14 / 47
1-2.転生冒険者と男娼王子の最初の一日
十四話
しおりを挟む
隣の食堂にフレデリック様を運び、椅子に座らせてから厨房へと戻る。パン粥の入った鍋と必要な食器を往復して運び入れ、テーブルへと並べていく。
並べた食器を見て、パン粥だけでは食卓が寂しいと感じるが半分ほどは病人食だから仕方ない。本当はもう少し色々食べてほしいから近いうちに買い物に行かないと……。
そんなことを思いながら食器にパン粥をよそっていたら、フレデリック様が俺へ制止をかける。
「ニコラ、悪いが……その量は食べられる気がしない」
「あ……すみません。これでも少なくよそったんですが……コレの半分くらいなら食べれますか?」
「ああ、それくらいなら」
頷くフレデリック様に、これくらいしか食べられないのかと器を覗き込む。量的には普段俺が食べる量の四分の一とかそれくらいだ。俺はよく食う方だけど、それでもこの量は成人している男の食事量としては少ない。胃が縮んでるのは間違いないだろう。
「もし、これも食べきれそうになかったら言ってください。無理して食べるのも体に悪いですから」
「……わかった」
「それじゃあ、いただきましょうか」
自分の分も皿によそい、フレデリック様の正面に座ってからそう告げて、食事を始める。
スプーンで掬ったパン粥を口に含めば、口の中にうま味と薬草の風味が広がる。うん、味見した通りなかなかの出来栄えだろう。ただ、俺には少し物足りない。後で干し肉でもおやつ代わりに食べよう。
パン粥を食べながらフレデリック様に視線を向ければ、フレデリック様は静かに食事を続けていた。スプーンを進める手はゆっくりとしたもので、柔らかいパン粥すらよく噛んで食べている。喋る事もしないし、姿勢だって美しかった。
薄めだけど、形の良い唇が開いてパン粥の乗ったスプーンを咥える姿すら絵になるんだから美形って言うのはすごいよな。いや、フレデリック様が美しすぎるだけなんだろうけど。
ちらりちらりと食事に集中するフレデリック様に視線を向けながら、二杯目のパン粥をよそっていると、俺の正面でパン粥を食べていたフレデリック様の手が止まった。
「……すまない、食べきれそうにない」
「いいですよ。もったいないし、俺が食べるんで貰いますね」
スプーンを置いたフレデリック様に、手を伸ばしてまだ中身の入った器を取る。食べれて、俺の五分の一って所だな……。太らせたいが普通に食べるだけじゃむりだろう。おやつやら軽食やらすぐに食べれるものを細かく食べてもらう事から始めるか。
フレデリック様の食べ残しを確認してそのまま器を傾けて、中身をかき込む。食べ終えて、視線を正面に向けるとフレデリック様が驚いたような表情で俺を見ていた。……さすがに食べ残したものを食べるのは王宮育ちのフレデリック様からしたら行儀悪かったかもな。
「すみません、行儀悪かったですね」
「いや……大丈夫だ。王家の食卓で残されたものを使用人が食べていたりすると言う事は知っていたし……ただ、お前が抵抗なく食べた事に驚いただけで……」
「まあ、新人冒険者してた時はギルドの酒場で同じくらいのやつらと大皿料理つついたりしてましたし……それに比べたらフレデリック様が手を付けたものに抵抗なんてないですよ」
知人友人程度の関係性ならあまり食べさしでも気になる事はない。フレデリック様のものだったら尚更だ。
「俺はもう少し食べるんで……少し待っててもらえますか?」
ここで切り上げてしまってもよかったんだが、鍋に入っている分を残すのももったいなく、同じものをフレデリック様に食べさせるのも申し訳ないのでこのまま食べきることにする。
「ああ、ゆっくり食べていい」
なんて言うフレデリック様の好意に甘えて、ゆっくりと食べさせてもらう。かき込んでもよかったけど、ゆっくり食べていいと言われたのに急いで食べたら心証悪くするかもしれないし……。
とか、思っていたんだが、フレデリック様に視線を向ければどことなく楽しそうに俺が食べている姿を見ている。
その視線はなんとなく知ってるぞ。新人の頃、ギルドの近くにあった食堂で飯を食っていた時に食堂のおばちゃんから見つめられていたアレである。若い子がいっぱい食べてて微笑ましい的な……。
さすがに若くはないし、なによりフレデリック様にそう思われるのは気恥ずかしい。なんとなくそう思ったからか少しだけ食べるスピードを上げて、鍋の中を空にした。
「ごちそうさまでした」
「よく食べきったものだな」
「これでも控えめな方ですよ。依頼を終えた後とか、もう少し食べますし」
フレデリック様がどれだけ食べるかわからなかったから、今日用意したのは普段俺が食べる分程度。食事量としては腹七分、八分って所だろうな。
「それだけ立派な体だと食べなければ持たないのか……」
「別に食べない時は食べないですけどね。依頼の時とか絶食する時もあるんで」
だから食べれる時に食べるって感じになるんだが……。
「……ニコラ。お前が嫌でなければなんだが……この十五年何をしていたか聞かせてほしい」
苦笑しながら依頼時の時の事を話した俺にフレデリック様が少し考えてからそう言ってきた。
「別にいいですけど……フレデリック様の十五年も聞かせてくださいね」
「……楽しい事は何もないと思うんだが」
「あなたが俺の事を知りたいと思ってくれたように、俺だってあなたの事が知りたいんですよ。それに、実家がどうなったとか……ほんのちょっとですけど、気になりますし」
実家については欠片も興味ないが、そう言えばフレデリック様の優しさに付け込めるだろうと思って言葉を吐く。フレデリック様が語りたくないのなら仕方ないが、いったいどうしてあんな事になったのか知りたいのは事実だからな。
「……わかった。それでいい。お前ばかりに喋らせるのも不公平だからな」
俺の言葉に頷いてくれたフレデリック様に安堵しながら、俺は鍋と食器を纏めて、椅子から立ち上がる。
「ありがとうございます。じゃあ、これ片づけてくるんで……ちょっと準備したら俺の部屋戻りましょう」
そう言って俺は一度厨房へと向かい、フレデリック様を運ぶためにまた食堂へと戻るのだった。
並べた食器を見て、パン粥だけでは食卓が寂しいと感じるが半分ほどは病人食だから仕方ない。本当はもう少し色々食べてほしいから近いうちに買い物に行かないと……。
そんなことを思いながら食器にパン粥をよそっていたら、フレデリック様が俺へ制止をかける。
「ニコラ、悪いが……その量は食べられる気がしない」
「あ……すみません。これでも少なくよそったんですが……コレの半分くらいなら食べれますか?」
「ああ、それくらいなら」
頷くフレデリック様に、これくらいしか食べられないのかと器を覗き込む。量的には普段俺が食べる量の四分の一とかそれくらいだ。俺はよく食う方だけど、それでもこの量は成人している男の食事量としては少ない。胃が縮んでるのは間違いないだろう。
「もし、これも食べきれそうになかったら言ってください。無理して食べるのも体に悪いですから」
「……わかった」
「それじゃあ、いただきましょうか」
自分の分も皿によそい、フレデリック様の正面に座ってからそう告げて、食事を始める。
スプーンで掬ったパン粥を口に含めば、口の中にうま味と薬草の風味が広がる。うん、味見した通りなかなかの出来栄えだろう。ただ、俺には少し物足りない。後で干し肉でもおやつ代わりに食べよう。
パン粥を食べながらフレデリック様に視線を向ければ、フレデリック様は静かに食事を続けていた。スプーンを進める手はゆっくりとしたもので、柔らかいパン粥すらよく噛んで食べている。喋る事もしないし、姿勢だって美しかった。
薄めだけど、形の良い唇が開いてパン粥の乗ったスプーンを咥える姿すら絵になるんだから美形って言うのはすごいよな。いや、フレデリック様が美しすぎるだけなんだろうけど。
ちらりちらりと食事に集中するフレデリック様に視線を向けながら、二杯目のパン粥をよそっていると、俺の正面でパン粥を食べていたフレデリック様の手が止まった。
「……すまない、食べきれそうにない」
「いいですよ。もったいないし、俺が食べるんで貰いますね」
スプーンを置いたフレデリック様に、手を伸ばしてまだ中身の入った器を取る。食べれて、俺の五分の一って所だな……。太らせたいが普通に食べるだけじゃむりだろう。おやつやら軽食やらすぐに食べれるものを細かく食べてもらう事から始めるか。
