ティアラの花嫁

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15.悩み

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相変わらずシオン様はレティシア様を避けているようで、もう十日が経とうとしてた。

「レティシア様。もし何か必要なものや頼みたいことなどございましたら、遠慮なさらずおっしゃってくださいね?」

レティシア様は、あまり物欲がないみたい。

故郷から持ってきた荷物はといえば、私が片手で持てるほどの小さなカバン一つ分だけ。
装飾品は全くといっていいほど付けられないし、ドレスも動きやすそうな身軽なものを好んで着てらっしゃるの。

もちろん、装飾品なんか付けなくても、煌びやかなドレスなんか着なくても、レティシア様はとても魅力的だけれど……。

「あ……でしたら、一つだけお願いしたいことがあるのですが」
「はい、なんでしょう?」

初めてかもしれない。
レティシア様が、頼みごとだなんて。

彼女は自分でできる事は自分でしたい、と湯浴みも着替えも、なんなら部屋の掃除までなさるから。
もちろん、掃除は「私の仕事を奪わないでください」と言って、なんとか阻止してるわ。

そんなレティシア様だから、ようやく少しは役に立てるかも、って嬉しくなった。

「実は……」


--レティシア様の部屋を出て。
中庭の噴水が見える廊下を歩いていると、前方からサハラ様が歩いてくる姿が見えた。

「よっ、エルマ。なんか久しぶりだな」
「そうですね。最近、少しバタバタしていましたし」

本当に、サハラ様と会うのは久しぶりかも。
レティシア様の侍女になってからは、一度も会っていないわ。

……少しホッとしたのは、きっと、サハラ様の笑顔に癒されてるからね。

なんて、私が考えてると。

「悩み……あるのか?」

そう、サハラ様が心配そうに聞いてきた。

「えっ?」
「顔に出てるぞ」
「……ほ、本当ですか?」

思わず聞き返してしまったら、サハラ様がポン、と頭を優しく撫でてくれた。

『エルマ。ホント、悩みがあったら聞くからな』

なぜか、以前かけてくれた言葉をふいに思い出してしまって……。

「……私……その……」

って、何を話そうとしてるの。
私、悩みなんて……。

「あっ! なぁ、オレさ明日休みなんだ。城下町に気晴らしに行くんだけど……一緒にどうだ?」

私が俯いていると、明るい声で誘ってくれるサハラ様。

……気を使ってくれてるのね。
サハラ様は、どうして私のこと、気にかけてくださるの?

「……そうですね。ご一緒してもよろしいですか?」

思わず、笑みをこぼして頷くと。
サハラ様は目を丸くして、嬉しそうな表情を浮かべた。

「えっマジで!? デートだ!」

で、デート!?

「い、いえ違います。違います! レティシア様に頼まれた事があって、私も街に行く予定だったんです!」

思わずムキになって否定すると、サハラ様はケラケラと笑いだした。

……じょ、冗談だったのね。
なんだか恥ずかしいわ……。

「もういいです。一人で行きますから」
「笑ってごめんって! 一緒に行こうぜ、エルマ。そういえば、シオン様の婚約者……レティシア様だっけ? 侍女に抜擢されたんだろ? すげーな」

サハラ様は私のあとを慌てた様子でついて歩きながら、思い出したようにそう話し出す。

もう……やっぱり軽いわ。

でも、悪い気なんかしなくって。
つい、頬が緩むのを感じてしまった

……んだけれど。

「絶世の美女って、ああいう人のこと言うんだろな」

そんなサハラ様の一言で、一気に気分が落ち込んだ。

「……男の人はみんな、あの方を好きになってしまうかもしれないわね」

シオン様も、サハラ様も。

なんて、当たり前じゃない。
あんなに非の打ち所がない完璧な方、出会ったことがないもの。

そう、私が考えていると、

「そうか?」

と、不思議そうなサハラ様に、少し驚いてしまった。

「……そうでしょう?」
「オレは、エルマの方がいいけどな」

…………。
今、サハラ様は何と言ったの?

立ち止まってサハラ様を見上げる私の顔は、きっと、マヌケな顔をしてると思うの。

サハラ様はポンポンと、また私の頭を撫でると、

「オレは、エルマといる方がドキドキする。……じゃ、じゃあ、また明日な!」
「え、えっ!?」

言うだけ言って、サハラ様は走り去ってしまった。
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