25 / 47
1-3.男娼王子の療養と王国のこれから
二十五話
しおりを挟む
フレデリック様を看病しつつ、まるで蜜月のような日々を過ごしていると、ある日アルフレッドが訪ねてきた。
「経過はどうですか?まあ、私が診たのに悪くなると言うことは……普通はありませんけどね?」
「大丈夫だ。最近は起き上がれるくらいにはなっている」
暗に手を出してないだろうな?と圧力をかけてくるアルフレッドに、大丈夫だと言いながら、部屋へと案内する。
「フレデリック様、前に診てもらった医者が来たんで会えますか?」
「……ああ」
意識のあるうちに他人と会わせるのは初めてなので、アルフレッドを部屋へと入れる前に確認したんだが……承諾されたけど、あまり他人に会いたそうな雰囲気ではないな。
「アルフレッド、手短に頼めるか?」
「構いませんよ。患者の負担になる事は望みませんので」
無理を言っているのは承知の上だが、それでも承諾したアルフレッドに安堵した。
「フレデリック様入りますね」
今一度声をかけて、アルフレッドを部屋へと入れる。
「フレデリック様、こいつがアルフレッドです」
「こんにちわ。意識がある状態でお会いするのは初めてですね。アルフレッドと申します」
「……高名な、医神アルフレッドに会えるとは光栄だ。このような姿で申し訳ない」
アルフレッドを紹介すれば、フレデリック様は僅かにひきつる顔を歪めて笑みを作った。
力なく握り締められた手が震えているあたり、無理しているのがわかる。
「健康な人と会うことは滅多にないので、お気にせず。……ニコラウス、あなたはすぐに彼の側へ」
フレデリック様の反応を見たアルフレッドが俺へと指示を出す。
その気遣いをありがたく思いながら、俺はベッドへと座り、フレデリック様の体を抱え、抱き締めた。
「そこまでしなさいと言ったわけではないんですけど……」
呆れるアルフレッドの声を聞きつつ、震えるフレデリック様を宥めるように、冷たくなった手を握る。
「大丈夫ですよフレデリック様。俺が側に居ます」
「ニコラ……」
しなだれかかるフレデリック様をお痛わしいと思いながらも愛おしいと感じる。
このまま俺の腕の中に閉じ込めておきたい程度には。
「仲の良いところ失礼しますが、診察させていただきますね」
フレデリック様が少し落ち着いたのを確認したアルフレッドが俺達の側までやってくる。
「……すまない、アルフレッド殿」
「いえ、あなたの受けた仕打ちを考えれば、仕方のないことですので。むしろ、暴れないだけ流石ですよ」
俺に持たれながらも必死に七つ星冒険者への礼儀を尽くそうとしているフレデリック様にアルフレッドはそれなりに好感を感じているようだ。
元とはいえ、対王族だともう少し辛辣な物言いになるんだよなこいつ。
「ニコラウス。視線が鬱陶しいです。誰もあなたの大事な人を取る訳ないんですから、そんな視線向けないでください」
どうやらアルフレッドに警戒する視線を向けていたようで、呆れたように流される。
だが、仕方ないだろう。医者というのは、前世からモテると認識しているのだから。
「触れますよ」
「ああ」
俺の事を無視する事にしたらしい、フレデリック様に許可を取りながら、診察を始める。
「体力と免疫の下降は下限を迎えたようですね。これ以上悪くなる事はないでしょうが、切欠があればまた熱を出すのは確実です。あと、一ヶ月程度は安静を。それ以降は体調を見ながらリハビリと言ったところですね」
「わかった」
一通り診終わった後のアルフレッドから言われた事を頭に留めつつ頷く。
「くれぐれも無理はさせないように」
「わかってるって」
「フレデリック。あなたもご自身の脆弱さをご理解くださいね」
「……ああ」
二人揃ってアルフレッドから念を押される。やらかしてる手前何も言えねぇんだな。
「とりあえず、薬は以前と同じものを出しておきますので、服薬は継続を。何か異変があればすぐに知らせてください」
「助かる」
持ってきた鞄から必要な薬をテーブルに置いていくアルフレッドに礼を言う。
「それと……あなた達の母国についての話もありますが……聞いておきますか?」
薬を置きながら告げたアルフレッドの言葉に、フレデリック様の体が強ばる。
「今は……」
「聞かせてほしい」
後で聞こうと、断ろうとした俺の言葉をフレデリック様が遮った。その瞳には、王族としての覚悟が見て取れた。
「いいでしょう。以前、ニコラウスと話しましたが……平民の三分の一ほどは、冒険者ギルドの者達と避難を開始しました」
「三分の一?少ないな?」
国民の数からしたら多いだろうが、それでも天災級モンスターが出ている状態での避難人数と考えたら少ない。
「王家が、七つ星冒険者に頼らずとも……我らには神に祝福されし、聖女がいると言い出しましてね。王妃直々に討伐に乗り出すそうですよ」
呆れたようなアルフレッドの言葉に、フレデリック様の顔が青ざめる。
あのお花畑女、恋愛脳だけじゃなく、本気でお花畑やってんだな。
「国と滅びるつもりなら、まあ仕方ねぇな」
「ニコラ……」
「駄目ですよ。フレデリック様。あなたの願いでも、王家を選んだ国民を助けるつもりはない。あいつらは、あんたを苦しめた王家についた。助ける価値なんてない」
