転生冒険者と男娼王子

海野璃音

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1-3.男娼王子の療養と王国のこれから

二十八話

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 ――パリーン。

 王都を守っていた結界が割れる。それと同時に空を飛んでいたモンスター達が俺目がけて向かってきた。

 それを見上げながらパチンと指を鳴らし、魔力を爆発させる。

 ――ブシャッ!

 内部から破裂する音を響かせながら、無数の腐敗した肉片と血の雨が俺を避ける様に王都へと降り注ぐ。

 ……城門を破って中に侵入するアンデッドの群れといい地獄絵図だな。自らやった事だというのに他人事のようにそんな事を思いながら死者の群れに覆い尽くされていく町を見下ろす。

 未だ生存者がいるのか、一部の家に殺到するアンデッドを見ながら、その中でも家を破壊しそうなアンデッドギガンテスや上級モンスターだけは先に討伐していく。

 指を鳴らすたびにピンポイントで爆散していくアンデッドを眺めながら、死者の行進は徐々に王宮へと進んでいった。

 堀代わりの水路をアンデッドで埋め尽くして渡り、閉じられた木の城門は人ならざる怪力と物量で押し破ったのを見て、そろそろ王宮へと向かうかと思っていた俺の視界に一体のアンデッドが目に入る。

 それは他のアンデッドから道を譲られるように一体のアンデッドの上に座りながら進んでいた。

 その姿は、まさしく死者の王。アンデットキング……いや、アンデットエンペラーと言えるような姿。そして、その頭に輝くティアラに俺は覚えがあった。

「……まさか、フィラム王妃殿下?」

 そう……そのティアラは、フレデリック様のお母上であるフィラム王妃殿下だけに身に着ける事が許されたデザインだったのだから。

 フレデリック様が幼い頃に亡くなったフィラム王妃殿下と俺に面識はない。だが、王子妃教育の際に歴代王妃のティアラのデザインを見た覚えがあったのだ。

 驚きのあまり、アンデッドキングの顔をよく見れば死に装束である豪華な王妃としてのドレスを纏うその姿は、青白い血の気のない肌以外は生前のまま。

 そして、その顔は大人になったフレデリック様が女性になったかのような美貌をしていた。

 間違いない。フィラム王妃殿下だ。

 朽ちる事なく美しい姿を取り留めているフィラム王妃殿下だが、その纏う雰囲気は明らかなアンデッド独特の魔力を纏っているその姿は確かに死者を引き付ける死者の王そのものだった。

 そして、その姿に注視していると、その下のアンデッドにも目が行く。それは馬のように扱われながらも、確かに人の形をしていて、その身に纏う服はフィラム王妃殿下と並び立つに相応しい装いをしていた。その姿に思い当たるのは一人しかいない。

「はは……尻に敷かれてんじゃねえか前陛下」

 他のアンデットと同様に腐敗しているが、死肉で汚れたマントは当代の王ごとに許されたデザインの物だ。

 なぜ、そんな前国王がフィラム王妃殿下の乗り物ごときに落ちているのかと思うが……フレデリック様の扱われた経緯を知っている俺からすると……かの王は、自分の妃だったフィラム王妃殿下に奴隷として扱われるほどに恨まれているのだろう。

 フィラム王妃殿下の死の原因は病死とされたが……真実は暗殺されたという可能性もあるのかもしれない。

 死した王族は霊峰を望む王家の墓地へと葬られる。アンデッドキングが湧いたと報告を受けた時、古い王族の可能性もあると考えたが……まさか、まだ死して浅いフィラム王妃殿下がアンデッドキングになるほどの恨みを抱えていたとは思いもしなかった。

 かの方の目的は、何なのだろう。死者の考えなど生者の俺には想像もつかないが……すべての死者を支配下に置くアンデッドキングであるのなら、今奴隷のように扱っている前国王の魂の記憶を読み取った可能性もあるか。

 フレデリック様の処遇は前国王時代に定められた。王になるはずだった実子を、王宮娼夫として扱われ、その尊厳を極限にまで貶められた事を知ったのならば……前国王を奴隷のように、馬のように扱う理由も、ただ真っすぐ死者を連れて王宮を目指す理由も想像できるような気がした。

 死者の王の行進を眺めながら、元より見届けるつもりだった母国の滅びを、より間近で見届けなければという考えが頭をよぎる。そして、それと同時に俺は城壁を蹴った。

 宙駆ける様に魔力で作った足場を蹴り、俺はフィラム王妃殿下の隣へと降り立つ。

「フィラム王妃殿下。ご一緒してもよろしいですか?」

 礼儀として声をかけるも、フィラム王妃殿下は俺に興味がないとばかりに王宮をまっすぐに見つめている。

 フィラム王妃殿下に道を開けるアンデッド達は俺の存在に気づきながらも近づくことはせず、こんなアンデッドの群れの中にいるというのに俺が襲われる事はなかった。

 それほどまでに他のアンデッドにとってアンデッドキングは従うものでありながら恐れる存在なのだろう。

 滅びの時までの身の安全が確保されたフィラム王妃殿下の隣で、俺は前国王の歩調に合わせながら王宮へ続く道を歩くのだった。
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