転生冒険者と男娼王子

海野璃音

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1-3.男娼王子の療養と王国のこれから

二十五話

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 フレデリック様を看病しつつ、まるで蜜月のような日々を過ごしていると、ある日アルフレッドが訪ねてきた。

「経過はどうですか?まあ、私が診たのに悪くなると言うことは……普通はありませんけどね?」
「大丈夫だ。最近は起き上がれるくらいにはなっている」

 暗に手を出してないだろうな?と圧力をかけてくるアルフレッドに、大丈夫だと言いながら、部屋へと案内する。

「フレデリック様、前に診てもらった医者が来たんで会えますか?」
「……ああ」

 意識のあるうちに他人と会わせるのは初めてなので、アルフレッドを部屋へと入れる前に確認したんだが……承諾されたけど、あまり他人に会いたそうな雰囲気ではないな。

「アルフレッド、手短に頼めるか?」
「構いませんよ。患者の負担になる事は望みませんので」

 無理を言っているのは承知の上だが、それでも承諾したアルフレッドに安堵した。

「フレデリック様入りますね」

 今一度声をかけて、アルフレッドを部屋へと入れる。

「フレデリック様、こいつがアルフレッドです」
「こんにちわ。意識がある状態でお会いするのは初めてですね。アルフレッドと申します」
「……高名な、医神アルフレッドに会えるとは光栄だ。このような姿で申し訳ない」

 アルフレッドを紹介すれば、フレデリック様は僅かにひきつる顔を歪めて笑みを作った。

 力なく握り締められた手が震えているあたり、無理しているのがわかる。

「健康な人と会うことは滅多にないので、お気にせず。……ニコラウス、あなたはすぐに彼の側へ」

 フレデリック様の反応を見たアルフレッドが俺へと指示を出す。

 その気遣いをありがたく思いながら、俺はベッドへと座り、フレデリック様の体を抱え、抱き締めた。

「そこまでしなさいと言ったわけではないんですけど……」

 呆れるアルフレッドの声を聞きつつ、震えるフレデリック様を宥めるように、冷たくなった手を握る。

「大丈夫ですよフレデリック様。俺が側に居ます」
「ニコラ……」

 しなだれかかるフレデリック様をお痛わしいと思いながらも愛おしいと感じる。

 このまま俺の腕の中に閉じ込めておきたい程度には。

「仲の良いところ失礼しますが、診察させていただきますね」

 フレデリック様が少し落ち着いたのを確認したアルフレッドが俺達の側までやってくる。

「……すまない、アルフレッド殿」
「いえ、あなたの受けた仕打ちを考えれば、仕方のないことですので。むしろ、暴れないだけ流石ですよ」

 俺に持たれながらも必死に七つ星冒険者への礼儀を尽くそうとしているフレデリック様にアルフレッドはそれなりに好感を感じているようだ。

 元とはいえ、対王族だともう少し辛辣な物言いになるんだよなこいつ。

「ニコラウス。視線が鬱陶しいです。誰もあなたの大事な人を取る訳ないんですから、そんな視線向けないでください」

 どうやらアルフレッドに警戒する視線を向けていたようで、呆れたように流される。

 だが、仕方ないだろう。医者というのは、前世からモテると認識しているのだから。

「触れますよ」
「ああ」

 俺の事を無視する事にしたらしい、フレデリック様に許可を取りながら、診察を始める。

「体力と免疫の下降は下限を迎えたようですね。これ以上悪くなる事はないでしょうが、切欠があればまた熱を出すのは確実です。あと、一ヶ月程度は安静を。それ以降は体調を見ながらリハビリと言ったところですね」
「わかった」

 一通り診終わった後のアルフレッドから言われた事を頭に留めつつ頷く。

「くれぐれも無理はさせないように」
「わかってるって」
「フレデリック。あなたもご自身の脆弱さをご理解くださいね」
「……ああ」

 二人揃ってアルフレッドから念を押される。やらかしてる手前何も言えねぇんだな。

「とりあえず、薬は以前と同じものを出しておきますので、服薬は継続を。何か異変があればすぐに知らせてください」
「助かる」

 持ってきた鞄から必要な薬をテーブルに置いていくアルフレッドに礼を言う。

「それと……あなた達の母国についての話もありますが……聞いておきますか?」

 薬を置きながら告げたアルフレッドの言葉に、フレデリック様の体が強ばる。

「今は……」
「聞かせてほしい」

 後で聞こうと、断ろうとした俺の言葉をフレデリック様が遮った。その瞳には、王族としての覚悟が見て取れた。

「いいでしょう。以前、ニコラウスと話しましたが……平民の三分の一ほどは、冒険者ギルドの者達と避難を開始しました」
「三分の一?少ないな?」

 国民の数からしたら多いだろうが、それでも天災級モンスターが出ている状態での避難人数と考えたら少ない。

「王家が、七つ星冒険者に頼らずとも……我らには神に祝福されし、聖女がいると言い出しましてね。王妃直々に討伐に乗り出すそうですよ」

 呆れたようなアルフレッドの言葉に、フレデリック様の顔が青ざめる。

 あのお花畑女、恋愛脳だけじゃなく、本気でお花畑やってんだな。

「国と滅びるつもりなら、まあ仕方ねぇな」
「ニコラ……」
「駄目ですよ。フレデリック様。あなたの願いでも、王家を選んだ国民を助けるつもりはない。あいつらは、あんたを苦しめた王家についた。助ける価値なんてない」

 すがるようなフレデリック様にキッパリと言えば、視線を逸らされる。ああ、そんな顔見たくない。

「アルフレッド」
「限界になるまでは、働きかけてみましょう」
「頼む」

 アルフレッドに声をかければ、続きを言わずとも承諾の声が返ってくる。

 見切りをつけた方が楽だろうにな。そんなフレデリック様だから惚れてるんだが。

「すまないニコラ」
「あなたの悲しむ顔が見たくないだけですよ」

 わがままを言ってしまったのではないだろうかと言った感じの表情のフレデリック様の手を取り、頬擦る。

 そんな俺を見上げ、僅かに笑みを浮かべたフレデリック様に、民を見捨てる事に強情にならなくて良かったと思った。

「はいはい。仲の良いところ悪いですけど、私はそろそろ帰りますよ。なにもなければ、一ヶ月後には訪ねますが……動きがあればすぐに顔を出しますので」

 それだけ言い残し、アルフレッドは転移魔法で去っていく。

「……礼を言いたかったのだが」
「元気になれば、それがあいつにとっての礼ですよ」

 礼を尽くせなかった事に悔しそうにするフレデリック様を宥めつつ、それ以外の事を思考の外に放り投げる。

 今の俺には必要ないことだからな。

「それより、夕食に食べたいものはありますか?」
「……少しだけ、肉が入ったものが食べたい」
「じゃあ、柔らかくなるまで煮たシチューにでもしましょうか」

 腕の中にいるフレデリック様を甘やかしつつ、一緒にいたがるフレデリック様の望むままに二人で厨房へと向かうのだった。
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