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1-3.男娼王子の療養と王国のこれから
二十二話
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「不甲斐ない……」
ベッドでタオルにまかれたまま横たわるフレデリック様がポツリと零す。
逆上せたフレデリック様を抱え、タオルでぐるぐる巻きにし、水分を取らせたところなのだが、やや回復してきたからか言葉を零す余裕が出てきたようだった。
「なぜですか?」
「あの程度の奉仕……以前までなら他愛もない事だったのだ……」
やはりというか、どうやら奉仕できなかった事がフレデリック様のプライドに傷を作ったようだ。俺としては、そのプライドの高さは好ましいが、娼夫としてのプライドはどこかに捨ててきてほしい。フレデリック様は奉仕される側なのだから。
「なぜ、あの程度で……」
「今日はポーションを飲んでいないからですよ」
体力や精力を回復する類のポーションを常飲していたフレデリック様の体は、人が本来持っていた免疫力や回復力というものが欠如している可能性が高い。そして、その推測は今の様子を見る限り間違ってはいないようだった。
「なら……」
「いけません。ポーションに頼りすぎれば、いずれ今以上のガタが訪れます」
フレデリック様が言葉を紡ぐ前に遮り、まだ火照った頬を指の背で撫でる。
「しばらくは虚脱症状が続くでしょうが耐えてください。あなたの体が健やかなものとなるよう俺が側にいて支えますから」
恨みがましい目を向けていたフレデリック様が俺の言葉に目を見開く。そして、複雑そうにその目を下へと逸らした。
「だが、それではお前の献身に……返せるものがない」
「返していただくのは、フレデリック様の体が治ってからでお願いしたいですね」
眠るフレデリック様の隣に横になり、その唇へと軽い口づけを重ねる。
「私の働きに何かを返したいというのであれば、まずは健康になる事。そして健康になったのならその身を愛させていただく許可をください」
「お前の働きに見合わないだろう」
「いいえ、お傍においてくださるだけ何よりも代えがたい事です。その身に触れ、愛させていただく事はフレデリック様からのご慈悲に他ありません」
俺の言葉にそれでも納得いかないと言った顔のフレデリック様に苦笑しながら、細く、艶のある髪を指で梳く。
「それでもフレデリック様が俺に返したいというのであれば、今日のように愛でていただいても構いません。あなたから触れていただけるのはとても幸せでした」
「……そうか。なら、お前を愛せる様に体を治すことに専念しよう」
嬉しそうに頬を綻ばせて、フレデリック様が俺へと腕を伸ばし、俺の背中へと腕を回した。
「まだ、暑いでしょう?」
「構わない。こんなに近くにいるのにお前に触れていない方が惜しいだろう?」
まだ、体は熱いにもかかわらず俺へと身を寄せたフレデリック様が口の端を上げて笑う。行動は甘えているのに、笑みは不遜というか不敵というか……そこが堪らないんだけど。
「随分な殺し文句ですね。そんなこと言われたら離せないじゃないですか」
フレデリック様の体を抱き寄せながら、俺自身に氷属性の魔力を纏わせるように付与する。
「冷たい……何でもできるなお前は」
「これでも七つ星ですから」
「ふふっ、贅沢な……私しか許されないお前の使い方だろうな」
「ええ、もちろん」
フレデリック様の軽口に乗って返せば、楽し気なフレデリック様の笑い声が漏れる。
そんな他愛のない話をフレデリック様が寝付くまで交わし、俺は汗ばんだフレデリック様の額を撫でる。
「っ……」
無理をさせたからか、逆上せとは違う熱が出始めているようだ。弱っている体で逆上せたから仕方のない事だとは思うが……。
「不甲斐ないな」
俺がしっかりと戒めていれば、体調を悪化させる事はなかっただろう。元々目的としていた肌や髪の手入れもできなかったし、自分の至らなさにため息を吐いた。
まあ、今更後悔しても後の祭りだ。おそらく、数日は寝込むだろうから医者を呼ぼう。
思い浮かべるは同じ七つ星冒険者の治癒術士。治癒魔法だけでなく、外科的治療や薬学にも長けた七つ星冒険者にしては比較的善良な人物だ。より多くの人を救うと自ら人の領域からはみ出した人だが……。
淫紋の対処法も編み出した人だからそっちの経過も診てもらった方がいいだろう。もしかしたら解呪方法自体も見つけてるかもしれないし……だけど、怒られるだろうなぁ。持たないと思いながらもフレデリック様の好きにさせた事……。
穏やかな口調でこんこんと説教される自分の姿が脳裏に浮かび、キュッと眉を寄せる。
だからと言って、彼以上に腕のいい医者がいるわけもなく。俺は、収納魔法から彼へ連絡できる通信魔石を取り出したのだった。
ベッドでタオルにまかれたまま横たわるフレデリック様がポツリと零す。
逆上せたフレデリック様を抱え、タオルでぐるぐる巻きにし、水分を取らせたところなのだが、やや回復してきたからか言葉を零す余裕が出てきたようだった。
「なぜですか?」
「あの程度の奉仕……以前までなら他愛もない事だったのだ……」
やはりというか、どうやら奉仕できなかった事がフレデリック様のプライドに傷を作ったようだ。俺としては、そのプライドの高さは好ましいが、娼夫としてのプライドはどこかに捨ててきてほしい。フレデリック様は奉仕される側なのだから。
「なぜ、あの程度で……」
「今日はポーションを飲んでいないからですよ」
体力や精力を回復する類のポーションを常飲していたフレデリック様の体は、人が本来持っていた免疫力や回復力というものが欠如している可能性が高い。そして、その推測は今の様子を見る限り間違ってはいないようだった。
「なら……」
「いけません。ポーションに頼りすぎれば、いずれ今以上のガタが訪れます」
フレデリック様が言葉を紡ぐ前に遮り、まだ火照った頬を指の背で撫でる。
「しばらくは虚脱症状が続くでしょうが耐えてください。あなたの体が健やかなものとなるよう俺が側にいて支えますから」
恨みがましい目を向けていたフレデリック様が俺の言葉に目を見開く。そして、複雑そうにその目を下へと逸らした。
「だが、それではお前の献身に……返せるものがない」
「返していただくのは、フレデリック様の体が治ってからでお願いしたいですね」
眠るフレデリック様の隣に横になり、その唇へと軽い口づけを重ねる。
「私の働きに何かを返したいというのであれば、まずは健康になる事。そして健康になったのならその身を愛させていただく許可をください」
「お前の働きに見合わないだろう」
「いいえ、お傍においてくださるだけ何よりも代えがたい事です。その身に触れ、愛させていただく事はフレデリック様からのご慈悲に他ありません」
俺の言葉にそれでも納得いかないと言った顔のフレデリック様に苦笑しながら、細く、艶のある髪を指で梳く。
「それでもフレデリック様が俺に返したいというのであれば、今日のように愛でていただいても構いません。あなたから触れていただけるのはとても幸せでした」
「……そうか。なら、お前を愛せる様に体を治すことに専念しよう」
嬉しそうに頬を綻ばせて、フレデリック様が俺へと腕を伸ばし、俺の背中へと腕を回した。
「まだ、暑いでしょう?」
「構わない。こんなに近くにいるのにお前に触れていない方が惜しいだろう?」
まだ、体は熱いにもかかわらず俺へと身を寄せたフレデリック様が口の端を上げて笑う。行動は甘えているのに、笑みは不遜というか不敵というか……そこが堪らないんだけど。
「随分な殺し文句ですね。そんなこと言われたら離せないじゃないですか」
フレデリック様の体を抱き寄せながら、俺自身に氷属性の魔力を纏わせるように付与する。
「冷たい……何でもできるなお前は」
「これでも七つ星ですから」
「ふふっ、贅沢な……私しか許されないお前の使い方だろうな」
「ええ、もちろん」
フレデリック様の軽口に乗って返せば、楽し気なフレデリック様の笑い声が漏れる。
そんな他愛のない話をフレデリック様が寝付くまで交わし、俺は汗ばんだフレデリック様の額を撫でる。
「っ……」
無理をさせたからか、逆上せとは違う熱が出始めているようだ。弱っている体で逆上せたから仕方のない事だとは思うが……。
「不甲斐ないな」
俺がしっかりと戒めていれば、体調を悪化させる事はなかっただろう。元々目的としていた肌や髪の手入れもできなかったし、自分の至らなさにため息を吐いた。
まあ、今更後悔しても後の祭りだ。おそらく、数日は寝込むだろうから医者を呼ぼう。
思い浮かべるは同じ七つ星冒険者の治癒術士。治癒魔法だけでなく、外科的治療や薬学にも長けた七つ星冒険者にしては比較的善良な人物だ。より多くの人を救うと自ら人の領域からはみ出した人だが……。
淫紋の対処法も編み出した人だからそっちの経過も診てもらった方がいいだろう。もしかしたら解呪方法自体も見つけてるかもしれないし……だけど、怒られるだろうなぁ。持たないと思いながらもフレデリック様の好きにさせた事……。
穏やかな口調でこんこんと説教される自分の姿が脳裏に浮かび、キュッと眉を寄せる。
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