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眠り姫は夢の中
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震えてジャックに抱きつくミリアに、テスはポカンとしたあと、むぅー、とみるみるむくれてしまった。
……心底、面倒くさい。
変な勘違いをされても仕方ないことぐらい、ジャックにだって分かる。
「これ……もしかしてジャックの願望!?」
「そんなわけない」
即答した。
いつだったか、ジャックがなんとなく彼女をイメージした時は、その姿がぼんやりとしていた。
だが今目の前にいるミリアの姿は、はっきりとしている。
これはつまり、ミリアの夢とリンクしているということだ。
決して、ジャックがイメージして好きで抱きつかれてるわけではない。
「た、助けてください……! 黒いモヤがずっと追ってくるんです……! 怖くて私……!」
「黒いモヤ?」
ジャックがキョロ、と周りを見渡してみる。
何もない白い空間の中、確かにこちらに向かって近づいてくる黒いモヤが見えた。
この夢の世界では、たまにみかけるものだ。
「この子……悪夢、見てる?」
「らしいな」
そう、黒いモヤの正体は--悪夢。
ミリアは今、大きな悩みやストレスを抱えているのかもしれない。
と、そこまで考えて、ふと思い出す。
『……私………きっと、……また別の方と……婚約させられる……』
ジャックが婚約解消の話をした時に、そんな事を話していた。
もしかしたら、それが原因なのかもしれないし、違うかもしれない。
あまり……というか、ミリアとはほとんど会話らしい会話をした覚えがないのでよく分からない。
「落ち着いて! あのね、これは夢なんだよ」
ヒョイと、テスがミリアの顔を覗き込むように身をかがめる。
「夢……?」
「うん。不安なこととかがあったらね、夢にああいう形で襲われることがあるの。ね、ジャック」
「ああ」
「これは夢なんですか……?」
ようやくジャックから少し体を離すミリアが、恐る恐る問いかける。
自信なさげなところは、現実も夢も変わらないようだ。
「私で良かったら、話聞くよ?」
ミリアの手を引いてニッコリと笑顔を向けるテスに、ようやくミリアはホッとした表情を浮かべた。
そして、その場にへなへなと座り込んで、ポツリポツリと話し始めたのだった。
「……私は……いつか好きな人と……結婚したいだけなんです……けど……きっとまた別の人と……婚約させられてしまうんです……」
テスは一緒に座って、背中を優しくなでている。
そして、不思議そうにミリアにたずねる。
「どうして? ご両親、厳しいの?」
「優しい……けど……親の言うことは絶対でしょう……?」
「え……地上はそうなの? ジャック」
ジャックに話をふられ、肩をすくめてみせる。
家によるとしか。
「でも、人生は一度きりなんだよ? 私、あなたに後悔してほしくない」
「後悔……」
テスはニッコリと笑顔を浮かべて、こくりと頷いた。
そして、
「……私はね、ジャックと一緒に生きていきたい。きっと反対されちゃうかもしれない。それでも……ジャックが好きだから、諦めないよ。だから、ミリアも勇気を出して。一緒に頑張ろ!」
真剣な眼差しで一気にそうまくしたてる。
ジャックはというと、なんだか妙に……そわそわした。
『ジャックが好きだから』
その言葉が、じんわりと胸を温かくする。
いつも、いつもテスはストレートに気持ちを口にしてくれるのだと、改めて気がついたのだ。
「ありがとう……優しいんですね。
私も……頑張れるかな……?」
ミリアの表情がほんの少し変わったように見えた。
「うん、ミリアならきっと大丈夫」
「あなたの名前は……?」
「私はテス。よろしくね」
「ありがとう……テスさん。私……自分の気持ち……両親に伝えてみます……」
そう口にして、ようやくミリアは立ち上がった。
そして、ジャックとテスの二人の顔を交互に見ながら、一言。
「……あの……もしかしてテスさんは……この前話していた……キスの相手、ですか? 恋人、なんですか??」
「……えっ?」
「…………」
目をキラキラと輝かせるミリアと、ポカンとするテス。
ジャックはというと、首を傾げてしまう。
そういえば、自分とテスの関係は一体なんなのだろう、と。
幼い頃に、夢の中で出会った。
それから何年もの間、よく一緒に過ごしてきた。
ここ最近は手を繋いだり、抱きしめたり、唇を重ねたりと……当たり前のようにしてきた。
「えっと……私はジャックのこと、大好きだよ」
テスが頬を赤く染めながら、ミリアにそう口にする。
その言葉はまるで、『ジャックはテスのこと好きではない』と話してるようにも受け取れる。
……無性に、苛立った。
だから、
「恋人で合ってる」
そう、ハッキリと口にしていた。
テスを見てみれば、更に耳まで赤くしてしまっていて。
今すぐ抱きしめたいと、思った。
「そうなんですね……素敵。私もいつか……」
ミリアは全てを言い終わらないうちに、消えてしまった。
現実の世界で目が覚めたのだろう。
残されたのは、ジャックとテスの二人だけ。
とはいっても、ジャックもじきに目が覚めるのかもしれない。
ギュッと、テスがジャックの腕に抱きついてきた。
そして、
「……恋人?」
そう、ポツリと確認するかのように聞いてきた。
「……だろ?」
手を繋ぐことも、こうして腕を組むことも、抱きしめることもキスをすることも、テス以外とはしない。というか、したくない。
彼女は特別な存在なのだと、それは昔から気づいてたけれど。
「私のこと、好き?」
少しだけ不安そうなテスの声に、ハッキリと好意を口にしたことはなかったのだと気づいたのだった。
「ああ」
コクリと頷くと、テスの目にじわりと涙が浮かんだ。
そして、とても幸せそうな笑みを浮かべてくれた。
「私は、大好きだよ」
震えてジャックに抱きつくミリアに、テスはポカンとしたあと、むぅー、とみるみるむくれてしまった。
……心底、面倒くさい。
変な勘違いをされても仕方ないことぐらい、ジャックにだって分かる。
「これ……もしかしてジャックの願望!?」
「そんなわけない」
即答した。
いつだったか、ジャックがなんとなく彼女をイメージした時は、その姿がぼんやりとしていた。
だが今目の前にいるミリアの姿は、はっきりとしている。
これはつまり、ミリアの夢とリンクしているということだ。
決して、ジャックがイメージして好きで抱きつかれてるわけではない。
「た、助けてください……! 黒いモヤがずっと追ってくるんです……! 怖くて私……!」
「黒いモヤ?」
ジャックがキョロ、と周りを見渡してみる。
何もない白い空間の中、確かにこちらに向かって近づいてくる黒いモヤが見えた。
この夢の世界では、たまにみかけるものだ。
「この子……悪夢、見てる?」
「らしいな」
そう、黒いモヤの正体は--悪夢。
ミリアは今、大きな悩みやストレスを抱えているのかもしれない。
と、そこまで考えて、ふと思い出す。
『……私………きっと、……また別の方と……婚約させられる……』
ジャックが婚約解消の話をした時に、そんな事を話していた。
もしかしたら、それが原因なのかもしれないし、違うかもしれない。
あまり……というか、ミリアとはほとんど会話らしい会話をした覚えがないのでよく分からない。
「落ち着いて! あのね、これは夢なんだよ」
ヒョイと、テスがミリアの顔を覗き込むように身をかがめる。
「夢……?」
「うん。不安なこととかがあったらね、夢にああいう形で襲われることがあるの。ね、ジャック」
「ああ」
「これは夢なんですか……?」
ようやくジャックから少し体を離すミリアが、恐る恐る問いかける。
自信なさげなところは、現実も夢も変わらないようだ。
「私で良かったら、話聞くよ?」
ミリアの手を引いてニッコリと笑顔を向けるテスに、ようやくミリアはホッとした表情を浮かべた。
そして、その場にへなへなと座り込んで、ポツリポツリと話し始めたのだった。
「……私は……いつか好きな人と……結婚したいだけなんです……けど……きっとまた別の人と……婚約させられてしまうんです……」
テスは一緒に座って、背中を優しくなでている。
そして、不思議そうにミリアにたずねる。
「どうして? ご両親、厳しいの?」
「優しい……けど……親の言うことは絶対でしょう……?」
「え……地上はそうなの? ジャック」
ジャックに話をふられ、肩をすくめてみせる。
家によるとしか。
「でも、人生は一度きりなんだよ? 私、あなたに後悔してほしくない」
「後悔……」
テスはニッコリと笑顔を浮かべて、こくりと頷いた。
そして、
「……私はね、ジャックと一緒に生きていきたい。きっと反対されちゃうかもしれない。それでも……ジャックが好きだから、諦めないよ。だから、ミリアも勇気を出して。一緒に頑張ろ!」
真剣な眼差しで一気にそうまくしたてる。
ジャックはというと、なんだか妙に……そわそわした。
『ジャックが好きだから』
その言葉が、じんわりと胸を温かくする。
いつも、いつもテスはストレートに気持ちを口にしてくれるのだと、改めて気がついたのだ。
「ありがとう……優しいんですね。
私も……頑張れるかな……?」
ミリアの表情がほんの少し変わったように見えた。
「うん、ミリアならきっと大丈夫」
「あなたの名前は……?」
「私はテス。よろしくね」
「ありがとう……テスさん。私……自分の気持ち……両親に伝えてみます……」
そう口にして、ようやくミリアは立ち上がった。
そして、ジャックとテスの二人の顔を交互に見ながら、一言。
「……あの……もしかしてテスさんは……この前話していた……キスの相手、ですか? 恋人、なんですか??」
「……えっ?」
「…………」
目をキラキラと輝かせるミリアと、ポカンとするテス。
ジャックはというと、首を傾げてしまう。
そういえば、自分とテスの関係は一体なんなのだろう、と。
幼い頃に、夢の中で出会った。
それから何年もの間、よく一緒に過ごしてきた。
ここ最近は手を繋いだり、抱きしめたり、唇を重ねたりと……当たり前のようにしてきた。
「えっと……私はジャックのこと、大好きだよ」
テスが頬を赤く染めながら、ミリアにそう口にする。
その言葉はまるで、『ジャックはテスのこと好きではない』と話してるようにも受け取れる。
……無性に、苛立った。
だから、
「恋人で合ってる」
そう、ハッキリと口にしていた。
テスを見てみれば、更に耳まで赤くしてしまっていて。
今すぐ抱きしめたいと、思った。
「そうなんですね……素敵。私もいつか……」
ミリアは全てを言い終わらないうちに、消えてしまった。
現実の世界で目が覚めたのだろう。
残されたのは、ジャックとテスの二人だけ。
とはいっても、ジャックもじきに目が覚めるのかもしれない。
ギュッと、テスがジャックの腕に抱きついてきた。
そして、
「……恋人?」
そう、ポツリと確認するかのように聞いてきた。
「……だろ?」
手を繋ぐことも、こうして腕を組むことも、抱きしめることもキスをすることも、テス以外とはしない。というか、したくない。
彼女は特別な存在なのだと、それは昔から気づいてたけれど。
「私のこと、好き?」
少しだけ不安そうなテスの声に、ハッキリと好意を口にしたことはなかったのだと気づいたのだった。
「ああ」
コクリと頷くと、テスの目にじわりと涙が浮かんだ。
そして、とても幸せそうな笑みを浮かべてくれた。
「私は、大好きだよ」
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