4 / 47
1-1.転生冒険者は男娼王子を攫う
四話
しおりを挟む
「英雄ニコラウスがニコラとは……ははは、随分と変わったものだ。そうかそうか、あのニコラが……ふふふふふふ」
俺を上から下にと何度も眺め、楽しそうに笑う。それは、今まで王宮娼夫として振舞いながら見せていた笑みとは違う、心から笑っているような自然な笑みだった。
美少女だった婚約者がこんな丸太のような腕の筋肉ゴリラになったというのにどれだけ懐が深いんだろうか。俺だって自分で頭抱えたのに。
だが、綺麗ながらもどこか無機質だったフレデリック様から自然な笑みを引き出せたのならこのゴリゴリマッチョな姿も役に立ったのではなかろうか。
「……はー、久しぶりに笑った気がする。だが、お前にはこんな姿見せたくはなかったな」
笑い終えたフレデリック様が、諦めと愁いを帯びた表情で俺を見上げる。
「いったい何があったのですか。王になるべきはあなただったはずでしょう」
「弟に負けた。……それだけだ」
「それでは何があったかわかりません」
「捨てた婚約者の事など、気にする事でもあるまい。私の他にも王宮娼婦がいるから別の者を遣わそう」
何もかも諦めたように笑ったフレデリック様が部屋から出ようと引き返したのを腕を掴んで止める。先ほど肩を掴んだ時にも思ったが身長に比べるとあまりにも細い。
華奢ではあるが、元の骨格はしっかりとしているから王宮娼夫としての見栄え の為だけに食事も制限されているのだろうというのが見て取れた。
「他の人間なんていりません!私は、俺はあなたの話が聞きたい!確かに……俺は、あなたの婚約者という立場から逃げました。それでも、俺は今、あなたの側を離れた事を後悔している。あなたが、このような事になると知っていれば……けして、一人で逃げたりなど……どうせなら共に逃げたらよかった……」
勢いのままに吐き出した後悔に、フレデリック様が苦笑する。
「あの頃、共に逃げようと言われても私は頷かなかっただろう。私の命はこの国の為にあったのだから」
そう言って笑うフレデリック様に俺は王としての資質を見た。本当に、本来であれば、この方が王になるべきだったはずなのに……。
「ならば、共に……婚約者としていたでしょう。虫よけや護衛にならなったかもしれません」
「止めておけ……冒険者にならなかったお前がこのように成長するとは思えん。あの頃のお前が居ても仲良く王宮娼婦に堕ちていただけだろう」
フレデリック様の言葉に確かにと思う。俺がここまで成長したのは冒険者になってから思う存分食べれたからだし、思う存分暴れまわったからだ。
貴族として、フレデリック様の婚約者として過ごしていたら、フレデリック様より小柄な妖艶美女(青年)だったかもしれない。
「だから、私の事は気にしなくていい。お前はこのまま好きに生きろ。お前がそこまで思っていてくれるだけで私はこの檻の中で生きていける」
俺を見上げるフレデリック様が困ったように、そして愛おしそうに笑う。それは、全てを諦めていた所に僅かな希望を与えられた人間が見せるような笑みだった。
そんな顔をしているのに、俺に助けを求めすらしないフレデリック様の存在が悲しい。淡々と、全てが他人事のように思っているような姿。おそらく、泣きわめくのも、許しを請うのもとうの昔に諦めてしまったのだろう。
王宮娼夫として、粛々と隷属する姿。それが今のフレデリック様の在り方だった。
「……あなたを一人に出来ない。俺と逃げましょう。あの頃の俺にできない事も、今の俺にならできる」
そう、美少女時代の俺は無力に等しい存在だったかもしれないが、今の俺は七つ星の冒険者。人間を卒業した天災級の存在である。フレデリック様をここから攫う事など容易い事だ。
「やめておけ、英雄の名を汚すことになる。それに私にそんな価値はないだろう」
悲し気に笑みを浮かべて首を横に振るフレデリック様。長い間、王宮娼夫として折られ続けた自尊心は自身の価値を失わせるには十分だった。態度は王族として不遜な態度を求められながら、それを穢すように犯され、調教され続けてきたのだろう。
おそらく、解放される事は望んでいないし、歳を取り、価値が無くなったら処分されるだけと受け入れている姿が何よりも悲しかった。
フレデリック様の言葉の通りに従えば、俺は十五年前と何も変わらない。あの頃は知らずとも、この人を見捨てたという過ちを繰り返すだけになる。そんな事、もう繰り返したくなかった。
「……頷いてもらえなければ攫うだけです」
「……!?おい!やめっ……!?」
掴んだままのフレデリック様の腕を引き、その体を片手で抱き上げる。俺の肩辺りの身長にもかかわらず、その体はあまりにも軽い。おそらく百八十くらいの身長に対して体重は五十ちょっとと言った所か。
体重のわりに貧相に見えないのは元の骨格と筋肉量のせいだろう。正直飢え死にしないギリギリを生きていると思う。肌の質感とかは綺麗だから、食事がポーションなどの薬剤ってのも考えられる気がする。
……食べさせないと。でも、あまり重い物は体が受け付けないかもしれない。何がいいだろうか……。悩ましい……。太らせねば。健康的な範囲で。太らせねば。
俺を上から下にと何度も眺め、楽しそうに笑う。それは、今まで王宮娼夫として振舞いながら見せていた笑みとは違う、心から笑っているような自然な笑みだった。
美少女だった婚約者がこんな丸太のような腕の筋肉ゴリラになったというのにどれだけ懐が深いんだろうか。俺だって自分で頭抱えたのに。
だが、綺麗ながらもどこか無機質だったフレデリック様から自然な笑みを引き出せたのならこのゴリゴリマッチョな姿も役に立ったのではなかろうか。
「……はー、久しぶりに笑った気がする。だが、お前にはこんな姿見せたくはなかったな」
笑い終えたフレデリック様が、諦めと愁いを帯びた表情で俺を見上げる。
「いったい何があったのですか。王になるべきはあなただったはずでしょう」
「弟に負けた。……それだけだ」
「それでは何があったかわかりません」
「捨てた婚約者の事など、気にする事でもあるまい。私の他にも王宮娼婦がいるから別の者を遣わそう」
何もかも諦めたように笑ったフレデリック様が部屋から出ようと引き返したのを腕を掴んで止める。先ほど肩を掴んだ時にも思ったが身長に比べるとあまりにも細い。
華奢ではあるが、元の骨格はしっかりとしているから王宮娼夫としての見栄え の為だけに食事も制限されているのだろうというのが見て取れた。
「他の人間なんていりません!私は、俺はあなたの話が聞きたい!確かに……俺は、あなたの婚約者という立場から逃げました。それでも、俺は今、あなたの側を離れた事を後悔している。あなたが、このような事になると知っていれば……けして、一人で逃げたりなど……どうせなら共に逃げたらよかった……」
勢いのままに吐き出した後悔に、フレデリック様が苦笑する。
「あの頃、共に逃げようと言われても私は頷かなかっただろう。私の命はこの国の為にあったのだから」
そう言って笑うフレデリック様に俺は王としての資質を見た。本当に、本来であれば、この方が王になるべきだったはずなのに……。
「ならば、共に……婚約者としていたでしょう。虫よけや護衛にならなったかもしれません」
「止めておけ……冒険者にならなかったお前がこのように成長するとは思えん。あの頃のお前が居ても仲良く王宮娼婦に堕ちていただけだろう」
フレデリック様の言葉に確かにと思う。俺がここまで成長したのは冒険者になってから思う存分食べれたからだし、思う存分暴れまわったからだ。
貴族として、フレデリック様の婚約者として過ごしていたら、フレデリック様より小柄な妖艶美女(青年)だったかもしれない。
「だから、私の事は気にしなくていい。お前はこのまま好きに生きろ。お前がそこまで思っていてくれるだけで私はこの檻の中で生きていける」
俺を見上げるフレデリック様が困ったように、そして愛おしそうに笑う。それは、全てを諦めていた所に僅かな希望を与えられた人間が見せるような笑みだった。
そんな顔をしているのに、俺に助けを求めすらしないフレデリック様の存在が悲しい。淡々と、全てが他人事のように思っているような姿。おそらく、泣きわめくのも、許しを請うのもとうの昔に諦めてしまったのだろう。
王宮娼夫として、粛々と隷属する姿。それが今のフレデリック様の在り方だった。
「……あなたを一人に出来ない。俺と逃げましょう。あの頃の俺にできない事も、今の俺にならできる」
そう、美少女時代の俺は無力に等しい存在だったかもしれないが、今の俺は七つ星の冒険者。人間を卒業した天災級の存在である。フレデリック様をここから攫う事など容易い事だ。
「やめておけ、英雄の名を汚すことになる。それに私にそんな価値はないだろう」
悲し気に笑みを浮かべて首を横に振るフレデリック様。長い間、王宮娼夫として折られ続けた自尊心は自身の価値を失わせるには十分だった。態度は王族として不遜な態度を求められながら、それを穢すように犯され、調教され続けてきたのだろう。
おそらく、解放される事は望んでいないし、歳を取り、価値が無くなったら処分されるだけと受け入れている姿が何よりも悲しかった。
フレデリック様の言葉の通りに従えば、俺は十五年前と何も変わらない。あの頃は知らずとも、この人を見捨てたという過ちを繰り返すだけになる。そんな事、もう繰り返したくなかった。
「……頷いてもらえなければ攫うだけです」
「……!?おい!やめっ……!?」
掴んだままのフレデリック様の腕を引き、その体を片手で抱き上げる。俺の肩辺りの身長にもかかわらず、その体はあまりにも軽い。おそらく百八十くらいの身長に対して体重は五十ちょっとと言った所か。
体重のわりに貧相に見えないのは元の骨格と筋肉量のせいだろう。正直飢え死にしないギリギリを生きていると思う。肌の質感とかは綺麗だから、食事がポーションなどの薬剤ってのも考えられる気がする。
……食べさせないと。でも、あまり重い物は体が受け付けないかもしれない。何がいいだろうか……。悩ましい……。太らせねば。健康的な範囲で。太らせねば。
17
お気に入りに追加
416
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる