31 / 47
1-3.男娼王子の療養と王国のこれから
三十一話
しおりを挟む
主を失い、統率のなくなった国中のアンデッドを討伐するのに時間がかかり、自分の家に帰ることができたのは母国に転移した翌日だった。
死臭と腐臭を持ち込まぬように念入りに清浄魔法をかけてから自室へと転移する。
「ただいま帰りました」
「ニコラ……おかえり」
「お疲れ様ですニコラウス」
俺を迎えたのは行きと変わらず、ベッドに寝ているフレデリック様とその横についているからアルフレッド。
ただフレデリック様は、少し疲れているのか顔色が悪かった。
その顔色に気が気でなかったが、先にアルフレッドへの報告を優先する。
「アルフレッド。アンデッドキングの討伐は終えた。残党のアンデッドも殲滅してある。僅かながらに生存者もいるだろうからあとは任せた」
「ええ、わかりました。こちらから報告する事は、ほとんどありませんが……貴方がいなくて落ち着かなかったようですので、共にいてあげてください」
「言われなくても」
ある程度アルフレッドに慣れてきたとはいえ、一日も家を空けることは初めてだったゆえにフレデリック様へ負担をかけてしまったのだろう。
予想より数が多く、討伐に時間がかかったのは仕方のない事とはいえ、一度は家に帰るべきだったのかもしれない。
フレデリック様へと視線を向ければ、視線が合う。その瞳の下にうっすらとクマが浮かんでいた。
「……私は、お邪魔なようだから退散させてもらいましょうか。しばらくは、忙しいだろうが、体調に変かがあったら連絡してください」
互いしか目に入らなくなった俺達に、アルフレッドはそれだけ言い残して転移する。
フレデリック様と二人だけになり、俺はベッドへと歩み寄るとフレデリック様の隣へと座るようにベッドの縁へと腰を下ろした。
「お疲れですか?」
「お前ほどではないさ」
フレデリック様の腰を抱き寄せれば、フレデリック様は俺へと身を任せるように首もとへ頭を寄せる。
「……それで、どうなった?」
ここからではあまり表情は見えないが、滅んだ母国へと思いを馳せているであろう言葉が呟くように問うてくる。
「滅びましたよ。王族は貴方以外全て」
あの場に居たのは二人だけだが、あそこに二人だけしか居なかったのが全てだろう。
「……そうか」
視線を下げるようにうつむいたフレデリック様の頭を見ながら口を開く。
「フレデリック様」
「……なんだ?」
「これを」
収納魔法からフィラム王妃殿下のティアラと遺品を取り出す。
「これは……母上の……?」
俺の手に乗ったそれらを見たフレデリック様が信じられないような呟きを溢し、驚いた表情で俺を見上げた。
「はい。今回のアンデッドキングは、フィラム王妃殿下でした」
「なぜ……母上が……」
呆然としたフレデリック様にアンデッドキングに成る条件と、フィラム王妃殿下が成ってしまったであろう推測を話す。
「そんな……」
幼いうちに亡くされたゆえにフィラム王妃殿下が暗殺されたという可能性に思い至らなかったのだろう。
二十年以上の時を経て、知らされた可能性にショックを受ける姿はとても痛々しかった。
「ですが、あの方は死してなおフレデリック様の事を思っておいででした」
俺の言葉にフレデリック様の瞼が瞬く。
「死者と生者では言葉を交わすことはできませんが……かの方は、俺にこのティアラを託されました」
あの玉座の間であった事を、ティアラを下げ渡された事だけを伝える。それ以外の事はフレデリック様の心を痛めるだけだと思ったから。
「母上が……お前に、このティアラを……」
フレデリック様は俺の手からティアラを手に取り、眺める。
「母上は、お前が私の婚約者だったと知っていたのか……?」
「さあ……死者の事は生者にはわかりませんから。ですが……俺達の知らないところで、彼らは俺達の事を知る事もあるのでしょう」
「そうか……」
俺の答えにフレデリック様は考え込むように頷き、ティアラを掲げた。
「母上が自らお前に渡したのであれば、これはお前のものだろう」
「いいのですか?」
「……ああ、私にはそれらがあれば十分だ」
そう言って、フレデリック様は俺の持っていた遺品へと視線を向けた。
「それより、私もお前がティアラをつけた姿が見たい」
「……似合わないと思いますよ?」
繊細なティアラと筋骨隆々とした男である。フィラム王妃殿下から託された時も思ったが絶対に似合わない。
「……母上には見せたのだろう?」
少し拗ねたような表情で俺を見上げるフレデリック様に、まるで俺が悪いような気がしてくる。
「……わ、わかりました。お好きにしてください」
「ふふっ、それでいい」
満足そうに笑ったフレデリック様が俺へと股がるように向き合い、俺の頭へとティアラを乗せる。
「……似合わないでしょう」
「まあ、王冠の方が似合いそうではあるな」
俺の言葉に楽しげに笑いながら、フレデリック様は俺の首へと両腕を回した。
「だが、これでいい。私達はそう定められていたのだからな」
そう言ってフレデリック様は笑みを浮かべ、俺の唇へと唇を重ねたのだった。
死臭と腐臭を持ち込まぬように念入りに清浄魔法をかけてから自室へと転移する。
「ただいま帰りました」
「ニコラ……おかえり」
「お疲れ様ですニコラウス」
俺を迎えたのは行きと変わらず、ベッドに寝ているフレデリック様とその横についているからアルフレッド。
ただフレデリック様は、少し疲れているのか顔色が悪かった。
その顔色に気が気でなかったが、先にアルフレッドへの報告を優先する。
「アルフレッド。アンデッドキングの討伐は終えた。残党のアンデッドも殲滅してある。僅かながらに生存者もいるだろうからあとは任せた」
「ええ、わかりました。こちらから報告する事は、ほとんどありませんが……貴方がいなくて落ち着かなかったようですので、共にいてあげてください」
「言われなくても」
ある程度アルフレッドに慣れてきたとはいえ、一日も家を空けることは初めてだったゆえにフレデリック様へ負担をかけてしまったのだろう。
予想より数が多く、討伐に時間がかかったのは仕方のない事とはいえ、一度は家に帰るべきだったのかもしれない。
フレデリック様へと視線を向ければ、視線が合う。その瞳の下にうっすらとクマが浮かんでいた。
「……私は、お邪魔なようだから退散させてもらいましょうか。しばらくは、忙しいだろうが、体調に変かがあったら連絡してください」
互いしか目に入らなくなった俺達に、アルフレッドはそれだけ言い残して転移する。
フレデリック様と二人だけになり、俺はベッドへと歩み寄るとフレデリック様の隣へと座るようにベッドの縁へと腰を下ろした。
「お疲れですか?」
「お前ほどではないさ」
フレデリック様の腰を抱き寄せれば、フレデリック様は俺へと身を任せるように首もとへ頭を寄せる。
「……それで、どうなった?」
ここからではあまり表情は見えないが、滅んだ母国へと思いを馳せているであろう言葉が呟くように問うてくる。
「滅びましたよ。王族は貴方以外全て」
あの場に居たのは二人だけだが、あそこに二人だけしか居なかったのが全てだろう。
「……そうか」
視線を下げるようにうつむいたフレデリック様の頭を見ながら口を開く。
「フレデリック様」
「……なんだ?」
「これを」
収納魔法からフィラム王妃殿下のティアラと遺品を取り出す。
「これは……母上の……?」
俺の手に乗ったそれらを見たフレデリック様が信じられないような呟きを溢し、驚いた表情で俺を見上げた。
「はい。今回のアンデッドキングは、フィラム王妃殿下でした」
「なぜ……母上が……」
呆然としたフレデリック様にアンデッドキングに成る条件と、フィラム王妃殿下が成ってしまったであろう推測を話す。
「そんな……」
幼いうちに亡くされたゆえにフィラム王妃殿下が暗殺されたという可能性に思い至らなかったのだろう。
二十年以上の時を経て、知らされた可能性にショックを受ける姿はとても痛々しかった。
「ですが、あの方は死してなおフレデリック様の事を思っておいででした」
俺の言葉にフレデリック様の瞼が瞬く。
「死者と生者では言葉を交わすことはできませんが……かの方は、俺にこのティアラを託されました」
あの玉座の間であった事を、ティアラを下げ渡された事だけを伝える。それ以外の事はフレデリック様の心を痛めるだけだと思ったから。
「母上が……お前に、このティアラを……」
フレデリック様は俺の手からティアラを手に取り、眺める。
「母上は、お前が私の婚約者だったと知っていたのか……?」
「さあ……死者の事は生者にはわかりませんから。ですが……俺達の知らないところで、彼らは俺達の事を知る事もあるのでしょう」
「そうか……」
俺の答えにフレデリック様は考え込むように頷き、ティアラを掲げた。
「母上が自らお前に渡したのであれば、これはお前のものだろう」
「いいのですか?」
「……ああ、私にはそれらがあれば十分だ」
そう言って、フレデリック様は俺の持っていた遺品へと視線を向けた。
「それより、私もお前がティアラをつけた姿が見たい」
「……似合わないと思いますよ?」
繊細なティアラと筋骨隆々とした男である。フィラム王妃殿下から託された時も思ったが絶対に似合わない。
「……母上には見せたのだろう?」
少し拗ねたような表情で俺を見上げるフレデリック様に、まるで俺が悪いような気がしてくる。
「……わ、わかりました。お好きにしてください」
「ふふっ、それでいい」
満足そうに笑ったフレデリック様が俺へと股がるように向き合い、俺の頭へとティアラを乗せる。
「……似合わないでしょう」
「まあ、王冠の方が似合いそうではあるな」
俺の言葉に楽しげに笑いながら、フレデリック様は俺の首へと両腕を回した。
「だが、これでいい。私達はそう定められていたのだからな」
そう言ってフレデリック様は笑みを浮かべ、俺の唇へと唇を重ねたのだった。
6
お気に入りに追加
406
あなたにおすすめの小説
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
第一王子から断罪されたのに第二王子に溺愛されています。何で?
藍音
BL
占星術により、最も国を繁栄させる子を産む孕み腹として、妃候補にされたルーリク・フォン・グロシャーは学院の卒業を祝う舞踏会で第一王子から断罪され、婚約破棄されてしまう。
悲しみにくれるルーリクは婚約破棄を了承し、領地に去ると宣言して会場を後にするが‥‥‥
すみません、シリアスの仮面を被ったコメディです。冒頭からシリアスな話を期待されていたら申し訳ないので、記載いたします。
男性妊娠可能な世界です。
魔法は昔はあったけど今は廃れています。
独自設定盛り盛りです。作品中でわかる様にご説明できていると思うのですが‥‥
大きなあらすじやストーリー展開は全く変更ありませんが、ちょこちょこ文言を直したりして修正をかけています。すみません。
R4.2.19 12:00完結しました。
R4 3.2 12:00 から応援感謝番外編を投稿中です。
お礼SSを投稿するつもりでしたが、短編程度のボリュームのあるものになってしまいました。
多分10話くらい?
2人のお話へのリクエストがなければ、次は別の主人公の番外編を投稿しようと思っています。
好きか?嫌いか?
秋元智也
BL
ある日、女子に振られてやけくそになって自分の運命の相手を
怪しげな老婆に占ってもらう。
そこで身近にいると宣言されて、虹色の玉を渡された。
眺めていると、後ろからぶつけられ慌てて掴むつもりが飲み込んでしまう。
翌朝、目覚めると触れた人の心の声が聞こえるようになっていた!
クラスでいつもつっかかってくる奴の声を悪戯するつもりで聞いてみると
なんと…!!
そして、運命の人とは…!?
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる