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第151話 戦いよりも大事なこと

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 俺達の方も話が終わったので、エンリケさんにアナのことを伝えておく。

 「そうそう、エンリケさんに言っておかないといけないことがあったんですよ」

 「私にですか?」

 「アナスタシアのことなんですけど、今俺の仲間と一緒に町へ遊びに行ってるんですよ。心配したらいけないので伝えておかないとと思いまして」

 「ア、アナスタシア様が町にですと? お付きの者は何をやっていたんだ……」

 エンリケさんの顔から血の気が引いて、みるみるうちに青ざめていく。

 「大丈夫ですよ。夕方には戻ってきますし、頼れる仲間も付いてますから」

 「ソウタさんのお仲間がご一緒なら安心ですが……。ここでまた家出でもされたら私の首が飛んでしまいますからね」

 「家に送り届けるよう頼んでますのでそっちの心配も大丈夫かと。アナは町に行くのを楽しみにしていたようですし、信用して待っててあげて下さい」

 「まあ、ここ最近は落ち込んだ様子もあったようなので良い気分転換になるかもしれませんね」

 「エンリケさん達はこの後しばらく滞在する予定ですか?」

 「いえ、私は先にここを出て我が軍と合流しようかと考えてます。姫は長旅で疲れてるでしょうし、しばらくお世話になると思います」

 「わざわざ来て頂いてありがとうございました。おかげで心置きなく出発出来そうです」

 「私は戦うことは無理なのでそこは皆さんにお任せすることになります。それでは、私もそろそろこの辺で失礼しましょう」

 エンリケさんはそう言って立ち上がり、俺達に「ご武運を」と言ってから会議室を出ていく。
 
 「一応これでやれることは全部終わりましたねエクシエルさん」

 「そうね。だけど、これからが本番だから気は抜けないわ」

 「もうすぐですからね。ところでこの後は何か予定でもあるんですか?」

 「私は少しやることがあるからそれをやるわ。ソウタ君達は?」

 「俺はアリエルに報告へ行ってきたいと思います。そういや、サーシャが後で来るかもって聞いたんだけどマリィは何か知らないか?」

 「いや、私は早く家を出たから何も聞いてないな。後でアリエルさんの店に顔を出そうと思っていたが来るなら待つか」

 「多分サーシャは来ないだろう」

 待とうかと言ったマリィにディアナが言う。

 「どうしてディアナさんに分かるんですか?」

 「今日も店が忙しくてな。今頃私の代わりにサーシャが客の対応をしてくれてるはずだ」
 
 「そういえば最近忙しいみたいな話をしてたな……。なら今から向かいますか?」

 「彼女にも悪いから急ぎたい。もう用事がないなら帰っていいかロイ?」

 「ああ、だったら俺も一緒に行こう。じゃあ、すみませんけどちょっと行ってきますエクシエルさん」
  
 「突然来てもらってごめんなさいね。それから会議はもうしないから、明日はみんなでのんびりして」

 「分かりました。エクシエルさんもあまり根を詰めすぎないで下さいね!」
 
 エクシエルさんに別れを告げて、三人でアリエルのお店に向かう。

 最近行けてなかったがあの店に客が来てるなんて知らなかったな……。

 ラエティティアに着き、ディアナは店の裏手から店内へと入っていく。

 俺とマリィがどのくらい客が入っているのか中を覗いてみる。

 小さな店内には十人前後の客がおり、ちょっとしたすし詰め状態になっている。

 エプロン姿のディアナが店内入ると、若い男性客達はディアナとサーシャを交互に見て、何やらボソボソと話しているようだ。

 やっぱりディアナ目当ての客が来るようになったか。

 おまけにサーシャも出入りするになったから、二人を一目見ようと集まって来てるのかもしれない。

 俺達も店の裏手にある勝手口から店に入り、倉庫棚から商品を出しているアリエルに声を掛ける。

 「俺も何か手伝おうかアリエル?」

 「おお、お前達も来ていたのか! ちょうど良かった、これを持っていてくれ」

 アリエルは商品の入った二つのカゴを俺に渡す。

 「ディアナ達のおかげで大盛況のようだな」
 
 「そうなんだ! 何故かは知らんがあの二人が手伝ってくれるようになってから客が増えたんだ。やはり、クール系美女とおっとり系美女の力は絶大だな! はっはっはっ!」

 アリエルは上機嫌で新しいカゴに商品を詰めていく。

 「それはあるんだろうけど、多分それだけじゃないはずなんだけどな……」

 「ん? どういうことだ? それ以外に何か客が増えた理由があるとでも言うのか?」

 「増えた理由じゃなくて今まで来なかった理由が……」

 そのとき、エプロンを外したサーシャが店内から戻ってくる。

 「ディアナさんが代わってくれたので、少し休憩をもらいますねアリエルさん」

 「着いた早々すまなかったなサーシャ! 遅くなったが奥の部屋に出前を頼んでおいた。ゆっくり食事を取ってくれ」

 「それはわざわざすみません。あら? ソウタさんにマリィも来てらしたんですね。向こうでお茶でも淹れましょう」  
 
 サーシャが俺達に気付いて奥の部屋に案内しようとする。

 「お疲れ様サーシャ。俺が手伝うからマリィと先に休憩してくるといい」
 
 「助かります! 今在庫が無くなってきてますので、補充をしないといけなかったところなんですよ」

 「サーシャもすっかりここの従業員みたいになってるな。とにかくこっちは任せてゆっくりしてきてくれ」

 サーシャは俺に頭を下げてマリィと部屋に移動する。

 「よしよし、ではディアナも疲れてるだろうし、私が客の相手をしてやるか」

 「ちょっ! ちょっと待ってくれ! 接客はディアナに任せてアリエルは商品の補充だけをするんだぞ?」
  
 「何故だ? せっかくだから店主たる私が接客した方がよかろう」
  
 「いいか? 俺は決してお前に嫌みを言おうとか、お前自身を否定するつもりない。だからよく聞いてくれ」

 「なんだ突然改まって。今は忙しいから話なら後にしてくれ」

 俺は店内に行こうとするアリエルの両肩を掴んで真剣に話す。

 「この店の商品は質も価格も他店に比べたら良質で安いんだろうとは思う。しかし、それでも客が来なかったのは多分……お前のせいなんだよ……」
 
 「ははっ……何を言っているんだお前は。まさか……そんなわけなかろう」

 「例えば今あそこに十人の客がいたとしよう。だが、アリエルが接客すればそのうちの半分は帰るだろう」

 苦笑いで聞いていたアリエルだったが、俺の表情を見て真面目に耳を傾ける。

 「そして仮に残った客の五人が明日来てれたとしても、お前が接客をすればそのうちの三人は帰る……そして次の日には二人……後は分かるな?」

 「真面目な顔をして何を訳の分からんことを言っているんだ! ならばその分の客を増やせばよいだけの話。それに、客が来なかったのはきっと看板が汚れていたせいに違いない!」

 アリエルは俺を押し退けて店内に入っていってディアナと交代する。

 とはいえ、アリエルの接客は一度も見たことがないので、我が子を見守る親になったつもりで様子を見てみる。
 
 そして大方の予想通り不遜な態度と人の話を聞かない接客で、三十分も経たないうちに全ての客が退店する。
  
 「バ、バカな……ロイの言う通りとでも言うのか……? せっかくの客が……」 

 「アリエルはそのつもりは無いんだろうけど、もう少しへりくだった方がいいかもな……」

 カウンターの台で頭を抱えるアリエルの肩を優しく叩いて諭す。
 
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