転生冒険者と男娼王子

海野璃音

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1-2.転生冒険者と男娼王子の最初の一日

十四話

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 隣の食堂にフレデリック様を運び、椅子に座らせてから厨房へと戻る。パン粥の入った鍋と必要な食器を往復して運び入れ、テーブルへと並べていく。

 並べた食器を見て、パン粥だけでは食卓が寂しいと感じるが半分ほどは病人食だから仕方ない。本当はもう少し色々食べてほしいから近いうちに買い物に行かないと……。

 そんなことを思いながら食器にパン粥をよそっていたら、フレデリック様が俺へ制止をかける。

「ニコラ、悪いが……その量は食べられる気がしない」
「あ……すみません。これでも少なくよそったんですが……コレの半分くらいなら食べれますか?」
「ああ、それくらいなら」

 頷くフレデリック様に、これくらいしか食べられないのかと器を覗き込む。量的には普段俺が食べる量の四分の一とかそれくらいだ。俺はよく食う方だけど、それでもこの量は成人している男の食事量としては少ない。胃が縮んでるのは間違いないだろう。

「もし、これも食べきれそうになかったら言ってください。無理して食べるのも体に悪いですから」
「……わかった」
「それじゃあ、いただきましょうか」

 自分の分も皿によそい、フレデリック様の正面に座ってからそう告げて、食事を始める。

 スプーンで掬ったパン粥を口に含めば、口の中にうま味と薬草の風味が広がる。うん、味見した通りなかなかの出来栄えだろう。ただ、俺には少し物足りない。後で干し肉でもおやつ代わりに食べよう。

 パン粥を食べながらフレデリック様に視線を向ければ、フレデリック様は静かに食事を続けていた。スプーンを進める手はゆっくりとしたもので、柔らかいパン粥すらよく噛んで食べている。喋る事もしないし、姿勢だって美しかった。

 薄めだけど、形の良い唇が開いてパン粥の乗ったスプーンを咥える姿すら絵になるんだから美形って言うのはすごいよな。いや、フレデリック様が美しすぎるだけなんだろうけど。

 ちらりちらりと食事に集中するフレデリック様に視線を向けながら、二杯目のパン粥をよそっていると、俺の正面でパン粥を食べていたフレデリック様の手が止まった。

「……すまない、食べきれそうにない」
「いいですよ。もったいないし、俺が食べるんで貰いますね」

 スプーンを置いたフレデリック様に、手を伸ばしてまだ中身の入った器を取る。食べれて、俺の五分の一って所だな……。太らせたいが普通に食べるだけじゃむりだろう。おやつやら軽食やらすぐに食べれるものを細かく食べてもらう事から始めるか。

 フレデリック様の食べ残しを確認してそのまま器を傾けて、中身をかき込む。食べ終えて、視線を正面に向けるとフレデリック様が驚いたような表情で俺を見ていた。……さすがに食べ残したものを食べるのは王宮育ちのフレデリック様からしたら行儀悪かったかもな。

「すみません、行儀悪かったですね」
「いや……大丈夫だ。王家の食卓で残されたものを使用人が食べていたりすると言う事は知っていたし……ただ、お前が抵抗なく食べた事に驚いただけで……」
「まあ、新人冒険者してた時はギルドの酒場で同じくらいのやつらと大皿料理つついたりしてましたし……それに比べたらフレデリック様が手を付けたものに抵抗なんてないですよ」

 知人友人程度の関係性ならあまり食べさしでも気になる事はない。フレデリック様のものだったら尚更だ。

「俺はもう少し食べるんで……少し待っててもらえますか?」

 ここで切り上げてしまってもよかったんだが、鍋に入っている分を残すのももったいなく、同じものをフレデリック様に食べさせるのも申し訳ないのでこのまま食べきることにする。

「ああ、ゆっくり食べていい」

 なんて言うフレデリック様の好意に甘えて、ゆっくりと食べさせてもらう。かき込んでもよかったけど、ゆっくり食べていいと言われたのに急いで食べたら心証悪くするかもしれないし……。

 とか、思っていたんだが、フレデリック様に視線を向ければどことなく楽しそうに俺が食べている姿を見ている。

 その視線はなんとなく知ってるぞ。新人の頃、ギルドの近くにあった食堂で飯を食っていた時に食堂のおばちゃんから見つめられていたアレである。若い子がいっぱい食べてて微笑ましい的な……。

 さすがに若くはないし、なによりフレデリック様にそう思われるのは気恥ずかしい。なんとなくそう思ったからか少しだけ食べるスピードを上げて、鍋の中を空にした。

「ごちそうさまでした」
「よく食べきったものだな」
「これでも控えめな方ですよ。依頼を終えた後とか、もう少し食べますし」

 フレデリック様がどれだけ食べるかわからなかったから、今日用意したのは普段俺が食べる分程度。食事量としては腹七分、八分って所だろうな。

「それだけ立派な体だと食べなければ持たないのか……」
「別に食べない時は食べないですけどね。依頼の時とか絶食する時もあるんで」

 だから食べれる時に食べるって感じになるんだが……。

「……ニコラ。お前が嫌でなければなんだが……この十五年何をしていたか聞かせてほしい」

 苦笑しながら依頼時の時の事を話した俺にフレデリック様が少し考えてからそう言ってきた。

「別にいいですけど……フレデリック様の十五年も聞かせてくださいね」
「……楽しい事は何もないと思うんだが」
「あなたが俺の事を知りたいと思ってくれたように、俺だってあなたの事が知りたいんですよ。それに、実家がどうなったとか……ほんのちょっとですけど、気になりますし」

 実家については欠片も興味ないが、そう言えばフレデリック様の優しさに付け込めるだろうと思って言葉を吐く。フレデリック様が語りたくないのなら仕方ないが、いったいどうしてあんな事になったのか知りたいのは事実だからな。

「……わかった。それでいい。お前ばかりに喋らせるのも不公平だからな」

 俺の言葉に頷いてくれたフレデリック様に安堵しながら、俺は鍋と食器を纏めて、椅子から立ち上がる。

「ありがとうございます。じゃあ、これ片づけてくるんで……ちょっと準備したら俺の部屋戻りましょう」

 そう言って俺は一度厨房へと向かい、フレデリック様を運ぶためにまた食堂へと戻るのだった。
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