転生冒険者と男娼王子

海野璃音

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1-3.男娼王子の療養と王国のこれから

二十六話

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 穏やかな日々を過ごしつつも、荒れ始めている母国を心配しているのかフレデリック様は時折遠くを見るようになった。

 俺としては面白くないが、これはフレデリック様がフレデリック様であるゆえの行動だからなにも言えない。

 そんな日々を送っているとアルフレッドが訪れた。

「王妃の連れた軍が壊滅しました。王妃は逃げ延びたようですがね……」

 その報告にフレデリック様の表情が歪む。

「それで?群れは?」
「軍につつかれたことによって、進軍を開始……すでにいくつかの村や町は飲み込まれつつあるそうです」

 まあ、予想通りの結果に失笑と言うべきか。

「じゃあ、王都も持って数日と行ったところか」

 辺境の地に現れたとはいえ、死者は生者を襲う。なにかに誘われるように命あるものが多い進路を取りながら進む奴らにとって、王都は絶好の狩り場だ。

 その歩みが遅くとも、疲れ知らずの軍団は昼夜を問わずに歩き続ける。王都が襲われるのも時間の問題だった。

「一部はすでに……アンデットドラゴンが人々を逃がさぬように空を飛び回っておりますよ。冒険者ギルドを頼らずに逃げようとした者は食われ……今更ながらギルドへと依頼が舞い込んでいるところです。逃げなかったのは自分達なんですけどねぇ……」

 呆れたようにため息を吐くアルフレッド。おそらく、言ってはいないが面倒くさい依頼者も多数いるのだろう。

「討伐は?」
「する予定はありませんね。依頼も避難のみと突っぱねています。なので、貴族がいつも以上に煩いんですよ。王妃の言葉を信じて、出陣式を大々的にやって、ほとんどの貴族が集まってるからなおさら」

 嫌そうな顔をするアルフレッドに相当ストレス溜め込んでるんだろうなぁと、思いながらも聞き流す。

 貴族に興味はないからな。

「……王都に集まらなかった貴族はどこの家だ?」

 話を静かに聞いていたフレデリック様がアルフレッドに問う。

「ええと……確か」

 アルフレッドは、思い出すようにいくつかの家名をあげ、フレデリック様が考えるように顔を伏せ、覚悟を決めたようにアルフレッドへと改めて視線を向けた。

「……それらの家名は、始めの頃私の無実を信じていた者達だ。もし、できるのであれば……命だけでも助けてやってほしい」

 フレデリック様の言葉にアルフレッドが少し考えて口を開いた。

「いいですけど……彼らも面倒くさくて。領民は逃がしてほしいと頼んで来るんですけど、自分達にその気は無いみたいなんですよねぇ。国と共に滅ぶのが相応しいとでも言うように」

 どうやら、全部が全部フレデリック様を見捨てたわけではなかったらしい。まあ、それでもフレデリック様より家を取ったから今も存続しているのだろうが。

「……私が一筆書こう。それで、駄目なら諦める」
「そこまで言うのであれば配慮しましょう」

 俺が口をつぐんでいる間に、フレデリック様からアルフレッドへの交渉がまとまる。

「ニコラ。紙とペンを」
「かしこまりました」

 思うことはあれど、それがフレデリック様の望みであるなら、俺が口を出すわけにはいかない。

 フレデリック様の望まれたとおりに紙とペンを用意してサイドテーブルへと置く。

 そして、フレデリック様の体を支え、文をしたためるのを見守った。

「アルフレッド殿、これを」
「承りました」

 フレデリック様がしたためた文をアルフレッドが受け取ろうとしたのを横から取る。

「ニコラ……!」
「どうしましたニコラウス」

 咎める二人の言葉を聞き流しながら、俺はフレデリック様の署名の下に自分の名前を書き込む。それも、冒険者としてのものだけはなく、フレデリック様の婚約者だった時代の貴族名も合わせて。

「……連名の方がたぶん効くだろ」
「……半分脅しみたいになってると思うんですけどね」

 俺の言葉に呆れ気味のアルフレッドが苦笑しながら差し出した文を受け取る。

「それでは、また進展があったら報告に来ます」

 受け取った文を懐に納めたアルフレッドが転移するのを見送って、フレデリック様を見れば、目を見開いたフレデリック様と視線があった。

「……どうしました?」
「まさか、お前が署名してくれると思わなくて……」

 どうやら、俺の行動に驚いていたらしい。まあ、俺もフレデリック様の為じゃなければやらないとは思う。

「……あれで、あなたの憂いが少しでも晴れるのなら安いものですよ」

 そう、俺の個人の感情より優先すべきはフレデリック様だからな。国は許さんが。

「……ありがとう、ニコラ」

 俺の考えを察したのか、少し苦い笑いを浮かべながらもフレデリック様が微笑む。

 その言葉だけでも署名した甲斐があったと言うものだ。

 俺達の時間は穏やかに過ぎながらも、母国の滅びは刻々と近づいていた。 
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