないし、受け入れてくれているから今のところ止めるつもりもないが。

「……ニコラ」
「はい、こちらに」

 朝、目覚めたフレデリック様に呼ばれ、その体を抱き寄せながら答える。

 冒険者はフレデリック様を連れ帰ってからアレ以外は活動休止中。こうやってフレデリック様が起きるまで寝続け、一日の始まりを共に迎えるという至福の生活を続けていた。

「ん……」

 まだ、微睡んでいるフレデリック様の頭を髪を梳くように撫でれば甘えるように体を寄せてくる。

 その愛おしさに笑みを浮かべていると、完全に目が覚めたフレデリック様と視線があった。

「いつも飽きずに楽しそうだな」
「楽しいですから。起き抜けの貴方は可愛らしい」
「……そうか」

 可愛いと言われるのが不服なのか、少し拗ねた様な表情をしながら、フレデリック様は俺を見上げる。

 長い睫に縁取られた青い瞳が、真っ直ぐに俺を見つめ、ツンと形のよい唇が俺に向く。

 口づけを待っているわけではないんだろうが……これを見るとついつい唇を重ねてしまいたくなるんだよな。

 そんな事を思いながら、自分の欲のままにフレデリック様の唇を奪う。

「っ……!ん……」

 少し驚いた様子はあれど、拒む事なくフレデリック様は口づけを受け入れる。

「ん……っ……はっ……」

 最初は触れるだけだったものが、何度も重ねる内に深いものへと変わっていく。

 舌を絡め、フレデリック様の腰を抱き寄せる。俺のその動きに答えるようにフレデリック様も俺の首の後ろへと片手を回した。

「っ……いきなり、なにをする……」

 唇を離せば、やや異義があるといった感じの言葉が飛んで来るが顔は満更でも無さそうに頬が赤く染まっている。

「フレデリック様の唇が美味しそうだったので」
「お前はっ……最近可愛くなくなってきたぞ!」
「貴方を愛することに遠慮はしたくないので……可愛くない俺はお嫌いですか?」
「……悪くはない」

 ポツリと呟かれた言葉に顔を綻ばせば、フレデリック様は照れたように俺の首元へと額をくっつけるように顔を隠した。

「ふふっ……フレデリック様」
「……なんだ」
「おはようございます」
「……おはよう」

 ここ最近お決まりとなったじゃれあいを一通りこなしてから朝の挨拶をすれば、呆れたような笑みと共にフレデリック様からも言葉が返ってくる。

 このまま寝転んだままじゃれついていたいところだが、フレデリック様の小さな腹の音が聞こえてきたら話は別だ。

 フレデリック様を空腹のままにするわけにもいかないからな。

「朝食はなにがいいですか?」
「そうだな……サンドイッチだったか?あれがいい」
「かしこまりました」

 フレデリック様は、俺の問いに少し気恥ずかしそうにしながらも朝食に食べたい物を答えてくれる。

 体調が安定し、体力も少しづつ回復してきたフレデリック様は、今では普通の食事も食べれるようになった。

 朝は軽めの物を好まれるが、夕食はガッツリとした肉料理等も少しなら食べてくれるし、俺としては嬉しいかぎりだ。

 朝食の用意をするためにベッドから起き上がれば、フレデリック様も俺に続くように起き上がる。

 どうやらここで待たずについてくるつもりのようだ。

「フレデリック様」
「ん」

 抱き上げるために少し屈んで腕を開けば、慣れたように俺の首へとフレデリック様が腕を回す。

 両手で横抱きした体は、連れてきた時より体重が増えた感じもするがまだまだ軽い。

 そろそろ体力作りの為に運動もさせなければと思うのだが……。

「どうしたニコラ?」

 抱き上げたまま動かない俺にフレデリック様が不思議そうな顔で首を傾げる。

 こうやって、腕の中に収まり、近い距離で視線が交わる特権を手放す事も惜しいんだよな。

「いえ……行きましょうか」

 そんな事を考えているのを隠すように俺は笑みを浮かべて、歩き出すのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――

BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」 と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。 「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。 ※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

処理中です...