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第3話 知らない部屋
しおりを挟むーーーーほら、これが林檎だ。
ーーーー林檎……? 美味しい……。
父ちゃんが初めて林檎を食べさせてくれたあの日から、俺の好きな食べ物はいつの間にか林檎になった。
「おっ、目が覚めたみたいだね!!」
目を開けると知らない部屋に俺は寝ていた。
「あ……美琴さん……」
隣には美琴さんが寝ていて、俺は浴衣を着ていた。
「えっ!! あっ、何で!?」
展開に思考が追いつかない。
「大丈夫、大丈夫。何も手は出してないからさ」
「いや、そうじゃなくて……。確か俺は殺されそうになってて。あ、あのソウルイーターは!?」
慌てて布団から飛び起きると、首と右手に激痛が走った。
「痛ッ……!!」
「体が痛むだろうから今はゆっくり寝ていた方がいいよ。あのソウルイーターは私が消しといたから安心しなよ。今回の任務で探していた標的はアイツだったからね」
美琴さんが肌けた浴衣を整え始めた。
慌てて俺は目を逸らす。
「でもなんであの場所が分かったの? 周りに人なんていなかったのに」
「私は傘泥棒を追いかけただけだよ」
傘泥棒……?
民宿で持って行った傘のことか……。
「あの傘にはGPSが付いていてね、たまにいる傘泥棒をボコボコにするのが私の趣味なんだ」
ニヤリと笑う美琴さんに俺は後退りした。
「ってのは冗談なんだけど、君がラッキーボーイなのは確かさ」
「俺、あの時本当に死ぬかと思ったんだ……」
思い出すだけで手が震えてくる。
本当に美琴さんが来てくれて良かった。
「君みたいなタイプは珍しいと思うよ。強くもないのにソウルイーターに立ち向かって行くなんて」
「美琴さんは戦うのが怖くないの?」
俺の質問に美琴さんは首を傾げた。
「うーん。私より強い敵に出会ったことが無いから分からないね。恐怖を感じるより先に向こうが消えちゃうんだよ」
やっぱり美琴さんは凄いな……。
あんな化け物さえも余裕だったって事か……。
「俺、美琴さんみたいに強くなりたい。でも母ちゃん達が心配してるだろうから島にも帰らないといけないし」
「そっか。じゃあ、条件付きで島まで送ってあげるってのはどう? ちょっと待ってね」
美琴さんは携帯で誰かに連絡を取り始めた。
「んじゃあ、宜しく」
しばらくすると美琴さんは満足気に笑いながら俺の肩を叩く。
「知り合いに頼んだら明日船を出してくれるらしいよ。良かったねー」
良かった……。
ひとまず島には帰れるみたいだ。
「それで、その条件っていうのは何?」
まさか大金を要求されるんじゃないだろうか。
そうだとすれば、間違いなく母ちゃんに怒られるに違いない。
「簡単な事だよ。セイバー試験に合格すること、ただそれだけ」
「セイバー試験!?」
俺は能力も使えないのに、簡単に受かるんだろうか。
「そう、セイバー試験。人並み外れた体力があれば誰でも低ランクなら受かるから。私が推薦してあげるから試しに受けてみなよ」
「島に帰るにはそれしか無いしなぁ……。分かった、美琴さんがそう言うなら受けてみる」
俺がそう答えると、美琴さんはどこか嬉しそうだった。
「期日は一週間後。一週間経ったら、私が君の故郷の島に迎えに行くからそれまで体力作りを毎日欠かさないこと。いいかな?」
「分かった。俺、頑張るよ。」
「話もまとまったし、そろそろ寝よっか?」
「あ、うん……」
美琴さんは疲れているのか、欠伸をして布団に潜っていった。
俺も隣の布団に横になって目を閉じる。
結局一日しか島から出られなかったなー。
そのたった一日でもソウルイーターとかいう化け物に二体も遭遇してしまうし、殺されそうにもなった。
もし、あのソウルイーターが島に襲撃に来ると思うとゾッとしてしまう。
父ちゃんは島に帰ったんだろうか。
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