眠り姫は夢の中

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魔法の国クラスタ

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「ホントにいいのか?」

ジャックは城の屋上に停泊している飛空船にテスを抱きかかえて乗せながら、もう一度確認した。

テスは目を輝かせながら、迷いなく頷く。

「うん、連れてって」

バランのおかげで、国にとどまる理由がなくなったのだ。

「今行かなきゃ、きっといつまでも出発できないもん!」

あの長老たちがいるならたしかにそうだな、とジャックは呆れ顔になる。
めんどくさそうだった。
……ものすごく。

ジャックも乗り込み、機体の準備をする。

「ドキドキする」
「捕まってろ」
「うん……」

いよいよレバーを引いて動き出す、直前。
ジャックは隣の席のテスの頬に手を添える。

そして……唇を重ねた。

「姫さまぁー!」

聞こえてくる長老たちの声に、ゲンナリしてしまう。

「……すげーな、あのジジイたち」
「ふふふっ。本当のおじいちゃんみたいな存在なんだ!」

そう言って、テスは屋上にやってきた長老たちに大きく手を振った。
その顔は、とても、とても幸せそうな笑顔だった。

ふわりと機体が宙を浮く。
そして、

「たまには帰ってくるからねー! お土産期待しててー! 行ってきまーす!!」

機体は一気に加速して。
魔法の国クラスタから、あっという間に飛び立ってしまったのであった。


「せわしないのぉ……」
「……そういえば、昔っから自由気ままな姫さまじゃったのぉ……」
「なんとまぁ幸せそうな笑顔じゃ……」

毒気を抜かれたように、屋上に立ち尽くす長老三人は。
ただただ、飛空船が飛び去った青い空を眺めていた。


「--素敵! すごーい!! 緑の大地だぁ!」

飛空船の中。
テスは、とにかく目を輝かせながらはしゃいでいた。

地上の景色が、よく見える。
しばらくはこの高さを維持したまま、のんびり景色を楽しむのもいい。
なぜなら、

「ねぇ、どこに行くの?」

なにも決めてない。
ただ、テスを一番に迎えに行くことだけを考えていたからだ。

「姫君のおおせのままに」

冗談ぽく言うと、テスと顔を見合わせて、互いに笑った。

時間はたっぷりある。
この先、何十年とある。

「今はね……このまま、ジャックと一緒にのんびりしたいな」
「そうだな」
「ふふ、まだ夢の中にいるみたい」

……魔法の国の眠り姫は、運命の相手のキスで目が覚める。

ふと、ジャックは昔読んだおとぎ話を思い出し、苦笑してしまった。

「おとぎ話、まんまじゃねーか」
「なぁに? なんの話?」
「なんでもねー」
「なになに??」

テスは楽しそうに、操縦しているジャックに何度も啄むようなキスをしてくる。

「おい、あぶねーだろ。墜落するぞ」
「だって、我慢できない……」

目を潤ませるテスに、う……とジャックは言葉を失う。
そして、観念した。

--ポチ、とあるボタンを押したあと。
シートベルトを外し、テスの座席を、一気に倒した。

キョトンとするテスに、ジャックは覆いかぶさる。
その目は、獲物を狩る動物のようで。

「え、え?」
「ヤる」
「つ、つ、墜落しちゃうよ!?」
「自動操縦モードに切り替えた」

あっさり答えるジャックは、あっという間にテスの服を剥がしにかかった。
それはもう、慣れた手つきで。

「ちょ、ちょっと待って? なにも今じゃなくても、」
「我慢できない」
「……ッ、」

テスと同じセリフを、ニッと少し意地の悪い顔で口にして。

「……私だって、一緒だよ」

テスもまた、観念したらしい。

無駄な抵抗をやめて。
青空と白い雲の見える、飛空船の中で。

……運命の赤い糸で結ばれたジャックと、身も心も、強く強く、結ばれたのであった--。


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