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運命の赤い糸
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「え?
数百年前に使用されてた魔法陣がどうなってるかって? ……なんだいなんだい、みんな揃って」
クラスタの国王……つまりテスの父親が、デスクに山積みされた書類にハンコを押しながら。
テスと長老3人組の訪問に、不思議そうに首を傾げた。
「それがの、陛下。大魔女のもとで、姫様のお相手を見つけたのじゃが」
「どうやら地上の人間らしくてのぉ」
「困ったことに、今の時代、地上とクラスタは行き来できんのじゃ」
つまり、テスが18歳の眠りについたら最後。
二度と起きることができないかもしれない、ということだ。
テスに運命の赤い糸の相手に興味を持ってもらう。
それ以前の問題だと、長老たちは気づいた。
国王はえっ……と驚きの声を発した。
「テスの運命の赤い糸の相手って、どんな男だったんだい?」
いや、先に聞くべきことはそこじゃない。
「そりゃーもうイケメンでしたな」
「優しそうで……」
「賢そうですぞ」
長老たちはなぜか得意げだ。
なぜなのか。
「テスはどうだった? ビビっときたのかい?」
うんうん、と満足そうな父親に話を振られたが、テスはニコリと作り笑いを浮かべてひとこと。
「え? なにそれ?」
そう、棒読みで答えた。
それも仕方ないだろう。
茶髪の青年には、まったく興味がないのだから。
シーン、と静まり返る部屋。
沈黙を破ったのは、父親だ。
「えーと……いやまぁ、人は見た目で判断すべきじゃないしな、うん。
で、なんだっけ?」
本来の用件を忘れてしまったらしい。
「そうそう……魔法陣を使用したいのじゃ」
「地上と行き来できる唯一の扉じゃからの」
「今もまだ使用できるといいのじゃが」
長老たちの言葉を聞いて、父親はうーんと少し困ったような表情を浮かべる。
「困ったな……。地上への扉である魔法陣は、地上側の魔法陣に問題があるらしく、今は使用できないはずだよ」
「「「なんじゃと!?」」」
長老3人の声が気持ちいいくらい揃った。
「問題って、なに?」
テスはしょんぼりしながら、父親に問いかける。
現実のジャックに会いたかった。
お話してみたかった。
父親はイスから立ち上がり、天井近くまである本棚の一番てっぺんの棚から、魔法の力でふわりと一冊の本を取り出す。
それを手にして、パラパラと目的のページを探した。
「……うん、あったあった。
なんでも、地上の魔法陣側が損傷してるらしい」
「損傷?」
「ようは、図形や文字が欠けてるんだろう。魔法陣っていうのは、細かいところも正確でなければ意味がないから」
テスと長老たちは、ガックシと肩を落とす。
「ならば、ならばどうしたら良いのじゃ?」
「姫様を眠りから起こす者はおらぬということか?」
「そんなのあんまりじゃ!」
騒ぎ出す長老たちと、まあまあとなだめる父親。
「とにかく、何か方法を考えることにしようか。
テス、安心しなさい。テスのことは、私たちが必ず目覚めさせてみせるから。
私たちだけじゃない。国民も、みんなテスを想っているからね」
「……うん」
とても、深い愛情をもって育ててくれた父親の言葉に、テスはチクリと胸が痛んだ。
「とりあえずこの場はお開きとしよう」
トボトボと、自分の部屋に戻るために城の廊下を一人で歩いていると、
「テス、どうだった!? 運命の赤い糸の相手、どんな人だったの!?」
母親が後ろから楽しそうに声をかけてきた。
振り返ると、ニコニコしていた母親の表情が、次第に心配そうな表情へと変わる。
テスが、見るからにものすごく落ち込んでいるからだろう。
「あらあらあら……。どうしたの??」
「……お母様は、私が眠りから覚めなかったら、悲しい?」
当たり前だが、母親は間髪入れずに、
「当たり前でしょう?」
そう、答えた。
「ごめんね。私……自分の気持ちしか考えてなかったの」
「どうしたの?」
そう、自分のことしか考えていなかった。
どうして、周りのことを考えなかったのだろう。
『……ねぇ長老さま。私、好きな人ができたの』
『ほっほっほっ、姫様ももうそんな年になりましたかのー』
『その人が運命の赤い糸の相手じゃなかったら……ずーっと眠ったままがいい。ダメ?』
『そりゃーいかんでしょう。姫様が眠り続けることになりますと、ワシらは悲しいですぞ』
『うん、でも、やだ。好きじゃない人にキスされるなんて、絶対、やだ』
その時の気持ちに、代わりはない。
夢の中でいいから、ずっと彼のそばにいたい。
今でもそう思っているけれど。
そろそろ、大人にならなけらばならない、と気がついたのだった。
クラスタの後継者はひとり娘のテスだけ。
婚約者もいる、世界を旅するという夢を持つジャックとは、どう考えても--縁がない。
夢の中で一緒にいても、辛いのは自分だけ。
きっと、長老たちの言う通り、茶髪の青年と会えば気持ちが変わるのかもしれない。
……もう、ジャックへの気持ちは封印した方がいいのかもしれない。
数百年前に使用されてた魔法陣がどうなってるかって? ……なんだいなんだい、みんな揃って」
クラスタの国王……つまりテスの父親が、デスクに山積みされた書類にハンコを押しながら。
テスと長老3人組の訪問に、不思議そうに首を傾げた。
「それがの、陛下。大魔女のもとで、姫様のお相手を見つけたのじゃが」
「どうやら地上の人間らしくてのぉ」
「困ったことに、今の時代、地上とクラスタは行き来できんのじゃ」
つまり、テスが18歳の眠りについたら最後。
二度と起きることができないかもしれない、ということだ。
テスに運命の赤い糸の相手に興味を持ってもらう。
それ以前の問題だと、長老たちは気づいた。
国王はえっ……と驚きの声を発した。
「テスの運命の赤い糸の相手って、どんな男だったんだい?」
いや、先に聞くべきことはそこじゃない。
「そりゃーもうイケメンでしたな」
「優しそうで……」
「賢そうですぞ」
長老たちはなぜか得意げだ。
なぜなのか。
「テスはどうだった? ビビっときたのかい?」
うんうん、と満足そうな父親に話を振られたが、テスはニコリと作り笑いを浮かべてひとこと。
「え? なにそれ?」
そう、棒読みで答えた。
それも仕方ないだろう。
茶髪の青年には、まったく興味がないのだから。
シーン、と静まり返る部屋。
沈黙を破ったのは、父親だ。
「えーと……いやまぁ、人は見た目で判断すべきじゃないしな、うん。
で、なんだっけ?」
本来の用件を忘れてしまったらしい。
「そうそう……魔法陣を使用したいのじゃ」
「地上と行き来できる唯一の扉じゃからの」
「今もまだ使用できるといいのじゃが」
長老たちの言葉を聞いて、父親はうーんと少し困ったような表情を浮かべる。
「困ったな……。地上への扉である魔法陣は、地上側の魔法陣に問題があるらしく、今は使用できないはずだよ」
「「「なんじゃと!?」」」
長老3人の声が気持ちいいくらい揃った。
「問題って、なに?」
テスはしょんぼりしながら、父親に問いかける。
現実のジャックに会いたかった。
お話してみたかった。
父親はイスから立ち上がり、天井近くまである本棚の一番てっぺんの棚から、魔法の力でふわりと一冊の本を取り出す。
それを手にして、パラパラと目的のページを探した。
「……うん、あったあった。
なんでも、地上の魔法陣側が損傷してるらしい」
「損傷?」
「ようは、図形や文字が欠けてるんだろう。魔法陣っていうのは、細かいところも正確でなければ意味がないから」
テスと長老たちは、ガックシと肩を落とす。
「ならば、ならばどうしたら良いのじゃ?」
「姫様を眠りから起こす者はおらぬということか?」
「そんなのあんまりじゃ!」
騒ぎ出す長老たちと、まあまあとなだめる父親。
「とにかく、何か方法を考えることにしようか。
テス、安心しなさい。テスのことは、私たちが必ず目覚めさせてみせるから。
私たちだけじゃない。国民も、みんなテスを想っているからね」
「……うん」
とても、深い愛情をもって育ててくれた父親の言葉に、テスはチクリと胸が痛んだ。
「とりあえずこの場はお開きとしよう」
トボトボと、自分の部屋に戻るために城の廊下を一人で歩いていると、
「テス、どうだった!? 運命の赤い糸の相手、どんな人だったの!?」
母親が後ろから楽しそうに声をかけてきた。
振り返ると、ニコニコしていた母親の表情が、次第に心配そうな表情へと変わる。
テスが、見るからにものすごく落ち込んでいるからだろう。
「あらあらあら……。どうしたの??」
「……お母様は、私が眠りから覚めなかったら、悲しい?」
当たり前だが、母親は間髪入れずに、
「当たり前でしょう?」
そう、答えた。
「ごめんね。私……自分の気持ちしか考えてなかったの」
「どうしたの?」
そう、自分のことしか考えていなかった。
どうして、周りのことを考えなかったのだろう。
『……ねぇ長老さま。私、好きな人ができたの』
『ほっほっほっ、姫様ももうそんな年になりましたかのー』
『その人が運命の赤い糸の相手じゃなかったら……ずーっと眠ったままがいい。ダメ?』
『そりゃーいかんでしょう。姫様が眠り続けることになりますと、ワシらは悲しいですぞ』
『うん、でも、やだ。好きじゃない人にキスされるなんて、絶対、やだ』
その時の気持ちに、代わりはない。
夢の中でいいから、ずっと彼のそばにいたい。
今でもそう思っているけれど。
そろそろ、大人にならなけらばならない、と気がついたのだった。
クラスタの後継者はひとり娘のテスだけ。
婚約者もいる、世界を旅するという夢を持つジャックとは、どう考えても--縁がない。
夢の中で一緒にいても、辛いのは自分だけ。
きっと、長老たちの言う通り、茶髪の青年と会えば気持ちが変わるのかもしれない。
……もう、ジャックへの気持ちは封印した方がいいのかもしれない。
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