8 / 180
第8話 はじめてのおつかい
しおりを挟む
食事が終わるとウィステリアが温かい飲み物を置いてくれる。
「いやぁ、美味しかったよ。こんなにしてもらってなんだか申し訳ないよ」
「突然押し掛けてしまったうえ、ご迷惑をおかけしましたから、お気になさらないで下さい」
相変わらずあまり表情がない。
昨日二人の男に怒号が飛ばしてた人物とは思えないな。
「ウィステリアは掃除には妥協できないタイプなんだな。昨日なんかあの二人顔が青ざめてたし」
「部屋を綺麗に保つのは給仕の基本ですから。……しかしいつも少々やりすぎみたいでセレーナ様に注意されてしまいます」
ははっ……。俺もまさか昨日の今日でまた来るとは思わなかったし。
「そういえばセレーナは今日城で仕事をやってるの?」
「はい、今日は勇者候補様のギフト授与式がありますのでそちらに行っております」
「そうか、強力なギフトが盗まれたから早いとこ取り返さないといけないもんな」
召喚された勇者は俺と違って能力もあるみたいだし、他の国からも召喚されてるって言ってたから事件もすぐ片付くだろう。
さて、俺も素材集めとやらをやってみるかな。
「そろそろお昼になるから、ちょっと相談しに行ってみるよ。ウィステリアはどうする?」
「提案をしたのは私ですし、アリエル様にも最近会ってなかったので一緒に参りましょう」
良かった。俺一人だとあの人に会うの不安だし、どう言って説明したらいいかも難しいからな。
ウィステリアと共にちゃんと鍵を閉めアリエルのもとに向かう。
「ウィステリアとアリエルは知り合いなんだな。仲はいいのか?」
「はい、何度かセレーナ様に連れていってもらいました。仲は……」
一瞬の沈黙の後「はい」とだけ答える。
聞くべきではなかったと反省しつつ、若干気まずい空気が流れたまま店に到着する。
店に入ると白衣姿でゴーグルを装着し、棍棒を持ったアリエルがいた。
今日は起きてるみたいだけどなにやってたんだこの人……。
アリエルは入店してきた俺たちに気づくとウィステリアに向かって飛び付く。
「ウィスちゃーん! 久しぶりじゃない。元気にしてた? お姉さん会いたかったよ!」
ウィステリアはキスをしようとしているアリエルの顔を手で押し返し、正面を見たまま挨拶をする。
「ご無沙汰しておりますアリエル様。今日は折り入ってご相談があって参りました」
「もう、相変わらず可愛いけど可愛くないんだから。いいわ、何でもお姉さんに相談して」
「こちらのソウタ様が素材を集めて賃金を貰いたいとのことで、アリエル様ならば何か紹介していただけるのではないかと相談に参りました」
どうやら俺のことは目に入ってなかったらしく、ようやく俺の存在に気づく。
「おお! 昨日の少年ではないか。しかし、お金は持ってないのか? セレーナに頼めば用立ててくれそうであるが」
「あるにはあるんですが、やることもないしどうせだったら素材を集めながらこの世界のことを知ろうかなと思いまして」
「素晴らしいな! いいだろう、では私から一つ依頼をしようじゃないか。なに心配いらん、簡単にこなせるやつだ」
言うが早いか、カウンターの奥に入っていくと空のビンともう一つなにか入ったビンを持ってくる。
なにか葉っぱのようなものが入ったビンを開け、一枚の乾燥した草を取り出す。
「これはパームグラスといってな、薬草として使えるのだが在庫がそろそろなくなってきたのだ。これを採取してきてもらたい」
「わかりました。なんか人の手みたいですね。さっそく採りにいってみます」
「そうか、引き受けてくれるか。後で地図を渡すが、場所は少し離れた森に生息している。なに、行けばすぐにわかる」
そう言うとなにかの名簿取り出して開く。見ると色んな絵に名前が付けられていて、ランクが書かれている。
「この世界にはマテリアル協会というものがあってな。そこに加入している店には看板などに水晶のマークが入っていて、店が欲しいものや協会が欲しいものがこのような名簿に記してある。鉱石屋や食材屋など業種は様々だが見つけて聞いてみるといい」
今回のパームグラスは一番低いランクみたいだな。
他にもモンスターの角とか三角形の石とかランクが高いものもあるようだ。
この辺になると難易度も高いけど報酬もいいんだろうな。
とりあえず簡単なやつから始めるか。
俺は空のビンと地図をもらい、場所だけ確認してさっそく森に向かおうとするが、引き留められる。
