転生冒険者と男娼王子

海野璃音

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1-1.転生冒険者は男娼王子を攫う

二話

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 久しぶりの母国。王都の町並みは俺が居た頃と変わらず、比較的にぎやかだ。

 アンデットキングが出現している事を知らせていないのか人々の顔に悲壮感はなく、普段の日常がそこにはあった。

 俺は、母国の冒険者ギルドへと顔を出し、王宮と繋ぎを取ってもらう。いくら俺が七つ星冒険者と言えど、こんな大柄でラフな格好をした男が訪ねたとして気軽に入れる所じゃないだろうしな。俺以外の七つ星はわからんが。

 ギルドに繋ぎを取ってもらっている間にギルド嬢が手配したっぽい仕立屋が俺が滞在していたギルドの一室に尋ねてきて超特急で謁見用の服を仕立てられたので、俺の判断は間違っていなかったらしい。

 あまりにデカすぎて人間用の既製品では足りず、店のオーナーが趣味で作った鬼人族用の礼服をいくつか持ってこられた。

 この国では人間以外の異種族はあんまり好まれていないはずなのだが、オーナーは他国に行った時に鬼人族の冒険者に助けられて以降、鬼人族の熱心なファンらしい。筋骨隆々とした肉体美がたまらんそうだ。

 俺を見た瞬間、鬼人族レベルの肉体美の人間がいるなんて!と、大興奮された挙句、散々採寸していって怒った助手に連れられて帰っていった。何なんだアレ。

 まあ、礼服以外にも魔法防御の加護の付いた服や物理防御の加護がついた服までもらえたからいいか。

 少し手直しされた礼服に身を包み、王宮とつなぎが取れたと王都のギルドマスターが俺の元へ顔を出す。

「あら、身なりを整えればなかなかのイケメンじゃない」

 ボンキュボンのグラマラスボディーな美人ギルドマスターが俺の格好を見て妖艶に微笑む。

 俺としては、馬子にも衣装にもほどがあると思うのだが、仮にも昔は美少女と言えるほどに顔立ちは整っていた。適当に伸びた無精ひげをそり、髪を撫でつければ今でもそれなりには見えるのだろう。

「堅っ苦しいのは嫌いなんだ」

 子供の頃の反動か、あまり礼服など堅苦しい服は好きではない。首元が閉まった襟シャツとかは苦手な部類だ。まあ、今は仕方なく来ているが。

「もったいないわねぇ……まあいいわ、行きましょう」

 どうやら同行してくれるらしいギルドマスターに安堵する。あんまり王宮も行きたくねぇんだよな。いい思い出もなくはねぇが、逃げた人間だし……フレデリック様を見たいから行くんだけど。

 ギルドの用意したらしい豪華な馬車に乗って王宮へと向かう。どうやら、俺が依頼の話を聞きに来ると知った国王は、早く何とかしてほしいらしく他の謁見を取り下げてまで俺との謁見を優先したらしい。

 そういう内情を聞いて、やはりいい君主となっているのだろう。元婚約者としても鼻が高い。

 そんな気分で王宮につき、謁見の間に通された時、俺は目を疑った。そこにいたのがフレデリック様ではなかったからだ。

 思わず驚き声を上げそうになるのを堪え、俺のいる所より数段高い位置にある玉座から俺を見下ろす男を見上げる。

 その顔には見覚えがあった。確かフレデリック様と腹違いの第二王子である。側妃腹生まれで、フレデリック様が生きている限り王位は継げないであろう男が玉座に座っていた。

 何やら周りが俺が頭を下げないことに煩いがそんな事を気にしている余裕はない。なぜ、あいつが王になっているのか。フレデリック様はどうなったのかという思いが俺の中を駆け巡る。

 まさか……フレデリック様が死んだ?母国の情報は殆ど仕入れてこなかった事を後悔する。王位の正統性は王妃腹のあの方にあるはず、それなのに今ここに居ないと言う事はあの方が亡くなったことを示していた。

「……依頼は受けん。帰る」

 フレデリック様がいないのであれば、この国の依頼を受ける義理もない。早々に引き返そうとした俺に玉座の隣にいた女が声をかける。

「お待ちください!どうか、国民の為に力を貸していただけないでしょうか!」

 引き返そうとした足を止め、視線を女へと向ける。ストロベリーブロンドのふわふわとした髪を揺らす女は立ち位置的に王妃である事は明らかであるが、礼儀が全くなっていない。

 いや、先ほどの周りの声といいこの国自体のレベルが低いのだろう。機嫌を損ねれば国が滅びかねない七つ星冒険者に敬う事すらせず声をかけるなど自殺行為だ。

 冒険者ギルドの人間に関しては仲間意識があるからある程度俺以外も見逃しているが、これが俺以外の七つ星だったら呼び止めた時点で殺されてただろうな。

 俺が王子妃教育受けてた頃は、七つ星冒険者は王家より力を持っているから丁重に対応しろと教えられたものなのに……母国の低レベル化が酷い。

 周りの騎士や兵士がさすが王妃様心優しいとか言ってるが、本当に優しければもう少し気を使って話す。あれはただの頭お花畑だ。そして、それを崇めている騎士達もな。

「お前達の態度が気にくわない。俺以外の七つ星にはもう少し丁寧に頼むんだな」

 俺は優しいから命までは取らないし、死にたくなければもう少し丁重に対応しろと伝えたつもりだったのだが、辺りが殺気立つ。隣のギルドマスターの顔色が悪いが殺気立っている騎士にというよりは、俺の機嫌を高速で損ねて行っている事への心労だろう。巻き込んで申し訳ないがそれもギルドマスターの仕事だから頑張ってほしい。

「で、では、精一杯おもてなしいたします!」
「王妃ごときが何ができる。……国王、あんたの嫁がそんなことを言っているがそれはあんたより偉いのか?」

 この国の王妃に政務の権限など無いに等しい。国王から任された政務等はあるが、最終的な決定権は国王しか持ちえていないのだ。それなのに、国王よりしゃしゃり出てくる女に俺の苛立ちは最高潮に達しようとしていた。

「王妃が民の為に心を痛めているのならその願いを叶えたい。我も、罪のない民が犠牲になるのは避けたい」
「答えになってねぇな」

 王妃も王妃なら、それを選んだコイツもコイツだ。元よりフレデリック様より劣っていると思っていたがこれじゃ、この国はダメだな。俺に不敬を働いた王妃を切り捨てるというなら働いてやってもよかったんだがな。

 王家の対応に真っ青になっているのはギルドマスターだ。王家の事は知っていても、さすがに七つ星相手に馬鹿な真似をするとは思っていなかったのだろう。

「帰る」
「待て!待ってくれ!せめて一日だけでも考えてくれないだろうか!出来る限りのもてなしはする!」

 なりふりを構っていられなくなったのか頼み込んでくる国王。今すぐにでも帰りたいが、なぜだか俺の勘が一日待てと告げてくる。

 この勘にしたがって間違った事は無い。イラつきは最高潮を超えていたが、俺は渋々国王からの提案に頷く。

 隣にいたギルドマスターからホッとした雰囲気が漂ってきたのは言うまでもなかった。
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