眠り姫は夢の中

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魔法の国クラスタ

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--翌朝の試運転では、機体には特に何の問題も見当たらなかった。
浮遊石も、ちゃんと操作できるしうまく制御できる。

これで、ようやく旅立てるというわけだ。
まずは……もちろん、魔法の国クラスタへ。

「もう行くのか? 送別会くらいさせろよ」

荷造りをしてるジャックのもとに、タックスがやってくるなり呆れたように言った。

「そんな暇ない」

世話になった仲間たちには、昨日のうちに挨拶を済ませている。

「そうか……まぁ、人を待たせてるんだもんな。仕方ねぇか。荷物は残してってもいいぞ。たまには戻ってくるだろ?」
「……さあ」
「つめてーな」

笑うタックスに、ジャックは頭を深く下げた。

彼は、ある意味第2の父親のような存在だった。
彼に出会っていなければ、こうして飛空船技師となり船を完成させることはできなかったかもしれない。

「あんたには、感謝してる」

心から、そう思ってる。

「そういうのやめろやめろ、むずがゆくなるから!」
「だろうな」

わかる気はする。

「まっ、その……部屋はあまってるし気にすんなよ」

言うだけ言って、タックスは部屋を後にした。
他にも何か言いたげな様子に見えたが……気のせいだろうか。


飛空船は、すでに離陸するだけだ。
ジャックが荷物を手に、機体に乗り込もうとした時。

「頼むジャック! ホントに魔法の国があるなら、行ってみたいんだ!」

バランが、拝むように両手を合わせて頭を下げてきた。

「……いや、悪いけど」

帰りはテスを乗せる。
そうなったら定員オーバーだ。

ジャックが断るより先に、バランは真剣な表情で更に続ける。

「頼むよ! オレ、魔法の国のこと信じてるんだ! どうしても、行ってみたいんだ! ……行かなきゃならないんだ……」
「……なんかあんのか?」

そこまでして、実在するかどうか分からない空の島国に。
そんな話、この7年間、聞いたこともないが。

「頼む」

とにかく、必死なバランの様子に。

「……まぁ、いーけど」

観念してしまった。

バランもまた、この飛空船造りの恩人である。
帰りは、ギュウギュウ詰めになるがなんとかなるだろう。

と、ジャックが頷くと。

「わ、私も! 一緒に行きたい!」

なぜかユミナが、大きなリュックを背負って走ってきた。
一体、みんなして何だというのか。

「いや、無理」

ジャックが呆れた顔して即答する。

さすがに定員オーバーすぎる。
それ以前に、なぜテス以外の女を連れて旅にでなければならないのか。

「は? なんでよバランだけ!? 窮屈だけど三人乗れるでしょ!? 男二人旅なんて、むさっ苦しいでしょ! そんなんだから25にもなって恋人いないんじゃない??」
「お、おいおいユミナ、」

タックスが片手で頭を抱えながら、ユミナを止めようと声をかける。
が、興奮気味のユミナは止まらない。

「だ、だから……私がなってあげてもいいって言ってんの! ホントあんたって鈍感!」

そこまでポカンと聞いてたジャックは、首をかしげる。

何を言ってるんだコイツ、と理解しがたい表情で。

「おいユミナ、ジャックには……」
「あんたみたいな目つき悪くて無愛想でとっつきにくい男、私くらいしか相手にしないと思うけど?」

マシンガントークとは、こういう事をいうのか。
と、ジャックはある意味感心する。

そして、ようやくユミナが真っ赤な顔で一息ついたところで、

「恋人ならいる」

そう、特に表情を変えることなく口にした。

あいにく、告白されたとは微塵も思っていない。
ユミナが自分に好意を抱いているなんて、もってのほか。

だから、バッサリと真実を口にした。

「……嘘つき! そ、そんな女見たことない! 童貞のくせに強がっちゃってバカじゃない!?」
「違う。……たぶん」
「は? 意味わかんないし!」

夢の中では、もう何年も前に童貞でなくなった。
が、現実ではまだだ。

なんとなく曖昧な答えになるのも、仕方ない。

「準備できたぞー」

ユミナに捕まってる間に、バランが機体に乗り込んで飛び立つ準備をしていたらしい。

「今行く」
「なによ、なによ……あんたなんか事故にあって死んじま……むぐ!」

ユミナの言葉は、最後まで発せられることはなかった。
タックスが、口を押さえつけたからだ。

「言っていい事と悪い事がある。仮にも飛空船技師だろ、お前は。それに、ジャックには7年前から待たせてる女がいるって言っただろ」
「…………」
「すまねぇジャック。気をつけて行ってこい!」

ユミナは目をそらし、逃げるように駆け出した。

飛空船に乗り込むと、バランが少しばかり呆れた表情を浮かべていた。

「お前……断り方、超下手くそだな」
「? 断る? なにを」
「告白されたろ」
「されてない」

心から不思議そうに答えるジャックに、バランは肩をすくめてみせる。

「……すげーな、お前の恋人。よくこんな鈍感を落としたな」
「何の話だ?」
「いや、こっちの話」

よく分からないが、ようやくこれで出発だ。

ジャックが赤いボタンを押すと、フワリと機体が宙を浮く。
そして、レバーを手前に引くと……

一気に、加速した。
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