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16.お説教
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サハラ様の姿が見えなくなるまで、ボーっとその後ろ姿を眺めていたら。
「あいつ……ひと月前に入団したばかりの新人兵士、だったか?」
「!!?」
中庭の噴水の方から、シオン様の声が聞こえてきて、心臓が飛び出してしまうんじゃないか……ってくらい、驚いてしまった。
「シ、シオン様!? いつからそこに!?」
気づかなかったわ。
噴水前のベンチに転がっていたらしく、上半身を起こしてシオン様は大きなあくびをした。
「軽いやつだ」
シオン様が私のもとに歩み寄りながら、どこか呆れたように言って。
……思わず、私はムッとしてしまった。
そりゃ、たしかにサハラ様は軽いわ。
軽いのは否定しないけれど!
「盗み聞きしておいて、そんな失礼な事言わないでください」
「聞こえたんだ」
盗み聞きとは人聞きの悪い、なんて言いながら、シオン様は壁にもたれる。
……というか。
今どう見ても、暇そうよね?
「あの、シオン様。何をしてたんです? 噴水前のベンチに転がって」
私の呆れた問いに、シオン様は悪びれた様子もなく、
「昼寝だ」
しれっとそう答える。
昼寝……。
そう、お昼寝ですか。
「……そんな暇があるのなら、レティシア様に会いに行かれてはどうです? 十日も放ったらかしにして……まったく、何を考えてるのです??」
信じられないわ。
いくらなんでも、あり得ない。
「仕事が忙しいというのが嘘だと知れば、レティシア様……悲しまれますよ」
それだけを口にして。
私は頭を下げて、シオン様に背を向けて歩き出した。
「エルマ」
「なんです?」
振り向けば……シオン様はどこか困ったような、そんな表情を浮かべていた。
「レティシア……怒ってる?」
……なんてこと。
あのシオン様が、まるで怒られてしょんぼりしてる子犬のように見えるなんて。
こんなシオン様、初めてだわ……。
「それは分かりかねます。ご本人に直接聞いてください」
突き放すようだけれど。
私には、レティシア様の本心は分からないもの。
「そんなに気になるのなら、早くお会いになってください。また破談になるのではとうわさになっていますよ」
「破談? なんだそれは」
「うわさです、うわさ。……まあ、そんなに会うのが面倒なら、いっそのこと破談にされては??」
分かってる。
面倒だからレティシア様を避けてるわけじゃないってことくらい。
「レティシア様ほどの方なら、もっと大切に……愛してくださる方がすぐに見つかるでしょうね」
「……会いに行く」
ようやく会う決心がついたのか……
シオン様は一瞬躊躇したあと、レティシア様の部屋の方へと向かって駆け出す。
「……お説教なんて、私は何様かしら?」
私はシオン様の後ろ姿を見つめながら、胸の痛みに耐えていた。
「あいつ……ひと月前に入団したばかりの新人兵士、だったか?」
「!!?」
中庭の噴水の方から、シオン様の声が聞こえてきて、心臓が飛び出してしまうんじゃないか……ってくらい、驚いてしまった。
「シ、シオン様!? いつからそこに!?」
気づかなかったわ。
噴水前のベンチに転がっていたらしく、上半身を起こしてシオン様は大きなあくびをした。
「軽いやつだ」
シオン様が私のもとに歩み寄りながら、どこか呆れたように言って。
……思わず、私はムッとしてしまった。
そりゃ、たしかにサハラ様は軽いわ。
軽いのは否定しないけれど!
「盗み聞きしておいて、そんな失礼な事言わないでください」
「聞こえたんだ」
盗み聞きとは人聞きの悪い、なんて言いながら、シオン様は壁にもたれる。
……というか。
今どう見ても、暇そうよね?
「あの、シオン様。何をしてたんです? 噴水前のベンチに転がって」
私の呆れた問いに、シオン様は悪びれた様子もなく、
「昼寝だ」
しれっとそう答える。
昼寝……。
そう、お昼寝ですか。
「……そんな暇があるのなら、レティシア様に会いに行かれてはどうです? 十日も放ったらかしにして……まったく、何を考えてるのです??」
信じられないわ。
いくらなんでも、あり得ない。
「仕事が忙しいというのが嘘だと知れば、レティシア様……悲しまれますよ」
それだけを口にして。
私は頭を下げて、シオン様に背を向けて歩き出した。
「エルマ」
「なんです?」
振り向けば……シオン様はどこか困ったような、そんな表情を浮かべていた。
「レティシア……怒ってる?」
……なんてこと。
あのシオン様が、まるで怒られてしょんぼりしてる子犬のように見えるなんて。
こんなシオン様、初めてだわ……。
「それは分かりかねます。ご本人に直接聞いてください」
突き放すようだけれど。
私には、レティシア様の本心は分からないもの。
「そんなに気になるのなら、早くお会いになってください。また破談になるのではとうわさになっていますよ」
「破談? なんだそれは」
「うわさです、うわさ。……まあ、そんなに会うのが面倒なら、いっそのこと破談にされては??」
分かってる。
面倒だからレティシア様を避けてるわけじゃないってことくらい。
「レティシア様ほどの方なら、もっと大切に……愛してくださる方がすぐに見つかるでしょうね」
「……会いに行く」
ようやく会う決心がついたのか……
シオン様は一瞬躊躇したあと、レティシア様の部屋の方へと向かって駆け出す。
「……お説教なんて、私は何様かしら?」
私はシオン様の後ろ姿を見つめながら、胸の痛みに耐えていた。
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