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運命の赤い糸
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その日の夜に見た夢の場面は、タックスの飛空船がある丘の上だった。
「ジャック……」
ジャックが飛空船を見上げていると、背後から声をかけられる。
相手はもちろん、テスだ。
振り向くと、なぜかテスは頬を赤く染め、なんだか恥ずかしそうに視線を下に向けている。
「? どうした?」
テスの元に歩み寄り、特に何も考えずにその頬に触れてみると、ビクッと体を震わせたあと、更にテスは赤くなってしまう。
……と、そこでようやくジャックは思い出したのだ。
前にテスと別れた時のことを。
「…………」
深いキスをした。
その最中、ジャックが目を覚まして、それっきりだったような。
「…………」
「…………」
なんとなく、お互いに気まずい。
ジャックはぎこちなくテスの頬から手を離しながら、
「あー……」
何か言わなければ、と思うのだが何も思いつかない。
ジャックが戸惑っていると、テスが飛空船に気がついたらしい。
「これ……前に言ってた、修理してる飛空船?」
「あ、ああ」
テスは飛空船に歩み寄り、ソッと手で触れる。
「すごいね。こんな大きくて重そうな乗り物が、浮遊石もないのに空を飛べるの?」
テスの住むクラスタでは考えられないのだろう。
ジャックは、テスの隣に立つ。
そして、飛空船を一緒に見上げながら、
「婚約、破棄した」
そう、報告した。
「えっ?」
目をまん丸にして、テスがようやくジャックを見上げる。
やっと視線が合った。
「どうして?」
「は? どうしてって……お前が、婚約してるなら迎えにくんなって言っただろ」
何をそんな当たり前のことを聞くのだろう。
ジャックがむぅ、と不機嫌になりながら答えると、テスは目をみるみる潤ませる。
「な、なんで泣くんだ」
「だ、だって、」
ポロポロと、次から次へと溢れるテスの涙はすごく綺麗だとジャックは思う。
思うのだが。
テスに泣かれるのは、好きじゃない。
ハンカチなんて気の利いたものは持っていないため、自分の服の袖でその涙をゴシゴシと少し乱暴に拭っていると、
「……本当はね、来てほしかった」
そう、ジャックの手をギュッと握りしめながらテスが口にした。
その言葉に、なぜかものすごく安堵する自分がいた。
「ジャックのこと、私、待っててもいい?」
「ああ」
思わず即答した。
「お前がくれた浮遊石もあるし、飛空船技師になるための師匠もできた。まあ……時間はかかるだろうけど、なんとかなるだろ。だから、」
今度は少し遠慮がちに、テスの頬に触れてみる。
そして、
「……だから、オレが行くまで他のやつにキスさせるな」
返事を聞く前に、そのまま顔を近づけて……唇を、重ねた。
この柔らかい唇に触れていいのは自分だけだ。
そんな独占欲が自分の中にあることに、ジャックは少し驚いてる。
「……うん。何年でも、何十年でも待ってる」
テスが満面の笑みを浮かべると、ギュウ、とジャックの体に抱きついてきた。
その体を、少し戸惑いながらも抱きしめ返してみる。
「大好きだよ、ジャック」
なんだか、とても満たされた気分になった。
だから、もう一度……唇を重ねた。
夢から覚めると、ジャックは起き上がって背伸びをする。
「……よし」
ジャックは今日、この街を出て王都に向かう。
飛空船技師になるための修行の始まりだ。
「ジャック……」
ジャックが飛空船を見上げていると、背後から声をかけられる。
相手はもちろん、テスだ。
振り向くと、なぜかテスは頬を赤く染め、なんだか恥ずかしそうに視線を下に向けている。
「? どうした?」
テスの元に歩み寄り、特に何も考えずにその頬に触れてみると、ビクッと体を震わせたあと、更にテスは赤くなってしまう。
……と、そこでようやくジャックは思い出したのだ。
前にテスと別れた時のことを。
「…………」
深いキスをした。
その最中、ジャックが目を覚まして、それっきりだったような。
「…………」
「…………」
なんとなく、お互いに気まずい。
ジャックはぎこちなくテスの頬から手を離しながら、
「あー……」
何か言わなければ、と思うのだが何も思いつかない。
ジャックが戸惑っていると、テスが飛空船に気がついたらしい。
「これ……前に言ってた、修理してる飛空船?」
「あ、ああ」
テスは飛空船に歩み寄り、ソッと手で触れる。
「すごいね。こんな大きくて重そうな乗り物が、浮遊石もないのに空を飛べるの?」
テスの住むクラスタでは考えられないのだろう。
ジャックは、テスの隣に立つ。
そして、飛空船を一緒に見上げながら、
「婚約、破棄した」
そう、報告した。
「えっ?」
目をまん丸にして、テスがようやくジャックを見上げる。
やっと視線が合った。
「どうして?」
「は? どうしてって……お前が、婚約してるなら迎えにくんなって言っただろ」
何をそんな当たり前のことを聞くのだろう。
ジャックがむぅ、と不機嫌になりながら答えると、テスは目をみるみる潤ませる。
「な、なんで泣くんだ」
「だ、だって、」
ポロポロと、次から次へと溢れるテスの涙はすごく綺麗だとジャックは思う。
思うのだが。
テスに泣かれるのは、好きじゃない。
ハンカチなんて気の利いたものは持っていないため、自分の服の袖でその涙をゴシゴシと少し乱暴に拭っていると、
「……本当はね、来てほしかった」
そう、ジャックの手をギュッと握りしめながらテスが口にした。
その言葉に、なぜかものすごく安堵する自分がいた。
「ジャックのこと、私、待っててもいい?」
「ああ」
思わず即答した。
「お前がくれた浮遊石もあるし、飛空船技師になるための師匠もできた。まあ……時間はかかるだろうけど、なんとかなるだろ。だから、」
今度は少し遠慮がちに、テスの頬に触れてみる。
そして、
「……だから、オレが行くまで他のやつにキスさせるな」
返事を聞く前に、そのまま顔を近づけて……唇を、重ねた。
この柔らかい唇に触れていいのは自分だけだ。
そんな独占欲が自分の中にあることに、ジャックは少し驚いてる。
「……うん。何年でも、何十年でも待ってる」
テスが満面の笑みを浮かべると、ギュウ、とジャックの体に抱きついてきた。
その体を、少し戸惑いながらも抱きしめ返してみる。
「大好きだよ、ジャック」
なんだか、とても満たされた気分になった。
だから、もう一度……唇を重ねた。
夢から覚めると、ジャックは起き上がって背伸びをする。
「……よし」
ジャックは今日、この街を出て王都に向かう。
飛空船技師になるための修行の始まりだ。
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