すがるようなフレデリック様にキッパリと言えば、視線を逸らされる。ああ、そんな顔見たくない。
「アルフレッド」
「限界になるまでは、働きかけてみましょう」
「頼む」
アルフレッドに声をかければ、続きを言わずとも承諾の声が返ってくる。
見切りをつけた方が楽だろうにな。そんなフレデリック様だから惚れてるんだが。
「すまないニコラ」
「あなたの悲しむ顔が見たくないだけですよ」
わがままを言ってしまったのではないだろうかと言った感じの表情のフレデリック様の手を取り、頬擦る。
そんな俺を見上げ、僅かに笑みを浮かべたフレデリック様に、民を見捨てる事に強情にならなくて良かったと思った。
「はいはい。仲の良いところ悪いですけど、私はそろそろ帰りますよ。なにもなければ、一ヶ月後には訪ねますが……動きがあればすぐに顔を出しますので」
それだけ言い残し、アルフレッドは転移魔法で去っていく。
「……礼を言いたかったのだが」
「元気になれば、それがあいつにとっての礼ですよ」
礼を尽くせなかった事に悔しそうにするフレデリック様を宥めつつ、それ以外の事を思考の外に放り投げる。
今の俺には必要ないことだからな。
「それより、夕食に食べたいものはありますか?」
「……少しだけ、肉が入ったものが食べたい」
「じゃあ、柔らかくなるまで煮たシチューにでもしましょうか」
腕の中にいるフレデリック様を甘やかしつつ、一緒にいたがるフレデリック様の望むままに二人で厨房へと向かうのだった。
「経過はどうですか?まあ、私が診たのに悪くなると言うことは……普通はありませんけどね?」
「大丈夫だ。最近は起き上がれるくらいにはなっている」
暗に手を出してないだろうな?と圧力をかけてくるアルフレッドに、大丈夫だと言いながら、部屋へと案内する。
「フレデリック様、前に診てもらった医者が来たんで会えますか?」
「……ああ」
意識のあるうちに他人と会わせるのは初めてなので、アルフレッドを部屋へと入れる前に確認したんだが……承諾されたけど、あまり他人に会いたそうな雰囲気ではないな。
「アルフレッド、手短に頼めるか?」
「構いませんよ。患者の負担になる事は望みませんので」
無理を言っているのは承知の上だが、それでも承諾したアルフレッドに安堵した。
「フレデリック様入りますね」
今一度声をかけて、アルフレッドを部屋へと入れる。
「フレデリック様、こいつがアルフレッドです」
「こんにちわ。意識がある状態でお会いするのは初めてですね。アルフレッドと申します」
「……高名な、医神アルフレッドに会えるとは光栄だ。このような姿で申し訳ない」
アルフレッドを紹介すれば、フレデリック様は僅かにひきつる顔を歪めて笑みを作った。
力なく握り締められた手が震えているあたり、無理しているのがわかる。
「健康な人と会うことは滅多にないので、お気にせず。……ニコラウス、あなたはすぐに彼の側へ」
フレデリック様の反応を見たアルフレッドが俺へと指示を出す。
その気遣いをありがたく思いながら、俺はベッドへと座り、フレデリック様の体を抱え、抱き締めた。
「そこまでしなさいと言ったわけではないんですけど……」
呆れるアルフレッドの声を聞きつつ、震えるフレデリック様を宥めるように、冷たくなった手を握る。
「大丈夫ですよフレデリック様。俺が側に居ます」
「ニコラ……」
しなだれかかるフレデリック様をお痛わしいと思いながらも愛おしいと感じる。
このまま俺の腕の中に閉じ込めておきたい程度には。
「仲の良いところ失礼しますが、診察させていただきますね」
フレデリック様が少し落ち着いたのを確認したアルフレッドが俺達の側までやってくる。
「……すまない、アルフレッド殿」
「いえ、あなたの受けた仕打ちを考えれば、仕方のないことですので。むしろ、暴れないだけ流石ですよ」
俺に持たれながらも必死に七つ星冒険者への礼儀を尽くそうとしているフレデリック様にアルフレッドはそれなりに好感を感じているようだ。
元とはいえ、対王族だともう少し辛辣な物言いになるんだよなこいつ。
「ニコラウス。視線が鬱陶しいです。誰もあなたの大事な人を取る訳ないんですから、そんな視線向けないでください」
どうやらアルフレッドに警戒する視線を向けていたようで、呆れたように流される。
だが、仕方ないだろう。医者というのは、前世からモテると認識しているのだから。
「触れますよ」
「ああ」
俺の事を無視する事にしたらしい、フレデリック様に許可を取りながら、診察を始める。
「体力と免疫の下降は下限を迎えたようですね。これ以上悪くなる事はないでしょうが、切欠があればまた熱を出すのは確実です。あと、一ヶ月程度は安静を。それ以降は体調を見ながらリハビリと言ったところですね」
「わかった」
一通り診終わった後のアルフレッドから言われた事を頭に留めつつ頷く。
「くれぐれも無理はさせないように」
「わかってるって」
「フレデリック。あなたもご自身の脆弱さをご理解くださいね」
「……ああ」
二人揃ってアルフレッドから念を押される。やらかしてる手前何も言えねぇんだな。
