眠り姫は夢の中

rui

文字の大きさ
上 下
19 / 40
運命の赤い糸

18

しおりを挟む
テスに連れられた広場は、大勢の人々で賑わっていた。
皆が皆、空を見上げている。

ジャックも空を見上げてみて、その目に映った光景に言葉を失った。

その目に映るのは……空を自在に飛び交う、箒に乗った男女だ。
箒の上に片足で立ってバランスをとったり、片手で捕まりポーズをとったり、ものすごいスピードで上昇してはクルクルと回転したりと、とにかく衝撃的な光景であった。

ここは、魔法の国。
そういえばそうだったな、と実感した。

「……魔法の力ってやつで飛んでるのか」

信じられない。

「えっとね……飛んでるのは、『浮遊石』の力」
「浮遊石?」

聞いたことがない。
聞き返すと、テスがくい、とジャックの手を引っ張る。

「いいものあげる。お城に行こ?」
「いいもの? あげるって……」

あげると言われても、ここは夢の中だ。
そんなことはテスもよく分かっているはず。
何を考えているのだろうか。


城の中の廊下を、二人は並んで歩く。

「そういえば……お前、お姫様だったな」
「うん。ひとり娘だから、いつか私がこの国の女王にならなきゃいけないの」
「……ならなきゃダメなのか」

まぁ、普通に考えたらそうだろう。
ジャックの住む地上の王家も、だいたいそんなものだ。
しかしジャックは、なんだか面白くない。

「そのためには、私は眠り続けるわけにはいかないんだ」

ポツリと、テスが呟いた。
どういう意味だろうか。

「眠り続ける?」
「ねぇ、ジャック。ジャックはいつか飛空船を造って、旅に出るんでしょ?」

ジャックの質問をスルーして、テスが見上げながら聞いてきた。

「あ? ああ……。そういえば、話してなかったな」
「なにを?」
「最近、街に不時着した飛空船技師のタックスっていう男がいて……飛空船の修理、手伝ってる」

ずっと話したかったことだ。

「そうなんだ! ねぇ、飛空船の修理、楽しい?」
「ああ」

即答してしまった。
すると、テスがクスクスと笑う。
何がおかしかったのか分からないジャックが、テスを見ていると、

「ジャック、楽しそうな顔してる」

そう、教えてくれた。
テスが隣で笑っていると、なんだか安心する。

「あ……着いた。ここね、浮遊石の倉庫」

部屋を開けて中に入ると、いくつものガラスのショーケースに入れられた、たくさんのフワフワと浮いた透明な石……浮遊石。
まるで宝石のように美しい。

「浮遊石は、大きければ大きいほど高く飛べるの。ほら、これとこれをくっつければ……」

ショーケースから、テスが手のひらサイズの浮遊石を二つ取り出す。
そして、二つをくっつけると、浮遊石は更に高く浮いた。

「おもしろいでしょ?」
「へぇ……」

実に、興味深い。
こんなもの、地上では見たことも聞いたこともない。

「……これ、飛空船に取り付けたら……燃料なくても飛べるってことか?」
「うん」
「この空の島国まで高く?」

ジャックのその問いに、テスはほんの少し目を潤ませる。

「……来れるとしたら、どうする?」
「そりゃあ……」

ジャックはまじまじとショーケースの中の浮遊石を見ながら、無意識に答えた。

「お前に会いにくる」
「っ、」
「そんで、飛空船に乗せて地上を見せてやる」

幼い頃の約束だ。

「なぁ、これ……地上にもあるのか?」

テスは、先程見せた浮遊石を手に取るなり、スッとジャックに差し出してきた。

「なんだ?」
「地上にはないと思う。だからこれ……あげる。ちょっと早いけど、誕生日プレゼント」
「……いや、ここ夢の中だろ」

もらったところで、夢から覚めたら意味がない。

しかしテスは、少し茶目っ気のある笑みを浮かべて、

「私もね、こう見えて魔法使いなんだよ? 楽しみにしてて、ね?」

そう言ったあと、ジッとジャックを見つめてきた。

どこか悲しげな表情で。
切ない表情で。

ジャックの胸が、締め付けられた気がした。

「……だから、時々でいいから、私のこと……思い出してほしい」
「どういう意味だ?」

ポロポロと、また涙が流れている。
なぜ、テスはこんなに泣くのだろう。

「私、もうジャックに会えない。会いたくない。
だから、昔の約束は忘れて?」
「……は?」

何を、言っているのだろうか。

「私、楽しかった。ジャックと出会えて、すごく嬉しかった」
「おい、」
「これ以上ジャックといると……辛いよ。だって、これ以上好きになっても、ジャックは私の運命の赤い糸の相手じゃないもの。だから、」

直感的に、別れの言葉なのだと、気づいた。

だから……

テスが続きを言うよりも先に、体が動いた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~

扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。 公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。 はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。 しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。 拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。 ▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ

処理中です...