フレデリック様の食べ残しを確認してそのまま器を傾けて、中身をかき込む。食べ終えて、視線を正面に向けるとフレデリック様が驚いたような表情で俺を見ていた。……さすがに食べ残したものを食べるのは王宮育ちのフレデリック様からしたら行儀悪かったかもな。
「すみません、行儀悪かったですね」
「いや……大丈夫だ。王家の食卓で残されたものを使用人が食べていたりすると言う事は知っていたし……ただ、お前が抵抗なく食べた事に驚いただけで……」
「まあ、新人冒険者してた時はギルドの酒場で同じくらいのやつらと大皿料理つついたりしてましたし……それに比べたらフレデリック様が手を付けたものに抵抗なんてないですよ」
知人友人程度の関係性ならあまり食べさしでも気になる事はない。フレデリック様のものだったら尚更だ。
「俺はもう少し食べるんで……少し待っててもらえますか?」
ここで切り上げてしまってもよかったんだが、鍋に入っている分を残すのももったいなく、同じものをフレデリック様に食べさせるのも申し訳ないのでこのまま食べきることにする。
「ああ、ゆっくり食べていい」
なんて言うフレデリック様の好意に甘えて、ゆっくりと食べさせてもらう。かき込んでもよかったけど、ゆっくり食べていいと言われたのに急いで食べたら心証悪くするかもしれないし……。
とか、思っていたんだが、フレデリック様に視線を向ければどことなく楽しそうに俺が食べている姿を見ている。
その視線はなんとなく知ってるぞ。新人の頃、ギルドの近くにあった食堂で飯を食っていた時に食堂のおばちゃんから見つめられていたアレである。若い子がいっぱい食べてて微笑ましい的な……。
さすがに若くはないし、なによりフレデリック様にそう思われるのは気恥ずかしい。なんとなくそう思ったからか少しだけ食べるスピードを上げて、鍋の中を空にした。
「ごちそうさまでした」
「よく食べきったものだな」
「これでも控えめな方ですよ。依頼を終えた後とか、もう少し食べますし」
フレデリック様がどれだけ食べるかわからなかったから、今日用意したのは普段俺が食べる分程度。食事量としては腹七分、八分って所だろうな。
「それだけ立派な体だと食べなければ持たないのか……」
「別に食べない時は食べないですけどね。依頼の時とか絶食する時もあるんで」
だから食べれる時に食べるって感じになるんだが……。
「……ニコラ。お前が嫌でなければなんだが……この十五年何をしていたか聞かせてほしい」
苦笑しながら依頼時の時の事を話した俺にフレデリック様が少し考えてからそう言ってきた。
「別にいいですけど……フレデリック様の十五年も聞かせてくださいね」
「……楽しい事は何もないと思うんだが」
「あなたが俺の事を知りたいと思ってくれたように、俺だってあなたの事が知りたいんですよ。それに、実家がどうなったとか……ほんのちょっとですけど、気になりますし」
実家については欠片も興味ないが、そう言えばフレデリック様の優しさに付け込めるだろうと思って言葉を吐く。フレデリック様が語りたくないのなら仕方ないが、いったいどうしてあんな事になったのか知りたいのは事実だからな。
「……わかった。それでいい。お前ばかりに喋らせるのも不公平だからな」
俺の言葉に頷いてくれたフレデリック様に安堵しながら、俺は鍋と食器を纏めて、椅子から立ち上がる。
「ありがとうございます。じゃあ、これ片づけてくるんで……ちょっと準備したら俺の部屋戻りましょう」
そう言って俺は一度厨房へと向かい、フレデリック様を運ぶためにまた食堂へと戻るのだった。
7
お気に入りに追加
411
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。
R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
(第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる