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1-3.男娼王子の療養と王国のこれから
三十一話
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主を失い、統率のなくなった国中のアンデッドを討伐するのに時間がかかり、自分の家に帰ることができたのは母国に転移した翌日だった。
死臭と腐臭を持ち込まぬように念入りに清浄魔法をかけてから自室へと転移する。
「ただいま帰りました」
「ニコラ……おかえり」
「お疲れ様ですニコラウス」
俺を迎えたのは行きと変わらず、ベッドに寝ているフレデリック様とその横についているからアルフレッド。
ただフレデリック様は、少し疲れているのか顔色が悪かった。
その顔色に気が気でなかったが、先にアルフレッドへの報告を優先する。
「アルフレッド。アンデッドキングの討伐は終えた。残党のアンデッドも殲滅してある。僅かながらに生存者もいるだろうからあとは任せた」
「ええ、わかりました。こちらから報告する事は、ほとんどありませんが……貴方がいなくて落ち着かなかったようですので、共にいてあげてください」
「言われなくても」
ある程度アルフレッドに慣れてきたとはいえ、一日も家を空けることは初めてだったゆえにフレデリック様へ負担をかけてしまったのだろう。
予想より数が多く、討伐に時間がかかったのは仕方のない事とはいえ、一度は家に帰るべきだったのかもしれない。
フレデリック様へと視線を向ければ、視線が合う。その瞳の下にうっすらとクマが浮かんでいた。
「……私は、お邪魔なようだから退散させてもらいましょうか。しばらくは、忙しいだろうが、体調に変かがあったら連絡してください」
互いしか目に入らなくなった俺達に、アルフレッドはそれだけ言い残して転移する。
フレデリック様と二人だけになり、俺はベッドへと歩み寄るとフレデリック様の隣へと座るようにベッドの縁へと腰を下ろした。
「お疲れですか?」
「お前ほどではないさ」
フレデリック様の腰を抱き寄せれば、フレデリック様は俺へと身を任せるように首もとへ頭を寄せる。
「……それで、どうなった?」
ここからではあまり表情は見えないが、滅んだ母国へと思いを馳せているであろう言葉が呟くように問うてくる。
「滅びましたよ。王族は貴方以外全て」
あの場に居たのは二人だけだが、あそこに二人だけしか居なかったのが全てだろう。
「……そうか」
視線を下げるようにうつむいたフレデリック様の頭を見ながら口を開く。
「フレデリック様」
「……なんだ?」
「これを」
収納魔法からフィラム王妃殿下のティアラと遺品を取り出す。
「これは……母上の……?」
俺の手に乗ったそれらを見たフレデリック様が信じられないような呟きを溢し、驚いた表情で俺を見上げた。
「はい。今回のアンデッドキングは、フィラム王妃殿下でした」
「なぜ……母上が……」
呆然としたフレデリック様にアンデッドキングに成る条件と、フィラム王妃殿下が成ってしまったであろう推測を話す。
「そんな……」
幼いうちに亡くされたゆえにフィラム王妃殿下が暗殺されたという可能性に思い至らなかったのだろう。
二十年以上の時を経て、知らされた可能性にショックを受ける姿はとても痛々しかった。
「ですが、あの方は死してなおフレデリック様の事を思っておいででした」
俺の言葉にフレデリック様の瞼が瞬く。
「死者と生者では言葉を交わすことはできませんが……かの方は、俺にこのティアラを託されました」
あの玉座の間であった事を、ティアラを下げ渡された事だけを伝える。それ以外の事はフレデリック様の心を痛めるだけだと思ったから。
「母上が……お前に、このティアラを……」
フレデリック様は俺の手からティアラを手に取り、眺める。
「母上は、お前が私の婚約者だったと知っていたのか……?」
「さあ……死者の事は生者にはわかりませんから。ですが……俺達の知らないところで、彼らは俺達の事を知る事もあるのでしょう」
「そうか……」
俺の答えにフレデリック様は考え込むように頷き、ティアラを掲げた。
「母上が自らお前に渡したのであれば、これはお前のものだろう」
「いいのですか?」
「……ああ、私にはそれらがあれば十分だ」
そう言って、フレデリック様は俺の持っていた遺品へと視線を向けた。
「それより、私もお前がティアラをつけた姿が見たい」
「……似合わないと思いますよ?」
繊細なティアラと筋骨隆々とした男である。フィラム王妃殿下から託された時も思ったが絶対に似合わない。
「……母上には見せたのだろう?」
少し拗ねたような表情で俺を見上げるフレデリック様に、まるで俺が悪いような気がしてくる。
「……わ、わかりました。お好きにしてください」
「ふふっ、それでいい」
満足そうに笑ったフレデリック様が俺へと股がるように向き合い、俺の頭へとティアラを乗せる。
「……似合わないでしょう」
「まあ、王冠の方が似合いそうではあるな」
俺の言葉に楽しげに笑いながら、フレデリック様は俺の首へと両腕を回した。
「だが、これでいい。私達はそう定められていたのだからな」
そう言ってフレデリック様は笑みを浮かべ、俺の唇へと唇を重ねたのだった。
死臭と腐臭を持ち込まぬように念入りに清浄魔法をかけてから自室へと転移する。
「ただいま帰りました」
「ニコラ……おかえり」
「お疲れ様ですニコラウス」
俺を迎えたのは行きと変わらず、ベッドに寝ているフレデリック様とその横についているからアルフレッド。
ただフレデリック様は、少し疲れているのか顔色が悪かった。
その顔色に気が気でなかったが、先にアルフレッドへの報告を優先する。
「アルフレッド。アンデッドキングの討伐は終えた。残党のアンデッドも殲滅してある。僅かながらに生存者もいるだろうからあとは任せた」
「ええ、わかりました。こちらから報告する事は、ほとんどありませんが……貴方がいなくて落ち着かなかったようですので、共にいてあげてください」
「言われなくても」
ある程度アルフレッドに慣れてきたとはいえ、一日も家を空けることは初めてだったゆえにフレデリック様へ負担をかけてしまったのだろう。
予想より数が多く、討伐に時間がかかったのは仕方のない事とはいえ、一度は家に帰るべきだったのかもしれない。
フレデリック様へと視線を向ければ、視線が合う。その瞳の下にうっすらとクマが浮かんでいた。
「……私は、お邪魔なようだから退散させてもらいましょうか。しばらくは、忙しいだろうが、体調に変かがあったら連絡してください」
互いしか目に入らなくなった俺達に、アルフレッドはそれだけ言い残して転移する。
フレデリック様と二人だけになり、俺はベッドへと歩み寄るとフレデリック様の隣へと座るようにベッドの縁へと腰を下ろした。
「お疲れですか?」
「お前ほどではないさ」
フレデリック様の腰を抱き寄せれば、フレデリック様は俺へと身を任せるように首もとへ頭を寄せる。
「……それで、どうなった?」
ここからではあまり表情は見えないが、滅んだ母国へと思いを馳せているであろう言葉が呟くように問うてくる。
「滅びましたよ。王族は貴方以外全て」
あの場に居たのは二人だけだが、あそこに二人だけしか居なかったのが全てだろう。
「……そうか」
視線を下げるようにうつむいたフレデリック様の頭を見ながら口を開く。
「フレデリック様」
「……なんだ?」
「これを」
収納魔法からフィラム王妃殿下のティアラと遺品を取り出す。
「これは……母上の……?」
俺の手に乗ったそれらを見たフレデリック様が信じられないような呟きを溢し、驚いた表情で俺を見上げた。
「はい。今回のアンデッドキングは、フィラム王妃殿下でした」
「なぜ……母上が……」
呆然としたフレデリック様にアンデッドキングに成る条件と、フィラム王妃殿下が成ってしまったであろう推測を話す。
「そんな……」
幼いうちに亡くされたゆえにフィラム王妃殿下が暗殺されたという可能性に思い至らなかったのだろう。
二十年以上の時を経て、知らされた可能性にショックを受ける姿はとても痛々しかった。
「ですが、あの方は死してなおフレデリック様の事を思っておいででした」
俺の言葉にフレデリック様の瞼が瞬く。
「死者と生者では言葉を交わすことはできませんが……かの方は、俺にこのティアラを託されました」
あの玉座の間であった事を、ティアラを下げ渡された事だけを伝える。それ以外の事はフレデリック様の心を痛めるだけだと思ったから。
「母上が……お前に、このティアラを……」
フレデリック様は俺の手からティアラを手に取り、眺める。
「母上は、お前が私の婚約者だったと知っていたのか……?」
「さあ……死者の事は生者にはわかりませんから。ですが……俺達の知らないところで、彼らは俺達の事を知る事もあるのでしょう」
「そうか……」
俺の答えにフレデリック様は考え込むように頷き、ティアラを掲げた。
「母上が自らお前に渡したのであれば、これはお前のものだろう」
「いいのですか?」
「……ああ、私にはそれらがあれば十分だ」
そう言って、フレデリック様は俺の持っていた遺品へと視線を向けた。
「それより、私もお前がティアラをつけた姿が見たい」
「……似合わないと思いますよ?」
繊細なティアラと筋骨隆々とした男である。フィラム王妃殿下から託された時も思ったが絶対に似合わない。
「……母上には見せたのだろう?」
少し拗ねたような表情で俺を見上げるフレデリック様に、まるで俺が悪いような気がしてくる。
「……わ、わかりました。お好きにしてください」
「ふふっ、それでいい」
満足そうに笑ったフレデリック様が俺へと股がるように向き合い、俺の頭へとティアラを乗せる。
「……似合わないでしょう」
「まあ、王冠の方が似合いそうではあるな」
俺の言葉に楽しげに笑いながら、フレデリック様は俺の首へと両腕を回した。
「だが、これでいい。私達はそう定められていたのだからな」
そう言ってフレデリック様は笑みを浮かべ、俺の唇へと唇を重ねたのだった。
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