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魔法の国クラスタ
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ジャックは、テスの笑顔が好きだ。
たぶん、ずっと昔から。
何度も何度も、その存在を確かめるように唇を重ねた。
その華奢で柔らかい体を、強く抱きしめた。
「……一緒に行くだろ?」
地上の景色を見に。
ジャックと共に、空の旅に。
「行きたい。でも……」
テスは悲しそうな表情を浮かべる。
「私はこの国のお姫様で、王女にならなきゃいけないの。だから……」
そういえば、前にそんな事を話してたな、とジャックは思い出す。
だから眠り続けるわけにはいかないんだと。
「ならオレもここにいる」
そうだ。
旅なら、これからいつでも行ける。
飛空船に乗せるというテスとの約束は、いつでも叶えられる。
テスは目に涙をためながら、ジャックの首にしがみついた。
と、その時。
「やあ、おはようテス。お邪魔して悪いんだけど、そろそろいいかな?」
「姫さま! 姫さまが目をお覚ましに!!」
「えっ!? ホント!?」
「姫さまー!」
申し訳なさそうな国王の声に続いて、城の者たちの騒がしい声が、壊れたドアの方から聞こえてきた。
二人がそちらに視線を移すと、バランがニコニコ顔の国王の隣で顔を引きつらせて立っている。
「ジャック。なんか、オレも王族の末裔らしくって、王位継承権があるって話なんだよ……どう思う?」
そう、話しかけてきて。
「初めまして、ジャック君! 愛娘を起こしてくれて君には大変感謝しているよ! ありがとう!! それはそうと、このバラン君、君から見てどんな人物なんだい?」
ジャックはテスを抱きしめたまま、とりあえず聞かれたことに答える。
「……変わってる」
「なるほど」
「でも根は真面目でいいヤツだ。変だけど」
そう正直に言えば、
「ひでーな」
バランはケラケラと笑いだす。
そんなバランに向かって、国王はニコニコしたまま一言。
「ふむ。じゃあバラン君。うちの可愛いテスのために、君が僕の後継者になってくれるかい?? クラスタは楽しいよ!」
その場にいた全員が、シン……と静まり返った。
それもそうだろう。
今日会ったばかりの男に、この国の未来を託すということなのだから。
「へ? ……え、えぇ?? マジで?? なんか面白そうだけど!」
「いいねー! なら今日から、君は家族の一員だ! 話は後でたっぷりとしようじゃないか!」
何やら気に入られた様子のバラン。
すると、ゴホン、と長老が咳払いをした。
皆が長老へ視線をやる。
「王家の血筋であるのは間違いないのじゃが、その話はもうちっと落ち着いてからでどうじゃ?」
「茶髪のあの青年じゃないなんて微妙じゃが……まあええわい! 姫さまが無事目覚めた事じゃし、今宵は盛大な祝賀パーチィでもあげるとするかのぉ!」
二人の長老はそれはもう、ウキウキした表情でそう提案する……のだが。
「しなくていーよ?」
テスが、あっけらかんとそんな事を言う。
「いやいやしかし、姫さまのお目覚めを皆がどれほど待ち望んでおられたか……」
「だって、もう行くから! ねっ、ジャック!」
「行く? 行くとは、一体……」
テスが、ジャックの首に手を回す。
すると、ジャックはテスの体をヒョイと抱き上げた。
お姫様抱っこだ。
ジャックはスタスタと皆のいるドアへと向かい、国王の目の前で立ち止まる。
そして、
「……お嬢さん、もらってくんで」
そう言って、ぺこりと頭を下げた。
「うん。娘を……よろしく頼むよ」
それだけだ。
二人の会話はそれだけで、十分だった。
「テス。幸せにおなり」
「……はい!」
--ダッ、と突然駆け出すジャックに、皆がポカンとする。
そして、すぐに我に返ったのは長老たちだ。
「ひ、ひ、姫さまあああ!」
「誘拐じゃああ! って、いつまで寝ておるんじゃお主は!!」
気絶していた長老を文字通り叩き起こし、三人は慌てて後を追いかける。
追いかけるが、追いつくはずがない。
あっという間に、ジャックとテスの姿は消えてしまったのだ。
「あらあら。大胆ねぇ」
「まったく。若いねぇ」
国王夫妻はというと、呑気に微笑んでいるばかり。
テスのあんな幸せそうな笑顔を見て、止められるはずがない。
幼い頃からの初恋が、ようやく実ったのだ。
たぶん、ずっと昔から。
何度も何度も、その存在を確かめるように唇を重ねた。
その華奢で柔らかい体を、強く抱きしめた。
「……一緒に行くだろ?」
地上の景色を見に。
ジャックと共に、空の旅に。
「行きたい。でも……」
テスは悲しそうな表情を浮かべる。
「私はこの国のお姫様で、王女にならなきゃいけないの。だから……」
そういえば、前にそんな事を話してたな、とジャックは思い出す。
だから眠り続けるわけにはいかないんだと。
「ならオレもここにいる」
そうだ。
旅なら、これからいつでも行ける。
飛空船に乗せるというテスとの約束は、いつでも叶えられる。
テスは目に涙をためながら、ジャックの首にしがみついた。
と、その時。
「やあ、おはようテス。お邪魔して悪いんだけど、そろそろいいかな?」
「姫さま! 姫さまが目をお覚ましに!!」
「えっ!? ホント!?」
「姫さまー!」
申し訳なさそうな国王の声に続いて、城の者たちの騒がしい声が、壊れたドアの方から聞こえてきた。
二人がそちらに視線を移すと、バランがニコニコ顔の国王の隣で顔を引きつらせて立っている。
「ジャック。なんか、オレも王族の末裔らしくって、王位継承権があるって話なんだよ……どう思う?」
そう、話しかけてきて。
「初めまして、ジャック君! 愛娘を起こしてくれて君には大変感謝しているよ! ありがとう!! それはそうと、このバラン君、君から見てどんな人物なんだい?」
ジャックはテスを抱きしめたまま、とりあえず聞かれたことに答える。
「……変わってる」
「なるほど」
「でも根は真面目でいいヤツだ。変だけど」
そう正直に言えば、
「ひでーな」
バランはケラケラと笑いだす。
そんなバランに向かって、国王はニコニコしたまま一言。
「ふむ。じゃあバラン君。うちの可愛いテスのために、君が僕の後継者になってくれるかい?? クラスタは楽しいよ!」
その場にいた全員が、シン……と静まり返った。
それもそうだろう。
今日会ったばかりの男に、この国の未来を託すということなのだから。
「へ? ……え、えぇ?? マジで?? なんか面白そうだけど!」
「いいねー! なら今日から、君は家族の一員だ! 話は後でたっぷりとしようじゃないか!」
何やら気に入られた様子のバラン。
すると、ゴホン、と長老が咳払いをした。
皆が長老へ視線をやる。
「王家の血筋であるのは間違いないのじゃが、その話はもうちっと落ち着いてからでどうじゃ?」
「茶髪のあの青年じゃないなんて微妙じゃが……まあええわい! 姫さまが無事目覚めた事じゃし、今宵は盛大な祝賀パーチィでもあげるとするかのぉ!」
二人の長老はそれはもう、ウキウキした表情でそう提案する……のだが。
「しなくていーよ?」
テスが、あっけらかんとそんな事を言う。
「いやいやしかし、姫さまのお目覚めを皆がどれほど待ち望んでおられたか……」
「だって、もう行くから! ねっ、ジャック!」
「行く? 行くとは、一体……」
テスが、ジャックの首に手を回す。
すると、ジャックはテスの体をヒョイと抱き上げた。
お姫様抱っこだ。
ジャックはスタスタと皆のいるドアへと向かい、国王の目の前で立ち止まる。
そして、
「……お嬢さん、もらってくんで」
そう言って、ぺこりと頭を下げた。
「うん。娘を……よろしく頼むよ」
それだけだ。
二人の会話はそれだけで、十分だった。
「テス。幸せにおなり」
「……はい!」
--ダッ、と突然駆け出すジャックに、皆がポカンとする。
そして、すぐに我に返ったのは長老たちだ。
「ひ、ひ、姫さまあああ!」
「誘拐じゃああ! って、いつまで寝ておるんじゃお主は!!」
気絶していた長老を文字通り叩き起こし、三人は慌てて後を追いかける。
追いかけるが、追いつくはずがない。
あっという間に、ジャックとテスの姿は消えてしまったのだ。
「あらあら。大胆ねぇ」
「まったく。若いねぇ」
国王夫妻はというと、呑気に微笑んでいるばかり。
テスのあんな幸せそうな笑顔を見て、止められるはずがない。
幼い頃からの初恋が、ようやく実ったのだ。
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