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1-3.男娼王子の療養と王国のこれから
二十三話
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同じ七つ星冒険者で流れの医者のアルフレッドを呼び寄せれば、開口一番に怒鳴られた。
「ポーション常飲者に何無理させてるんですか!」
白髪の一見老人に見間違えそうな温和な男にしたたかに怒られるのはさすがに堪える。俺が悪いから怒られるのは当たり前だけど。
寝室に寝かせたままのフレデリック様を診てもらえば、俺が予想していた通り、ポーションを常飲していた為に自分自身の免疫や体力が限りなく低下しているそうだ。
それでも、悪質な麻薬や媚薬の類は使われていなかったのか、時間をかけて治療をすれば、日常生活を問題なく遅れる程度には回復するらしい。
「運動とかは無理そうか?」
「本人の回復力次第ですかねぇ……日常生活が送れるようになれば、軽い運動から始めて様子を見るといいでしょう。くれぐれも、彼が望んだからと言って抱かないように」
しっかりと釘を刺されて、呻きながらも、アルフレッドからフレデリック様への療養食を教えてもらう。
方向性としては、俺がフレデリック様へ作ってきた食事と変わらないが、レパートリーに関しては流石というべきか、俺の思いつかなかった料理が出てきて参考になる。ワンパターンになってしまい飽きさせてしまう事が無くなってホッとした。
「淫紋は綺麗に塗り替えられているから私ができることはなさそうですね」
「完全に消せる方法はまだないのか?」
「ないですねぇ……下腹部を丸々こそげとれば可能性としてはありますがまず死にます」
淫紋については、物騒な対処法を聞いただけに留まり、一通りの診察と薬の処方等を終えたアルフレッドは俺へと話を振ってきた。
「それで、何があって彼はあなたのもとに?」
「あー……実は、ギルドから天災級モンスターの討伐依頼を頼まれてな……」
依頼の内容から母国であったことを伝えれば、微笑みを浮かべたアルフレッドから怒気が滲みだす。
「……これだから腐った王族は」
温和な顔から吐き出されたとは思えない言葉。これがこの人を七つ星の中では善良と言いながらも比較的とつける要因である。
嫌いなものは悪逆を尽くす者。弱者や病人怪我人には優しいが、悪人には苛烈になる人なのだ。
その昔、放浪の医者として各国を回っていたアルフレッドはとある国の王宮に招かれ、そのまま王族の為だけにその医術の腕を振るうよう強制されたらしい。
ある時、国で疫病が流行り、罪もない民衆が死にゆく中、アルフレッドの医術により疫病を免れた王侯貴族が疫病に苦しむ民に重税を課し、贅を尽くすのを目の当たりにした事に絶望し、王侯貴族を疫病と似た毒で殺しつくした。
もちろん、疑われ拷問にまで掛けられたが自白する事はなく。幽閉されている時に王侯貴族が減って国力が落ちている国を他国に滅ぼされ、保護された。
それまでの期間の仕打ちのせいで、黒かった髪は白髪となり、見殺しにした平民達への贖罪のように病気や怪我だけでなく、天災級モンスターすら屠るような医者兼七つ星冒険者ができたというのが、ギルドでの語り草である。
「で、俺が見限った国があるわけだが……あんたはどうする?」
「そうですねぇ……悪逆王侯貴族がどうなろうと知ったことではありませんが民が犠牲になるのは気になりますねぇ」
互いにテーブルを挟んでソファーに座りながら視線をぶつけ合う。
「討伐に向かうと?」
「やめてくださいよ、あなたと敵対したいわけじゃない。私が気にかけるのは罪のない民だけ。あなたが見限ったのは王侯貴族だけ。それでいいじゃないですか」
思わず睨んだ俺に、アルフレッドがにこやかに笑みを浮かべる。
「それに、あなたが攫ってきた彼は、真っ当に王位つけていれば善良な統治者のようですし……民が犠牲になるのは心を痛めるのではないですか?」
フレデリック様の事を出されると国ごと滅べば良いという考えに罪悪感を感じた。
たしかに、今は解放された事を受け入れるのがやっとな精神状況であると思うが、おそらく民が犠牲になればその弱った心に傷を作る事になるのが想像に容易い。
だが、王宮で啖呵をきった手前、できうる限り苦しんで滅んでほしい。
「あなたの気持ちもわかるので……一つ提案なのですが、ギルドの撤退と合わせて民を他の国へ避難させるのはいかがでしょう?」
「他国がそれだけの避難民を受け入れるはずがない」
「普通に考えたらそうですが……避難民を受け入れてくれれば、セーファスが滅んだ後、あなたが責任を持ってアンデットキングを倒すと言えば、避難民を拒んだ後の自国の被害と避難民を受け入れる負担を考えて受け入れると思いますよ」
アルフレッドの言葉に確かにそれなら母国の隣国も避難民を受け入れるだろうと頭をよぎる。だが……。
「なんで俺が」
「アンデットとなった国王でもぶん殴れば少しは溜飲も下がるでしょう?」
「確かに」
死体蹴りは好みじゃないが、一発くらいぶん殴りたいというのはある。ついでにあのお花畑女も。
「できるのならあなたからギルドに告げてほしいのですが……彼もいますし、あなたが家から離れる事もなさそうなので、私から伝えておきますよ」
「いいのか?」
「ええ、めったに頼って来ないあなたが頼ってきてくださったので、特別に。時が来ましたらギルド職員を向かわせますからそれまでは大人しくしていてください」
大人しくって……アンデットキングが滅ぼす前に俺が滅ぼしに行くとでも思われてるのか……いや、思われててもおかしくないか……。
なんたって前例がいくつかあるんだよなぁ……。アルフレッドしかり、他の奴しかり。
「ポーション常飲者に何無理させてるんですか!」
白髪の一見老人に見間違えそうな温和な男にしたたかに怒られるのはさすがに堪える。俺が悪いから怒られるのは当たり前だけど。
寝室に寝かせたままのフレデリック様を診てもらえば、俺が予想していた通り、ポーションを常飲していた為に自分自身の免疫や体力が限りなく低下しているそうだ。
それでも、悪質な麻薬や媚薬の類は使われていなかったのか、時間をかけて治療をすれば、日常生活を問題なく遅れる程度には回復するらしい。
「運動とかは無理そうか?」
「本人の回復力次第ですかねぇ……日常生活が送れるようになれば、軽い運動から始めて様子を見るといいでしょう。くれぐれも、彼が望んだからと言って抱かないように」
しっかりと釘を刺されて、呻きながらも、アルフレッドからフレデリック様への療養食を教えてもらう。
方向性としては、俺がフレデリック様へ作ってきた食事と変わらないが、レパートリーに関しては流石というべきか、俺の思いつかなかった料理が出てきて参考になる。ワンパターンになってしまい飽きさせてしまう事が無くなってホッとした。
「淫紋は綺麗に塗り替えられているから私ができることはなさそうですね」
「完全に消せる方法はまだないのか?」
「ないですねぇ……下腹部を丸々こそげとれば可能性としてはありますがまず死にます」
淫紋については、物騒な対処法を聞いただけに留まり、一通りの診察と薬の処方等を終えたアルフレッドは俺へと話を振ってきた。
「それで、何があって彼はあなたのもとに?」
「あー……実は、ギルドから天災級モンスターの討伐依頼を頼まれてな……」
依頼の内容から母国であったことを伝えれば、微笑みを浮かべたアルフレッドから怒気が滲みだす。
「……これだから腐った王族は」
温和な顔から吐き出されたとは思えない言葉。これがこの人を七つ星の中では善良と言いながらも比較的とつける要因である。
嫌いなものは悪逆を尽くす者。弱者や病人怪我人には優しいが、悪人には苛烈になる人なのだ。
その昔、放浪の医者として各国を回っていたアルフレッドはとある国の王宮に招かれ、そのまま王族の為だけにその医術の腕を振るうよう強制されたらしい。
ある時、国で疫病が流行り、罪もない民衆が死にゆく中、アルフレッドの医術により疫病を免れた王侯貴族が疫病に苦しむ民に重税を課し、贅を尽くすのを目の当たりにした事に絶望し、王侯貴族を疫病と似た毒で殺しつくした。
もちろん、疑われ拷問にまで掛けられたが自白する事はなく。幽閉されている時に王侯貴族が減って国力が落ちている国を他国に滅ぼされ、保護された。
それまでの期間の仕打ちのせいで、黒かった髪は白髪となり、見殺しにした平民達への贖罪のように病気や怪我だけでなく、天災級モンスターすら屠るような医者兼七つ星冒険者ができたというのが、ギルドでの語り草である。
「で、俺が見限った国があるわけだが……あんたはどうする?」
「そうですねぇ……悪逆王侯貴族がどうなろうと知ったことではありませんが民が犠牲になるのは気になりますねぇ」
互いにテーブルを挟んでソファーに座りながら視線をぶつけ合う。
「討伐に向かうと?」
「やめてくださいよ、あなたと敵対したいわけじゃない。私が気にかけるのは罪のない民だけ。あなたが見限ったのは王侯貴族だけ。それでいいじゃないですか」
思わず睨んだ俺に、アルフレッドがにこやかに笑みを浮かべる。
「それに、あなたが攫ってきた彼は、真っ当に王位つけていれば善良な統治者のようですし……民が犠牲になるのは心を痛めるのではないですか?」
フレデリック様の事を出されると国ごと滅べば良いという考えに罪悪感を感じた。
たしかに、今は解放された事を受け入れるのがやっとな精神状況であると思うが、おそらく民が犠牲になればその弱った心に傷を作る事になるのが想像に容易い。
だが、王宮で啖呵をきった手前、できうる限り苦しんで滅んでほしい。
「あなたの気持ちもわかるので……一つ提案なのですが、ギルドの撤退と合わせて民を他の国へ避難させるのはいかがでしょう?」
「他国がそれだけの避難民を受け入れるはずがない」
「普通に考えたらそうですが……避難民を受け入れてくれれば、セーファスが滅んだ後、あなたが責任を持ってアンデットキングを倒すと言えば、避難民を拒んだ後の自国の被害と避難民を受け入れる負担を考えて受け入れると思いますよ」
アルフレッドの言葉に確かにそれなら母国の隣国も避難民を受け入れるだろうと頭をよぎる。だが……。
「なんで俺が」
「アンデットとなった国王でもぶん殴れば少しは溜飲も下がるでしょう?」
「確かに」
死体蹴りは好みじゃないが、一発くらいぶん殴りたいというのはある。ついでにあのお花畑女も。
「できるのならあなたからギルドに告げてほしいのですが……彼もいますし、あなたが家から離れる事もなさそうなので、私から伝えておきますよ」
「いいのか?」
「ええ、めったに頼って来ないあなたが頼ってきてくださったので、特別に。時が来ましたらギルド職員を向かわせますからそれまでは大人しくしていてください」
大人しくって……アンデットキングが滅ぼす前に俺が滅ぼしに行くとでも思われてるのか……いや、思われててもおかしくないか……。
なんたって前例がいくつかあるんだよなぁ……。アルフレッドしかり、他の奴しかり。
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