「とりあえず、薬は以前と同じものを出しておきますので、服薬は継続を。何か異変があればすぐに知らせてください」
「助かる」
持ってきた鞄から必要な薬をテーブルに置いていくアルフレッドに礼を言う。
「それと……あなた達の母国についての話もありますが……聞いておきますか?」
薬を置きながら告げたアルフレッドの言葉に、フレデリック様の体が強ばる。
「今は……」
「聞かせてほしい」
後で聞こうと、断ろうとした俺の言葉をフレデリック様が遮った。その瞳には、王族としての覚悟が見て取れた。
「いいでしょう。以前、ニコラウスと話しましたが……平民の三分の一ほどは、冒険者ギルドの者達と避難を開始しました」
「三分の一?少ないな?」
国民の数からしたら多いだろうが、それでも天災級モンスターが出ている状態での避難人数と考えたら少ない。
「王家が、七つ星冒険者に頼らずとも……我らには神に祝福されし、聖女がいると言い出しましてね。王妃直々に討伐に乗り出すそうですよ」
呆れたようなアルフレッドの言葉に、フレデリック様の顔が青ざめる。
あのお花畑女、恋愛脳だけじゃなく、本気でお花畑やってんだな。
「国と滅びるつもりなら、まあ仕方ねぇな」
「ニコラ……」
「駄目ですよ。フレデリック様。あなたの願いでも、王家を選んだ国民を助けるつもりはない。あいつらは、あんたを苦しめた王家についた。助ける価値なんてない」
すがるようなフレデリック様にキッパリと言えば、視線を逸らされる。ああ、そんな顔見たくない。
「アルフレッド」
「限界になるまでは、働きかけてみましょう」
「頼む」
アルフレッドに声をかければ、続きを言わずとも承諾の声が返ってくる。
見切りをつけた方が楽だろうにな。そんなフレデリック様だから惚れてるんだが。
「すまないニコラ」
「あなたの悲しむ顔が見たくないだけですよ」
わがままを言ってしまったのではないだろうかと言った感じの表情のフレデリック様の手を取り、頬擦る。
そんな俺を見上げ、僅かに笑みを浮かべたフレデリック様に、民を見捨てる事に強情にならなくて良かったと思った。
「はいはい。仲の良いところ悪いですけど、私はそろそろ帰りますよ。なにもなければ、一ヶ月後には訪ねますが……動きがあればすぐに顔を出しますので」
それだけ言い残し、アルフレッドは転移魔法で去っていく。
「……礼を言いたかったのだが」
「元気になれば、それがあいつにとっての礼ですよ」
礼を尽くせなかった事に悔しそうにするフレデリック様を宥めつつ、それ以外の事を思考の外に放り投げる。
今の俺には必要ないことだからな。
「それより、夕食に食べたいものはありますか?」
「……少しだけ、肉が入ったものが食べたい」
「じゃあ、柔らかくなるまで煮たシチューにでもしましょうか」
腕の中にいるフレデリック様を甘やかしつつ、一緒にいたがるフレデリック様の望むままに二人で厨房へと向かうのだった。
6
お気に入りに追加
409
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
悪役令嬢の兄になりました。妹を更生させたら攻略対象者に迫られています。
りまり
BL
妹が生まれた日、突然前世の記憶がよみがえった。
大きくなるにつれ、この世界が前世で弟がはまっていた乙女ゲームに酷似した世界だとわかった。
俺のかわいい妹が悪役令嬢だなんて!!!
大事なことだからもう一度言うが!
妹が悪役令嬢なんてありえない!
断固として妹を悪役令嬢などにさせないためにも今から妹を正しい道に導かねばならない。
え~と……ヒロインはあちらにいるんですけど……なぜ俺に迫ってくるんですか?
やめて下さい!
俺は至ってノーマルなんです!
華から生まれ落ちた少年は獅子の温もりに溺れる
帆田 久
BL
天気予報で豪雪注意報が発令される中
都内のマンションのベランダで、一つの小さな命が、その弱々しい灯火を消した
「…母さん…父さ、ん……」
どうか 生まれてきてしまった僕を 許して
死ぬ寸前に小さくそう呟いたその少年は、
見も知らぬ泉のほとりに咲く一輪の大華より再びの生を受けた。
これは、不遇の死を遂げた不幸で孤独な少年が、
転生した世界で1人の獅子獣人に救われ、囲われ、溺愛される物語ー
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
目覚めたそこはBLゲームの中だった。
慎
BL
ーーパッパー!!
キキーッ! …ドンッ!!
鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥
身体が曲線を描いて宙に浮く…
全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥
『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』
異世界だった。
否、
腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる