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58.何故
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--と、オレがここに来るまでの事を、思い出していると。
後ろからまわされたレティシアの手から、力が抜けるのを感じた。
「レティシア?」
振り向くと同時に、レティシアは膝から崩れ落ちて。
「ッ、おい!」
咄嗟にその体を抱きとめて、顔を覗き込んだ。
「どうした?」
「……なんでもない……」
そういえば……手が、体が熱い。
なんでもないわけがない。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!!」
泣きながら駆け寄る幼いこの少年が……レティシアの弟ルドルフか。
顔立ちが、よく似てる。
「大丈夫だ、すぐに腕のいい医者に診せる。……この子を頼むぞ、ルイズ」
「了解」
オレはレティシアの体を横に抱き上げる。
「シ、シオン様……?」
少し驚いた表情を浮かべるレティシアだが、嫌がる様子はない。
……よかった。
その場から、急いで駆け出そうとした。
すると、
「……シオン様!」
エルマに、呼び止められた。
「もしレティシア様の事を罰するような事があったら……許しませんからね!! あなたの家族として……姉として!!」
その言葉に、オレは思わず振り向いた。
エルマは、ニコリと気持ちのいい笑顔を浮かべていて。
「罰する……? そんな事はしないし、させないぞ」
「それは……何故ですか?」
何故、だって?
なんで今、そんな事を聞くんだ?
オレは思わず首を傾げながら、
「愛してるからだ」
そう、迷う事なく即答して。
今度こそ、走り出した。
……なんともなければいいが。
大丈夫なのか?
腕の中のレティシアを見下ろすと、目を閉じてくたりとしている。
もし……もし、レティシアに何かあったら。
オレは--。
「--少し熱はありますが、安静に寝ていれば大丈夫ですよ。きっと、疲れがたまっていたんでしょうねぇ」
「そうか……良かった」
ここは、レティシアの部屋だ。
にこやかに話す年配の女医の言葉に、ほっと胸をなでおろす。
ベッドで寝ているレティシアを見つめていると、
「シオン様……」
……寝言か。
オレの名前を口にするレティシアに、なんとなく……むずがゆい。
少し眉間にシワを寄せて、辛そうな表情……。
悪い夢でも見てるのかもしれない。
「……もう大丈夫だ、レティシア」
レティシアの手を握り締めながら、声をかける。
すると、少し……表情が和らいだように見えた。
「シオン、入るぞ」
トントン、と部屋をノックする音と、聞き慣れた声が聞こえてきた。
返事をするよりも先にドアが開き、部屋に現れたのは……厳しい表情を浮かべる父だった。
後ろからまわされたレティシアの手から、力が抜けるのを感じた。
「レティシア?」
振り向くと同時に、レティシアは膝から崩れ落ちて。
「ッ、おい!」
咄嗟にその体を抱きとめて、顔を覗き込んだ。
「どうした?」
「……なんでもない……」
そういえば……手が、体が熱い。
なんでもないわけがない。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!!」
泣きながら駆け寄る幼いこの少年が……レティシアの弟ルドルフか。
顔立ちが、よく似てる。
「大丈夫だ、すぐに腕のいい医者に診せる。……この子を頼むぞ、ルイズ」
「了解」
オレはレティシアの体を横に抱き上げる。
「シ、シオン様……?」
少し驚いた表情を浮かべるレティシアだが、嫌がる様子はない。
……よかった。
その場から、急いで駆け出そうとした。
すると、
「……シオン様!」
エルマに、呼び止められた。
「もしレティシア様の事を罰するような事があったら……許しませんからね!! あなたの家族として……姉として!!」
その言葉に、オレは思わず振り向いた。
エルマは、ニコリと気持ちのいい笑顔を浮かべていて。
「罰する……? そんな事はしないし、させないぞ」
「それは……何故ですか?」
何故、だって?
なんで今、そんな事を聞くんだ?
オレは思わず首を傾げながら、
「愛してるからだ」
そう、迷う事なく即答して。
今度こそ、走り出した。
……なんともなければいいが。
大丈夫なのか?
腕の中のレティシアを見下ろすと、目を閉じてくたりとしている。
もし……もし、レティシアに何かあったら。
オレは--。
「--少し熱はありますが、安静に寝ていれば大丈夫ですよ。きっと、疲れがたまっていたんでしょうねぇ」
「そうか……良かった」
ここは、レティシアの部屋だ。
にこやかに話す年配の女医の言葉に、ほっと胸をなでおろす。
ベッドで寝ているレティシアを見つめていると、
「シオン様……」
……寝言か。
オレの名前を口にするレティシアに、なんとなく……むずがゆい。
少し眉間にシワを寄せて、辛そうな表情……。
悪い夢でも見てるのかもしれない。
「……もう大丈夫だ、レティシア」
レティシアの手を握り締めながら、声をかける。
すると、少し……表情が和らいだように見えた。
「シオン、入るぞ」
トントン、と部屋をノックする音と、聞き慣れた声が聞こえてきた。
返事をするよりも先にドアが開き、部屋に現れたのは……厳しい表情を浮かべる父だった。
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