ティアラの花嫁

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59.理由

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シオン様がレティシア様を抱きかかえて、船から走り去ったあと。

「いってぇ……! 抵抗なんかしないから、も、もうちょっとお手柔らかに頼むって!」

サハラ様のそんな声が聞こえてきて、ハッと我に返ったの。

え?
なに?

声のする方へと視線を向ければ……。
サハラ様が、ティアラの兵士に腕を拘束される姿。

ど、どうして!?

「サハラ様……!」

思わず駆け寄って、体の後ろで両手首を強く縄で縛られるサハラ様に声をかける。

すると、サハラ様が私に苦笑しながら、

「ま、自業自得だけどさ」

なんて、軽い調子で話しかけてきた。

「行くぞ!」
「……あのさ!」

兵士二人に連れられそうになると、慌てた様子で私に向かって。

「エルマに近づいたのは、情報収集のためだけだったんだ」
「……そのようですね。すっかり騙されてしまいました」

わざわざそんな事……聞きたくなかったのに。

胸が、ギュウ、と締め付けられる。
目頭が、熱くなる……。

「でも!」

俯く私に、サハラ様は続けた。

「一緒にいるうちに……好きになったのは本当だ!」
「……え?」

思わず、耳を疑った。
だって、だって。

サハラ様を見てみると、すごく真剣な表情で。

「信じなくてもいい。ま、オレだったら、信じないし」

なんて、自嘲気味に笑う。

「…………」
「だから、そんな顔しなくていいって……」

そんな顔?
黙ってサハラ様を見つめる私は……どんな顔をしてるの?

つ……、と頬を涙が伝うのを感じた。

「ッ、騙して悪かったよ……本当に、ごめん」
「もういいだろ! 行くぞこの裏切り者!」
「そんな怒鳴らなくても言うこと聞くって! じゃーな、エルマ!」

サハラ様が連れて行かれて……。
私はその場にぺたりと座り込んでしまう。

涙が、止まらないわ。
胸が、苦しくてたまらないの。

サハラ様……。
私は、私はもう……。

「猫ちゃん、なんで喋れるの?」
「猫ではない。精霊ルイズだ」

ふと、ルドルフと黒猫……精霊ルイズの会話が聞こえてきた。

……そうだわ。
泣いてる場合じゃないわ。

私は涙を拭いて、立ち上がる。

私に出来ることなんて、あんまりないけれど。
せめてレティシア様のもとへ、無事ルドルフを送り届けなきゃ。

それに……サハラ様の刑を、少しでも軽くしてもらうために何かしたい。

「せーれーって何?」
「精霊とは、自然豊かな土地にしか住み着かない希少な存在で……」
「お姉ちゃんのとこに行きたい……大丈夫かな?」
「…………」

目を潤ませるルドルフの元に歩み寄って、優しく頭を撫でた。

「行きましょう。きっと、お城のお医者様が治して下さってるわ」
「本当?」

ぱあ、と明るい笑みを浮かべるルドルフは、ルイズを抱きかかえて立ち上がった。

……なんだかルイズが、不服そうな表情をしてるように見えるのは、気のせいかしら。

「……子供のお守りは苦手だ」

そう呟くルイズに、思わずクスリと笑ってしまった。

精霊だなんて、ただの言い伝えで実在するなんて思わなかったわ。
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