「一つ確認しておきたいんだが、どこか痛いところや猛烈痒みが生じる箇所などないか?」
「いや? 特に異常なんてないですが、どうしてですか?」
「そ、それならばいいんだ。危険は少ないとはいえ気をつけて行ってくるんだぞ」
怪しい……。
昨日俺にくれたギフトは自分が手を加えたとか言ってたし、実は身体になにか異変とか出るんじゃないか。
「そういえば、昨日貰ったギフトってどんな効果があるんですか? 経験を促進するとか言ってましたけど」
「うむ。例えば誰かと追いかけっこをしたら逃げ方や捕まえ方がうまくなるだろうし、 素振りの練習をすれば剣の扱い方を覚えて自在に使いこなせるようになってくる……。といった具合に何事も経験を積めば技能のレベルが上がっていくだろう? あのギフトは行った行為によって得た経験が多くなり、何事も早く上達することが出来る」
「つまり少ない経験でより多くの場数を踏んだことになる。みたいな感じですかね?」
「察しがいいな少年。要は感覚が掴みやすくなるということだな。もっとも、私が造ったものだからそんなレベルではないがな。強力すぎて副作用が少し心配になるくらいだよ」
得意げに力説するのはいいけど百パーセント安全とか言ってなかったか? それで痛みがないかとか聞いてきたのか。
「へえ、今回の採取にも使えそうなギフトですね。副作用とやらが気になりますが、どんな場面でも使えるギフトってことですか」
「うむ、少年ならうまく使いこなせるだろう」
「ははっ。期待しないで下さい。じゃあそろそろ行ってきますね。ウィステリアはもう少しここにいるのか?」
「いえ、用事も終わりましたし私も帰ることにしましょう」
「えっ?! ウィスちゃんもう帰っちゃうの? そうだ! 美味しいお菓子があるからもう少しいいでしょ? ね?」
俺達は変態親父のように目がギンギンのアリエルを置いて店を後にする。
「ウィステリア付き合ってくれてありがとう。セレーナにもよろしく言っといくれ」
「こちらこそ朝からご迷惑をおかけしました。それでは私はこの辺で失礼致します」
「またな」と手を振りウィステリアと別れ、地図を見ながら森に向かう。
「いやぁ、美味しかったよ。こんなにしてもらってなんだか申し訳ないよ」
「突然押し掛けてしまったうえ、ご迷惑をおかけしましたから、お気になさらないで下さい」
相変わらずあまり表情がない。
昨日二人の男に怒号が飛ばしてた人物とは思えないな。
「ウィステリアは掃除には妥協できないタイプなんだな。昨日なんかあの二人顔が青ざめてたし」
「部屋を綺麗に保つのは給仕の基本ですから。……しかしいつも少々やりすぎみたいでセレーナ様に注意されてしまいます」
ははっ……。俺もまさか昨日の今日でまた来るとは思わなかったし。
「そういえばセレーナは今日城で仕事をやってるの?」
「はい、今日は勇者候補様のギフト授与式がありますのでそちらに行っております」
「そうか、強力なギフトが盗まれたから早いとこ取り返さないといけないもんな」
召喚された勇者は俺と違って能力もあるみたいだし、他の国からも召喚されてるって言ってたから事件もすぐ片付くだろう。
さて、俺も素材集めとやらをやってみるかな。
「そろそろお昼になるから、ちょっと相談しに行ってみるよ。ウィステリアはどうする?」
「提案をしたのは私ですし、アリエル様にも最近会ってなかったので一緒に参りましょう」
良かった。俺一人だとあの人に会うの不安だし、どう言って説明したらいいかも難しいからな。
ウィステリアと共にちゃんと鍵を閉めアリエルのもとに向かう。
「ウィステリアとアリエルは知り合いなんだな。仲はいいのか?」
「はい、何度かセレーナ様に連れていってもらいました。仲は……」
一瞬の沈黙の後「はい」とだけ答える。
聞くべきではなかったと反省しつつ、若干気まずい空気が流れたまま店に到着する。
店に入ると白衣姿でゴーグルを装着し、棍棒を持ったアリエルがいた。
今日は起きてるみたいだけどなにやってたんだこの人……。
アリエルは入店してきた俺たちに気づくとウィステリアに向かって飛び付く。
「ウィスちゃーん! 久しぶりじゃない。元気にしてた? お姉さん会いたかったよ!」
ウィステリアはキスをしようとしているアリエルの顔を手で押し返し、正面を見たまま挨拶をする。
「ご無沙汰しておりますアリエル様。今日は折り入ってご相談があって参りました」
「もう、相変わらず可愛いけど可愛くないんだから。いいわ、何でもお姉さんに相談して」
「こちらのソウタ様が素材を集めて賃金を貰いたいとのことで、アリエル様ならば何か紹介していただけるのではないかと相談に参りました」
どうやら俺のことは目に入ってなかったらしく、ようやく俺の存在に気づく。
「おお! 昨日の少年ではないか。しかし、お金は持ってないのか? セレーナに頼めば用立ててくれそうであるが」
「あるにはあるんですが、やることもないしどうせだったら素材を集めながらこの世界のことを知ろうかなと思いまして」
「素晴らしいな! いいだろう、では私から一つ依頼をしようじゃないか。なに心配いらん、簡単にこなせるやつだ」
言うが早いか、カウンターの奥に入っていくと空のビンともう一つなにか入ったビンを持ってくる。
なにか葉っぱのようなものが入ったビンを開け、一枚の乾燥した草を取り出す。
「これはパームグラスといってな、薬草として使えるのだが在庫がそろそろなくなってきたのだ。これを採取してきてもらたい」
「わかりました。なんか人の手みたいですね。さっそく採りにいってみます」
「そうか、引き受けてくれるか。後で地図を渡すが、場所は少し離れた森に生息している。なに、行けばすぐにわかる」
そう言うとなにかの名簿取り出して開く。見ると色んな絵に名前が付けられていて、ランクが書かれている。
「この世界にはマテリアル協会というものがあってな。そこに加入している店には看板などに水晶のマークが入っていて、店が欲しいものや協会が欲しいものがこのような名簿に記してある。鉱石屋や食材屋など業種は様々だが見つけて聞いてみるといい」
今回のパームグラスは一番低いランクみたいだな。
他にもモンスターの角とか三角形の石とかランクが高いものもあるようだ。
この辺になると難易度も高いけど報酬もいいんだろうな。
とりあえず簡単なやつから始めるか。
俺は空のビンと地図をもらい、場所だけ確認してさっそく森に向かおうとするが、引き留められる。
「一つ確認しておきたいんだが、どこか痛いところや猛烈痒みが生じる箇所などないか?」
「いや? 特に異常なんてないですが、どうしてですか?」
「そ、それならばいいんだ。危険は少ないとはいえ気をつけて行ってくるんだぞ」
怪しい……。
昨日俺にくれたギフトは自分が手を加えたとか言ってたし、実は身体になにか異変とか出るんじゃないか。
「そういえば、昨日貰ったギフトってどんな効果があるんですか? 経験を促進するとか言ってましたけど」
「うむ。例えば誰かと追いかけっこをしたら逃げ方や捕まえ方がうまくなるだろうし、 素振りの練習をすれば剣の扱い方を覚えて自在に使いこなせるようになってくる……。といった具合に何事も経験を積めば技能のレベルが上がっていくだろう? あのギフトは行った行為によって得た経験が多くなり、何事も早く上達することが出来る」
「つまり少ない経験でより多くの場数を踏んだことになる。みたいな感じですかね?」
「察しがいいな少年。要は感覚が掴みやすくなるということだな。もっとも、私が造ったものだからそんなレベルではないがな。強力すぎて副作用が少し心配になるくらいだよ」
得意げに力説するのはいいけど百パーセント安全とか言ってなかったか? それで痛みがないかとか聞いてきたのか。
「へえ、今回の採取にも使えそうなギフトですね。副作用とやらが気になりますが、どんな場面でも使えるギフトってことですか」
「うむ、少年ならうまく使いこなせるだろう」
「ははっ。期待しないで下さい。じゃあそろそろ行ってきますね。ウィステリアはもう少しここにいるのか?」
「いえ、用事も終わりましたし私も帰ることにしましょう」
「えっ?! ウィスちゃんもう帰っちゃうの? そうだ! 美味しいお菓子があるからもう少しいいでしょ? ね?」
俺達は変態親父のように目がギンギンのアリエルを置いて店を後にする。
「ウィステリア付き合ってくれてありがとう。セレーナにもよろしく言っといくれ」
「こちらこそ朝からご迷惑をおかけしました。それでは私はこの辺で失礼致します」
「またな」と手を振りウィステリアと別れ、地図を見ながら森に向かう。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる