30 / 47
1-3.男娼王子の療養と王国のこれから
三十話
しおりを挟む
「あ゛ぁ゛……」
断末魔を上げ終え、既に命の灯が消えているであろう女が呻く。
悔い破られた喉。血に染まったドレス。ところどころ欠けた肉。あっという間に自分を襲ったアンデッドと同じモノへと堕ちた女にそれ以上の興味が湧く事もない。
愚かな第二王子もすでに女と同じ有様となり、亡者の群れに混じっている。そして、それらの興味は……この場で唯一の生者である俺へと向けられていた。
俺の隣にいるフィラム王妃殿下が俺への興味を示していなかった為、今までは安全であったが、今ここで周りを囲むアンデッドへと指示を出せば、奴らは間違いなく俺を襲う事だろう。
まあ、ただ襲われるつもりもないが。
視線を隣にいるフィラム王妃殿下へと向ければ、光のない目が俺を見上げている。どうやら、ようやく認識してくれたようだった。
「どうも、フィラム王妃殿下」
改めて挨拶してみるも反応はない。まあ、亡者であるアンデッドと生者である俺とでは言語も違うのかもしれない。
しばらく視線を交わらせていると、周りの亡者共が騒がしくなる。フィラム王妃殿下の復讐を終えたからだろうか、どうも統率が乱れてきているようだ。
「あー、うるせぇな」
じわじわと俺へと距離を詰めてくるアンデッドを一睨みして、パチンと指を鳴らす。
込めた魔力は、聖属性。この町全てを浄化できるほどに練り上げたそれが音と共に広がり、蠢いていた死者達を灰へと返していく。
「……さすがに貴方は堪えるか」
復讐を終えたと言えど、アンデットキングであるフィラム王妃殿下は変わらず俺の側で佇んでいる。
腐り果てた亡者も新たにこさえられたぴちぴちの亡者も全てが灰へと変わった玉座の間で、死者の王と二人佇む。
さて、邪魔は入らなくなったがどうしたものか。
敵意は見られないとは言え、災害級……天災級とまで判断された存在。倒すべきなのはわかっているが、フレデリック様のご母堂であるから複雑な心境である。
せっかくだからフレデリック様に会わせてみる?いや、自身の母親がアンデッドになっているのを見るのは複雑だろうし、フィラム王妃殿下としてもアンデッドとなった自分がフレデリック様の前に現れるのは望んでいないと思う。
となると、やはりここで消滅させるのが最良なのだが……。
などと、自分の中で踏ん切りがつかないままでいると、俺を見上げていたフィラム王妃殿下が自身の頭に乗るティアラへと手を伸ばす。
繊細な細工を施されたティアラがその頭から降ろされ、フィラム王妃殿下は両手でティアラを持ち直すと俺へと差し出す様にティアラを掲げた。
……これは、受け取れと?いや、だが……。
俺へと差し出されるように掲げられたティアラの正面は俺ではなく、フィラム王妃殿下の方を向いている。そう、戴冠式で新たな王に王冠を被せる時のように。
その事を察した俺は、フィラム王妃殿下へと向き合うように跪く。
正直、敵意が無くともアンデッドの眼下に首筋を晒す事など正気の沙汰ではない。だが、今はそうしたいと思ったのだ。
下げたままの視界の端で、フィラム王妃殿下のティアラを持った手の影が俺の頭の影へと重なる。
頭に感じる僅かな重み。そして、フィラム王妃殿下の手が離れていったのを見て視線を上げた。
そこには、今まで人形のように無表情だった顔を緩めて笑みを浮かべるフィラム王妃殿下の姿があった。
この国では、王妃のティアラは個別に用意され、その者しか身に着ける事は許されない。
だが、フィラム王妃殿下の故国では、王冠が王から王へと受け継がれるように、王妃から王妃へも同じティアラが受け継がれる。
今ここで、託されたと言う事は……俺がフィラム王妃殿下からフレデリック様の伴侶として認められたのだろう。
生前あった事のない、死して初めて対面した義母となるはずだったフィラム王妃殿下が何を知って、何を感じて俺にこれを託したかまではわからない。だが……。
「……あの方と、フレデリック様と命が分かつ時まで……いえ、分かたれようとも共にいる事を貴方に誓います」
一度は離れてしまったあの方を、もう二度と一人にしないという誓いをたてる。俺の事を認めてくれたフィラム王妃殿下に誓えるのはこれぐらいしかないのだから。
俺の誓いを聞き届けたフィラム王妃殿下はもう一度微笑み、その体が崩れていく。復讐を終え、最後の未練も俺へと託せたからだろう。
体の全てが灰となり、王宮の床にいくつかの装飾品が落ちる。それらを拾い上げ、灰も収納魔法から取り出した瓶へと詰めた。
復讐を果たしたとはいえ、この国の奴らと同じ場所に眠らせるのは可哀想だからな。
いつかフレデリック様が外出できるようになったら二人でフィラム王妃殿下の故国と撒きに行くのもいいし……今後フレデリック様が定住したい国があれば、そこに埋葬してもいい。
そんな事を考えながら、頭に乗ったティアラを外す。
これは、どうすべきか……俺が託されたものでもあるが、他の装飾品と共に形見でもあるんだよな……。とりあえずは、フレデリック様に尋ねてから考えるか。
ひとまず保留と結論付けて、ティアラも形見も灰も収納魔法へと放り込んでおく。
さーて、少しセンチメンタルな気持ちになったけど、王都外の残党殲滅してくるとしようか。
さっさと終わらせて、フレデリック様の所に帰らなければならないんでね。
断末魔を上げ終え、既に命の灯が消えているであろう女が呻く。
悔い破られた喉。血に染まったドレス。ところどころ欠けた肉。あっという間に自分を襲ったアンデッドと同じモノへと堕ちた女にそれ以上の興味が湧く事もない。
愚かな第二王子もすでに女と同じ有様となり、亡者の群れに混じっている。そして、それらの興味は……この場で唯一の生者である俺へと向けられていた。
俺の隣にいるフィラム王妃殿下が俺への興味を示していなかった為、今までは安全であったが、今ここで周りを囲むアンデッドへと指示を出せば、奴らは間違いなく俺を襲う事だろう。
まあ、ただ襲われるつもりもないが。
視線を隣にいるフィラム王妃殿下へと向ければ、光のない目が俺を見上げている。どうやら、ようやく認識してくれたようだった。
「どうも、フィラム王妃殿下」
改めて挨拶してみるも反応はない。まあ、亡者であるアンデッドと生者である俺とでは言語も違うのかもしれない。
しばらく視線を交わらせていると、周りの亡者共が騒がしくなる。フィラム王妃殿下の復讐を終えたからだろうか、どうも統率が乱れてきているようだ。
「あー、うるせぇな」
じわじわと俺へと距離を詰めてくるアンデッドを一睨みして、パチンと指を鳴らす。
込めた魔力は、聖属性。この町全てを浄化できるほどに練り上げたそれが音と共に広がり、蠢いていた死者達を灰へと返していく。
「……さすがに貴方は堪えるか」
復讐を終えたと言えど、アンデットキングであるフィラム王妃殿下は変わらず俺の側で佇んでいる。
腐り果てた亡者も新たにこさえられたぴちぴちの亡者も全てが灰へと変わった玉座の間で、死者の王と二人佇む。
さて、邪魔は入らなくなったがどうしたものか。
敵意は見られないとは言え、災害級……天災級とまで判断された存在。倒すべきなのはわかっているが、フレデリック様のご母堂であるから複雑な心境である。
せっかくだからフレデリック様に会わせてみる?いや、自身の母親がアンデッドになっているのを見るのは複雑だろうし、フィラム王妃殿下としてもアンデッドとなった自分がフレデリック様の前に現れるのは望んでいないと思う。
となると、やはりここで消滅させるのが最良なのだが……。
などと、自分の中で踏ん切りがつかないままでいると、俺を見上げていたフィラム王妃殿下が自身の頭に乗るティアラへと手を伸ばす。
繊細な細工を施されたティアラがその頭から降ろされ、フィラム王妃殿下は両手でティアラを持ち直すと俺へと差し出す様にティアラを掲げた。
……これは、受け取れと?いや、だが……。
俺へと差し出されるように掲げられたティアラの正面は俺ではなく、フィラム王妃殿下の方を向いている。そう、戴冠式で新たな王に王冠を被せる時のように。
その事を察した俺は、フィラム王妃殿下へと向き合うように跪く。
正直、敵意が無くともアンデッドの眼下に首筋を晒す事など正気の沙汰ではない。だが、今はそうしたいと思ったのだ。
下げたままの視界の端で、フィラム王妃殿下のティアラを持った手の影が俺の頭の影へと重なる。
頭に感じる僅かな重み。そして、フィラム王妃殿下の手が離れていったのを見て視線を上げた。
そこには、今まで人形のように無表情だった顔を緩めて笑みを浮かべるフィラム王妃殿下の姿があった。
この国では、王妃のティアラは個別に用意され、その者しか身に着ける事は許されない。
だが、フィラム王妃殿下の故国では、王冠が王から王へと受け継がれるように、王妃から王妃へも同じティアラが受け継がれる。
