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第155話 あなた方もですか

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 そして全ての準備が出来た二日後。ついに戦いの幕が開ける。

 最初に重装歩兵を率いるガスバルさん、それに続いて弓矢兵とロマリ君達の魔法兵団が出撃する。

 俺達は砦の城壁に登って出撃の様子を双眼鏡で見てみる。戦いは遠くてよく見えないが、こちらの軍の兵士達が次々と国境を越えていくのが分かる。

 「まずはムングスルドにもある砦を落してからだな。戦力はこちらの方が圧倒的にうえのはずだが、攻める方が不利だから油断は出来ないよな」

 「でもこっち兵は今現在でも八万人くらいいるらしいわ。それに対して向こうはいいとこ二万くらいでしょう? 普通に考えたら戦いにすらならないわよね」

 「いくら個々の能力が高くても勝ち目が無いのは明白だ。それでもやるってことは余程自信があるんだろう。俺達は領内に入ったら作戦通り一気にムングスルド城を目指すぞ」

 それからしばらく経った後、俺達も砦の近くまで進軍して戦闘の経過を見守る。

 そして、次の日にはムングスルド側の砦が解放されたと一報が入り、俺達も砦への進行を開始する。

 砦にはムングスルドの兵士達が捕虜として捕まえられていて、城壁の高い位置には俺達の軍であることを示す豚の絵が描かれた旗が上げられている。

 ムングスルド領内に野営地を作ってそこで一晩過ごした後、俺達はアークとダルカデルの軍と共に本拠地に向かう。

 本隊とは違う経路で進軍をしていき、敵の裏をかいて奇襲する作戦だ。

 歩きと馬車でゆっくり移動すること数日。敵との遭遇はないまま、ムングスルドにある大きな河を渡る。

 河を越えた先にある広い土地に野営地を作って、ニフソウイの軍を待つことする。

 「ふう、やっぱり歩きだと城がある中心部まで行くのに時間が掛かるな」

 「人数も多いからゆっくりよね。でもまあ、ここを渡ればすぐ目と鼻の先よ」

 「敵と遭遇しないところをみると、戦力は全て城の方に集中させてるんだろうか」

 「本隊は今頃どうなってるか分からないけど、この調子なら町に被害は無さそうね」
 
 俺達が荷台からテントを持ってきてどこに張るか話していたら、俺達の前を行くダルカデルの兵士が大慌てで走ってくる。

 「た、大変です! 前方から! ……前方から見たことがない化け物と敵が攻撃を仕掛けてきています!」

 「化け物だと?! とにかく戦闘準備を急がせろ!」

 ファグルドさんは近くの兵士に命令をして指揮を取り始める。

 報告を聞いたアークの軍と俺達も、救援に駆けつけるためすぐに準備をする。

 そのとき、後方にいたアークの兵士も走ってきて報告をする。

 「こ、後方より変な化物の群れが次々と河から上陸して、こちらに攻撃を仕掛けてきています!」

 「後ろからもか!? 分かったすぐに私達も行こう!」

 報告を受けたディアナが返事をしてアークの軍に指示を出す。

 「ねえ! ちょっとあれなに?!」

 今度はリネットが空を指差して大声を上げる。

 空には大きな怪鳥らしき影が頭上を飛んでいて、段々こちらへ近づいてくる。

 「あ……あれは! ワイバーン!?」

 「ワイバーンだって? 知ってるのかソウタ!?」

 近くで一緒に見ていたストレイングさんが聞いてくる。

 「ええ……ストレイングさんは知らないんですか?」

 「あんな空飛ぶデカイ魔物は見たことも聞いたこともないぜ!」

 長い尻尾を垂らし、コウモリの翼を広げたドラゴンが俺達の方に突っ込んでくる。

 その攻撃でこちらの軍勢が風圧で吹きとばされ、何人かの人間が直撃受ける。

 再び空に飛び上がったドラゴンを撃退しようと、すぐに魔法兵と弓矢兵が攻撃を仕掛ける。

 「これじゃあ陣形も何もあったもんじゃないな……。とりあえずここはアリエルに頼むとして、ディアナは後方に行ってくれ。俺達は前方に現れた敵と謎の化物を倒しに行ってくる!」

 みんなが頷いてそれぞれ動き出す。俺達は敵を倒すため戦場の最前線に向かう。

 徐々に戦場の中に入ってきたらしく、後方で援護をしている魔法兵達の横を駆け抜ける。

 前方に敵と戦ってる味方の姿が見え始めたので、リネット達に加勢に向かってもらう。

 「三人は敵を頼む! 俺はあの化け物をやる!」
   
 俺達の視線の先には体長五メートルはある一つ目の巨大が暴れていて、こちらの軍勢を次なると殴り倒している。

 「何なのあの怪物!? 本当に私達は手伝わなくてもいいの?」

 「ああ、あいつなら俺一人でどうにかなる!」
 
 「分かった! じゃあちょっと行ってくるわね」

 リネット達はこちらの軍に混じって敵を倒しに行く。

 一方で味方の兵士達が、巨人の首と両手足に縄をかけて動きを止めようと試みている。

 しかし、縄を引っ張っている二十人前後の兵士の力では止まらず、暴れる巨大に縄ごと投げ飛ばされる。

 「そんなんじゃサイクロプスは止まらない……止めるならもっとちゃんとした装備が無いと無理だ……」

 そう独り言を呟き、サイクロプスがいるならアリエルに来てもらえばよかったと若干後悔しながら剣を抜く。

 「そこを退いてくれ! そいつの皮膚は硬くてちょっとやそっとの攻撃じゃ物ともしない! 俺に任せてくれ!」

 「みんな! こいつはソウタに任せて離れるんだ!」

 近くにいたラスネルさんが俺に気付いて、仲間に退避するよう言う。
 
 まずは目だ! 

 「【蒼月】そうげつ!」

 剣の刀身から青い炎の斬撃がサイクロプスの目に向かって飛んでいく。

 炎が目に直撃したサイクロプスは「ヴォォォ!」っと叫びながら手で目を覆う。
  
 その間に俺はすかさず後ろに回り込み、跳躍して首に剣を滑らせる。サイクロプスの太い首を一撃で切り落とし、そこから追い討ちを加える。

 「【千燐火】せんりんか

 首が無くなった胴体部にポツポツと小さな火が付きだし、やがてそれが体全体に広がっていく。

 それでもサイクロプスはその後しばらく暴れ続け、そして突然糸が切れたように地面に倒れる。

 周囲には髪を焼いたときのような匂いが立ち込め、兵士達が倒れた一つ目の巨人を唖然とした表情で見ている。

 「みんな何ボンヤリ突っ立ってんだい! 向こうの手伝いに行くよ!」
 
 ラスネルさんの言葉でハッとした兵士達が慌てて走り出す。

 それからみんなで全ての敵を倒して戦闘が終了する。後方からの敵が気になった俺はすぐに引き返してディアナ達の援護に向かう。

 しかし、ディアナ達もすでに戦闘を終えていて、アークの軍と野営地に戻ってきていた。

 「そっちはどうだったんだディアナ?」

 「私達のところにはサハギンの群れが攻めてきていた。だが、途中でニフソウイの軍が加勢に入ってくれたので、ほとんど怪我をせず倒せたよ」

 「ガレインさん達が来てくれたのか! しかし……サハギンか……。俺の方にはサイクロプスがいたし、ワイバーンも襲ってくるなんてな……」

 「しかも、私達以外誰一人としてあの魔獣達を知らないようだ。つまりこの世界にはいない魔物……いや、今はもう存在しない魔物達ということになるな……」

 「オルビルトが俺達の時代の魔獣を復活させたのか……。多分やつが言ってた置き土産ってのはこれのことだろう」

 ニフソウイ軍とも合流することが出来たので、一度この魔獣達について話し合いをする。
 
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