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第91話 マリィの憂鬱
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家の中は広さ十畳程の部屋が二つあって、小さなクローゼットも備え付けられている。
キッチンや浴室なども一人で暮らすには十分な大きさではあるが、ロンベルさんの家と比べてるとどうしても狭く感じてしまう。
「へ、へえ、あなたの家も中々悪くないじゃない」
「もしかしたら家に穴を開けたせいで小さくなったのかもな」
じろりと横目で言うとリネットは苦笑いをして誤魔化す。
「あははっ……。まあまあ、そんなこと言わないの。貸してくれただけでも感謝しなくちゃね」
「まっ、そんなことはないだろうけどな。リネット達は良かったよな、あんな大きな家貸してもらえてさ。とりあえず荷物を取りに一度帰るか」
俺達が家に戻ると掃除を終えたサーシャとマリィが荷物の整理をしていた。
「二人共ありがとうな。掃除するの大変だったろう」
「いえ、元々大して汚れてませんでしたから軽く埃を取ったくらいです」
「そっか。俺もほとんど居なかったし、風呂とか食事で汚したとしても数日間だけだもんな。ロンベルさんもそのままにしておいてくれていいって言ってから、これだけやれば大丈夫だろ」
俺達は昨日買っておいた台車に荷物を載せて新居へと運ぶ。
台車を押して新居まで向う道中、後ろにいるマリィが浮かない顔をして歩いてる。
「どうしたんだマリィ? 元気なさそうだな。これから行く新しい家は広くて快適そうだったぞ」
「いや、何でもないんだ。そうかそれは楽しみだな……」
言葉とは裏腹にマリィはどこか上の空で返事をする。
「何でもないってことはないだろ。というか、どうしてまだ掃除用の三角巾とエプロンを着けたままなんだよ」
俺からそう言われたマリィは、そのことをハッと思い出し、慌てて三角巾とエプロンを取る。
「急いで出てきたからな。たまにはこんなこともあるさ」
本当にどうしたんだ? らしくないな。
それ以上何も言わず俯いて歩き始めるマリィを心配していたら、リネットがその理由を説明してくれる。
「そっとしていてあげて。今日からエクシエルさんがお城に住むからああなってるだけよ」
「え! それだけ? 今日から離ればなれになるからってことか?」
「昨日の夜、話しを聞いてからずっとあの調子よ。本人はいつも通りのつもりだから、気にしないであげて」
いつも通りのつもりって……。露骨に落ち込んでるじゃないか。
そんなマリィを連れてリネット達の新居に到着する。
先にみんなの荷物を家の中に運び入れた後、俺は数少ない自分の荷物を向かいの家に投げ入れて、すぐにリネット達の家に戻る。
「もう終わったの? まだ何分も経ってないわよ」
「買った服と小さいカバンくらいだからな。何か手伝おうか?」
「だったら姉さんの手伝いをしてあげて。キッチンでお皿とか出してるはずよ」
俺はキッチンに行ってサーシャと一緒に食器類を出す。
「すみません。まだソウタさんの家も片付いてないでしょうに」
「いいよいいよ。それより食器棚とかテーブルとかも欲しいな。ロンベルさんのところは家具とかあったから買う必要なかったけど、ここには何も無いもんな」
「このままだと床で食事をすることになるので、テーブルセットくらいは必要ですね」
「鍋とか皿は買ったけど、大型のものは買えなかったから今度買いに行ってみよう。そうだ! 今日はイネス先生達も帰って来るからみんなで外食でもするか」
「いいですね! 先生達も外での食事はしてませんから是非食べてもらいたいです」
サーシャが「そうと決まれば」と袖をまくり荷ほどきにせいを出す。
俺もそれを手伝い、袋や箱を片付けていたらリネットとフィオがひょこっと顔を出す。
「こっちは終わったわよ。なんか手伝おっか?」
「俺達ももう終わったよ。そっちも終わったんだったら、少し早いけどイネス先生達を迎えに行くとするか」
リネット達もそれに同意して、みんなで城に向かう。
マリィは未だに心ここにあらずの状態だが、エクシエルさんと会ったら元気を取り戻すだろうと思われるので、それまではそっとしておくにする。
再び城に着き、ウラガン団長とイネス先生に引っ越し完了の報告に行く。
「引っ越しが終ったんで帰ってきました」
「おお、早かったな。新しい住居はどうだった?」
「リネット達の家はすごく良かったですね。俺の方は普通でしたけど一人だったら十分な部屋でした」
「ははっ、ソウタのは普通だったのか。まあ、古いとはいえ元々大臣の家だったから狭く感じるだろうな」
「貸してもらえるだけでありがたいです。そういえばイネス先生は居ないんですか?」
「今エクシエルさんと部屋に居るはずだから案内しよう。その前に確認しておきたいんだが、ダルカデルに行くのは明日でいいのか?」
「はい、出来るだけ早い方がいいと思いますしね」
「では港町までの馬車を用意しておくから、明日の十時に城まで来てくれるか?」
「それはもちろん構いませんが本当にいいんですか?」
「ソウタが明日に行くと言っていたから、実はもう頼んであるんだ。それからお前とフィオちゃんに一つ渡しておきたいものがある」
ウラガン団長は稽古場の隅にある籠手をフィオに渡し、俺達にギフトラベルと紙をくれる。
「これは俺達からの餞別だ。その籠手はガスバルが昔使ってたやつらしくて、Aランクのスキルにも耐えられるそうだ。ソウタ、お前の剣を見せてくれ」
俺はガレインさんに貰った剣を渡す。
ウラガン団長はその剣を丹念に見た後に感嘆の吐息を洩らす。
「うちから一本剣を譲ろうと思っていたが、その必要がないくらいその剣は業物だな。一体どこでそんなもの手に入れたんだ?」
「実はちょっとしたことがあって、ロルローンの人に貰ったんですよ。『その辺で売ってるやつより全然いいものだぞ』とは言ってました」
「……多分そのクラスの武器はどこにも売ってないぞ。あそこは武に長けてる国だからな。道理で見事に仕上がってるわけだ」
「この剣が使いやすくて結局他の武器を買わなかったんですけど、そんなにスゴい剣だったんですね」
「今渡したスキルに耐えられるくらい優秀だ。そのギフトラベルにはAランクの技が記録されていて、その紙には使い方が記してある。二人には教えてる時間が無さそうだから、各自その紙を見ながら習得してくれ」
「こんなのまで貰って……。いや、ありがたく頂戴します! 良かったなフィオ」
「うん! 今度ガスバルさんにお礼言っておかないとね」
「二人ならすぐに習得出来るはずだ。それではイネスさん達のところへ案内しよう」
アリエルのギフトラベルが無くなって不安だったけど、これで心置きなくダルカデルに行けるな。
キッチンや浴室なども一人で暮らすには十分な大きさではあるが、ロンベルさんの家と比べてるとどうしても狭く感じてしまう。
「へ、へえ、あなたの家も中々悪くないじゃない」
「もしかしたら家に穴を開けたせいで小さくなったのかもな」
じろりと横目で言うとリネットは苦笑いをして誤魔化す。
「あははっ……。まあまあ、そんなこと言わないの。貸してくれただけでも感謝しなくちゃね」
「まっ、そんなことはないだろうけどな。リネット達は良かったよな、あんな大きな家貸してもらえてさ。とりあえず荷物を取りに一度帰るか」
俺達が家に戻ると掃除を終えたサーシャとマリィが荷物の整理をしていた。
「二人共ありがとうな。掃除するの大変だったろう」
「いえ、元々大して汚れてませんでしたから軽く埃を取ったくらいです」
「そっか。俺もほとんど居なかったし、風呂とか食事で汚したとしても数日間だけだもんな。ロンベルさんもそのままにしておいてくれていいって言ってから、これだけやれば大丈夫だろ」
俺達は昨日買っておいた台車に荷物を載せて新居へと運ぶ。
台車を押して新居まで向う道中、後ろにいるマリィが浮かない顔をして歩いてる。
「どうしたんだマリィ? 元気なさそうだな。これから行く新しい家は広くて快適そうだったぞ」
「いや、何でもないんだ。そうかそれは楽しみだな……」
言葉とは裏腹にマリィはどこか上の空で返事をする。
「何でもないってことはないだろ。というか、どうしてまだ掃除用の三角巾とエプロンを着けたままなんだよ」
俺からそう言われたマリィは、そのことをハッと思い出し、慌てて三角巾とエプロンを取る。
「急いで出てきたからな。たまにはこんなこともあるさ」
本当にどうしたんだ? らしくないな。
それ以上何も言わず俯いて歩き始めるマリィを心配していたら、リネットがその理由を説明してくれる。
「そっとしていてあげて。今日からエクシエルさんがお城に住むからああなってるだけよ」
「え! それだけ? 今日から離ればなれになるからってことか?」
「昨日の夜、話しを聞いてからずっとあの調子よ。本人はいつも通りのつもりだから、気にしないであげて」
いつも通りのつもりって……。露骨に落ち込んでるじゃないか。
そんなマリィを連れてリネット達の新居に到着する。
先にみんなの荷物を家の中に運び入れた後、俺は数少ない自分の荷物を向かいの家に投げ入れて、すぐにリネット達の家に戻る。
「もう終わったの? まだ何分も経ってないわよ」
「買った服と小さいカバンくらいだからな。何か手伝おうか?」
「だったら姉さんの手伝いをしてあげて。キッチンでお皿とか出してるはずよ」
俺はキッチンに行ってサーシャと一緒に食器類を出す。
「すみません。まだソウタさんの家も片付いてないでしょうに」
「いいよいいよ。それより食器棚とかテーブルとかも欲しいな。ロンベルさんのところは家具とかあったから買う必要なかったけど、ここには何も無いもんな」
「このままだと床で食事をすることになるので、テーブルセットくらいは必要ですね」
「鍋とか皿は買ったけど、大型のものは買えなかったから今度買いに行ってみよう。そうだ! 今日はイネス先生達も帰って来るからみんなで外食でもするか」
「いいですね! 先生達も外での食事はしてませんから是非食べてもらいたいです」
サーシャが「そうと決まれば」と袖をまくり荷ほどきにせいを出す。
俺もそれを手伝い、袋や箱を片付けていたらリネットとフィオがひょこっと顔を出す。
「こっちは終わったわよ。なんか手伝おっか?」
「俺達ももう終わったよ。そっちも終わったんだったら、少し早いけどイネス先生達を迎えに行くとするか」
リネット達もそれに同意して、みんなで城に向かう。
マリィは未だに心ここにあらずの状態だが、エクシエルさんと会ったら元気を取り戻すだろうと思われるので、それまではそっとしておくにする。
再び城に着き、ウラガン団長とイネス先生に引っ越し完了の報告に行く。
「引っ越しが終ったんで帰ってきました」
「おお、早かったな。新しい住居はどうだった?」
「リネット達の家はすごく良かったですね。俺の方は普通でしたけど一人だったら十分な部屋でした」
「ははっ、ソウタのは普通だったのか。まあ、古いとはいえ元々大臣の家だったから狭く感じるだろうな」
「貸してもらえるだけでありがたいです。そういえばイネス先生は居ないんですか?」
「今エクシエルさんと部屋に居るはずだから案内しよう。その前に確認しておきたいんだが、ダルカデルに行くのは明日でいいのか?」
「はい、出来るだけ早い方がいいと思いますしね」
「では港町までの馬車を用意しておくから、明日の十時に城まで来てくれるか?」
「それはもちろん構いませんが本当にいいんですか?」
「ソウタが明日に行くと言っていたから、実はもう頼んであるんだ。それからお前とフィオちゃんに一つ渡しておきたいものがある」
ウラガン団長は稽古場の隅にある籠手をフィオに渡し、俺達にギフトラベルと紙をくれる。
「これは俺達からの餞別だ。その籠手はガスバルが昔使ってたやつらしくて、Aランクのスキルにも耐えられるそうだ。ソウタ、お前の剣を見せてくれ」
俺はガレインさんに貰った剣を渡す。
ウラガン団長はその剣を丹念に見た後に感嘆の吐息を洩らす。
「うちから一本剣を譲ろうと思っていたが、その必要がないくらいその剣は業物だな。一体どこでそんなもの手に入れたんだ?」
「実はちょっとしたことがあって、ロルローンの人に貰ったんですよ。『その辺で売ってるやつより全然いいものだぞ』とは言ってました」
「……多分そのクラスの武器はどこにも売ってないぞ。あそこは武に長けてる国だからな。道理で見事に仕上がってるわけだ」
「この剣が使いやすくて結局他の武器を買わなかったんですけど、そんなにスゴい剣だったんですね」
「今渡したスキルに耐えられるくらい優秀だ。そのギフトラベルにはAランクの技が記録されていて、その紙には使い方が記してある。二人には教えてる時間が無さそうだから、各自その紙を見ながら習得してくれ」
「こんなのまで貰って……。いや、ありがたく頂戴します! 良かったなフィオ」
「うん! 今度ガスバルさんにお礼言っておかないとね」
「二人ならすぐに習得出来るはずだ。それではイネスさん達のところへ案内しよう」
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