今ここで、託されたと言う事は……俺がフィラム王妃殿下からフレデリック様の伴侶として認められたのだろう。
生前あった事のない、死して初めて対面した義母となるはずだったフィラム王妃殿下が何を知って、何を感じて俺にこれを託したかまではわからない。だが……。
「……あの方と、フレデリック様と命が分かつ時まで……いえ、分かたれようとも共にいる事を貴方に誓います」
一度は離れてしまったあの方を、もう二度と一人にしないという誓いをたてる。俺の事を認めてくれたフィラム王妃殿下に誓えるのはこれぐらいしかないのだから。
俺の誓いを聞き届けたフィラム王妃殿下はもう一度微笑み、その体が崩れていく。復讐を終え、最後の未練も俺へと託せたからだろう。
体の全てが灰となり、王宮の床にいくつかの装飾品が落ちる。それらを拾い上げ、灰も収納魔法から取り出した瓶へと詰めた。
復讐を果たしたとはいえ、この国の奴らと同じ場所に眠らせるのは可哀想だからな。
いつかフレデリック様が外出できるようになったら二人でフィラム王妃殿下の故国と撒きに行くのもいいし……今後フレデリック様が定住したい国があれば、そこに埋葬してもいい。
そんな事を考えながら、頭に乗ったティアラを外す。
これは、どうすべきか……俺が託されたものでもあるが、他の装飾品と共に形見でもあるんだよな……。とりあえずは、フレデリック様に尋ねてから考えるか。
ひとまず保留と結論付けて、ティアラも形見も灰も収納魔法へと放り込んでおく。
さーて、少しセンチメンタルな気持ちになったけど、王都外の残党殲滅してくるとしようか。
さっさと終わらせて、フレデリック様の所に帰らなければならないんでね。
5
お気に入りに追加
409
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
悪役令嬢の兄になりました。妹を更生させたら攻略対象者に迫られています。
りまり
BL
妹が生まれた日、突然前世の記憶がよみがえった。
大きくなるにつれ、この世界が前世で弟がはまっていた乙女ゲームに酷似した世界だとわかった。
俺のかわいい妹が悪役令嬢だなんて!!!
大事なことだからもう一度言うが!
妹が悪役令嬢なんてありえない!
断固として妹を悪役令嬢などにさせないためにも今から妹を正しい道に導かねばならない。
え~と……ヒロインはあちらにいるんですけど……なぜ俺に迫ってくるんですか?
やめて下さい!
俺は至ってノーマルなんです!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
華から生まれ落ちた少年は獅子の温もりに溺れる
帆田 久
BL
天気予報で豪雪注意報が発令される中
都内のマンションのベランダで、一つの小さな命が、その弱々しい灯火を消した
「…母さん…父さ、ん……」
どうか 生まれてきてしまった僕を 許して
死ぬ寸前に小さくそう呟いたその少年は、
見も知らぬ泉のほとりに咲く一輪の大華より再びの生を受けた。
これは、不遇の死を遂げた不幸で孤独な少年が、
転生した世界で1人の獅子獣人に救われ、囲われ、溺愛される物語ー
目覚めたそこはBLゲームの中だった。
慎
BL
ーーパッパー!!
キキーッ! …ドンッ!!
鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥
身体が曲線を描いて宙に浮く…
全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥
『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』
異世界だった。
否、
腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
悪役令息に転生しましたが、なんだか弟の様子がおかしいです
ひよ
BL
「今日からお前の弟となるルークだ」
そうお父様から紹介された男の子を見て前世の記憶が蘇る。
そして、自分が乙女ゲーの悪役令息リオンでありその弟ルークがヤンデレキャラだということを悟る。
最悪なエンドを迎えないよう、ルークに優しく接するリオン。
ってあれ、なんだか弟の様子がおかしいのだが。。。
初投稿です。拙いところもあると思いますが、温かい目で見てくださると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる