ティアラの花嫁

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42.再び

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サハラ様は……追いかけてこなかった。

はぁ、はぁ、と肩で息をしながら、私は誰もいない中庭の噴水前で立ち止まる。

「……サハラ様……」

ポロポロと止まらない涙。

ここは、この時間は誰もいないし来ない。
だから……だから、少しだけ。

気持ちを落ち着かせたいの。

サハラ様は、何を考えているの?
明日、一体何があるというの?
……どうして、何も話してくれなかったの??

『オレ、エルマが好きだ』

あの言葉を、告白を……信じたい。
信じたいのに、今は、信じられないの。

私がベンチに座って涙を拭っていると。

「--みーつけた。かわい子ちゃん」

背後から……どこかで聞いた事のある男の声が、聞こえてきた。

背筋が凍ったような……そんな気がした。

「……え?」

ヒョイと、ベンチの後ろから見知らぬ男が私の顔を覗き込んで。
私と目が合ったと思ったら、ニッコリと嫌な笑みを浮かべてきて。

「あなたは誰……うっ……!」

私は、最後まで言葉を発することができなかった。

男が突然、布を口と鼻に押しつけてきて……
意識が、急激に遠のいていくのを感じたから。

…………。
ああ……そうだわ。
どこかで聞いた事があると思ったら……この男の声は……
あの時……私を襲った男たちの一人……。
どうして……城の中に……??

……体を担がれたところで。
ついに私は、意識を手放した。


--次に目を覚ました時。

私は手足を縛られていて、身動きの取れない状態になっていた。

「……ッ、」

言葉が出てこない。
口にはテープを貼られ、何も喋れない。

服は……乱れていないけれど。
体が震えて、止まらない……。

「……あの女、売るのはやめてオレ達の性奴隷にしたらどうだ?」
「バカ言え。処女であれだけの上玉、いい値段になるんだから我慢しろ」
「なんの娯楽もねぇ田舎で、ひと月もよく辛抱したもんだ」

部屋の外から、男たちの会話が聞こえてくる……。
やっぱり、あの時の男たちなんだわ。

部屋を見渡してみれば、どうやら物置のような部屋。

……どうして私がこんな目に?

サハラ様……。
助けて……!

涙がジワリとにじむのを感じた。
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