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緑の大地の野蛮な人間
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***
学校へ通って勉学に励むことは、いつか飛空船技師になるために必要なこと。
というわけで、ジャックはダルそうな授業態度とは裏腹に、しっかりと勉強はしている。
--ドン、と廊下を歩いていたらすれ違い様に男子生徒と肩がぶつかった。
わざとぶつかってきた、とすぐに分かって思わず眉間にしわを寄せる。
「なんだぁ? 先輩に向かってその生意気な顔は」
「お前が噂のジャックだな?」
「ちょっとツラ貸せや」
ガタイのいい上級生3人組が、ジャックの胸ぐらを掴んでニヤニヤしながら言う。
が、ジャックは特に動じることなく、その手を振り払う。
めんどくさい。
「はぁ? てめーふざけんな!」
「領主の息子だからってただじゃおかねーぞ!」
「痛い目にあいてーのか!?」
いや、すでにめんどくさい事になっているらしい。
ジャックが無言で3人組を睨むと、怯む男たち。
学校内で問題を起こすと、停学になることもある。
親もうるさいだろう。
だから、ジャックは相手にせずに無視して歩き出そうとしたのだが。
男たちは歩き出すジャックに苛立ち、突然殴りかかってきたのだった。
「おい、なめてんじゃねぇぞ!」
ガッ、と頬に痛みが走った。
離れたところで見ていたらしい、女子生徒の悲鳴が聞こえる。
どちらが先に手を出したのか、目撃者はいる。
ならば、
「……うぐ!」
基本的に、売られた喧嘩は買う。
やられっぱなしは癪だからだ。
ジャックは無言で、男の一人の腹に躊躇なく蹴りを入れた。
「て、てめぇ!」
「ボコボコにしてやる!」
残りの二人が掴みかかってくるが、ジャックは顔色ひとつ変えず。
……あっというまに、二人まとめて地面にひれ伏させたのであった。
「ジャック様、ジャック様ダメですって!」
「け、怪我……してます……」
騒ぎを聞きつけて駆けつけたジーグとミリアが、ジャックを強引に医務室へと連れて行こうとした時。
3人組から聞こえてきたのは、
「ちくしょお……」
「なんでそんなやつと……」
「可愛い……ミリアちゃん……」
なぜか、ミリアの名前だった。
ジャックが不可解だ、と言わんばかりの表情で男たちを見ると、ジーグがニコニコしながら説明をしてきた。
「ああ。彼らはミリア様のファンクラブ会員らしいですよ。だから婚約者のジャック様にいちゃもんを」
……なるほど。
よく分からない。
ミリアを見下ろしてみれば、彼女はオロオロしながら自分のハンカチでジャックの口もとの血を拭おうとしてた。
「いい」
ジャックは顔を背け、何事もなかったかのように歩き廊下を出す。
大した傷ではない。
何より、人に触れられるのは好きじゃない。
***
「痛そう……。もしかして、喧嘩した?」
「向こうが吹っかけてきた」
夢の中。
草原に並んで座り、ジャックの口もとにソッと優しく触れるのは、テスだ。
夢の中でまで怪我の痛みがあるなんて、なんだか変な感じがする。
「ねぇねぇ、喧嘩は勝った?」
なぜかわくわくしてるテスに、ああ、と当たり前に返事をしたら、
「ジャック、強いんだね!」
説教するわけでもなく。
テスは、どこか楽しそうにそう口にした。
「でも、どうして喧嘩、ふっかけられたの?」
「ミリアの婚約者だから、らしい」
聞かれたから答えた。
それだけなのだが。
…………。
…………。
テスから、何も返事がない。
ふと隣のテスへ視線をやると、どこか作り笑いを浮かべて、
「ミリアさん、って言うんだ」
そうポツリとつぶやくだけだった。
一体、なんなのだろう。
二人の間に沈黙が流れた。
…………。
別に、誰かと話すのは好きじゃない。
めんどくさい。
いつもなら気にもしない沈黙なのだが。
「お前、なに怒ってるんだ?」
気になった。
いつもの笑顔とは違う、なんだか距離を置かれたような、そんな作り笑いが。
不機嫌そうな、雰囲気が。
だから、だ。
だから、 沈黙を破った。
「……怒ってないよ? けど、」
テスがジャックを潤んだ瞳で見上げてきた。
宝石のような緑色の瞳で。
「いいなぁーって」
どこか寂しげに笑ったように見えた。
「……あっ、雨?」
ポツポツと、空から降り出す雨。
ここは夢の中なので、別に風邪をひいたりしないのだろうけれど。
ジャックは立ち上がり、テスの手をとった。
「雨宿りするぞ」
「う、うん」
手を握り合って、雨宿りできそうな場所を探しにしばらく走ると、大きな木を発見できた。
ここならば、雨宿りできるだろう。
はぁはぁ、と息を切らすテスだが、先ほどよりもずいぶんと楽しそうだ。
「夢の中なのに、雨宿りする意味ってあるのかな?」
「……さぁ」
「良かったね。雷、鳴ってない」
「…………」
以前の失態を思い出し、なんとも言えない。
「雨、やまないね」
二人並んで空を見上げてみれば、雨はまだやみそうにない。
しばらくはこのままだろう。
……繋いだ手を離すタイミングを、失ってしまった気がする。
だが、まぁ別にいいか、とも思った。
学校へ通って勉学に励むことは、いつか飛空船技師になるために必要なこと。
というわけで、ジャックはダルそうな授業態度とは裏腹に、しっかりと勉強はしている。
--ドン、と廊下を歩いていたらすれ違い様に男子生徒と肩がぶつかった。
わざとぶつかってきた、とすぐに分かって思わず眉間にしわを寄せる。
「なんだぁ? 先輩に向かってその生意気な顔は」
「お前が噂のジャックだな?」
「ちょっとツラ貸せや」
ガタイのいい上級生3人組が、ジャックの胸ぐらを掴んでニヤニヤしながら言う。
が、ジャックは特に動じることなく、その手を振り払う。
めんどくさい。
「はぁ? てめーふざけんな!」
「領主の息子だからってただじゃおかねーぞ!」
「痛い目にあいてーのか!?」
いや、すでにめんどくさい事になっているらしい。
ジャックが無言で3人組を睨むと、怯む男たち。
学校内で問題を起こすと、停学になることもある。
親もうるさいだろう。
だから、ジャックは相手にせずに無視して歩き出そうとしたのだが。
男たちは歩き出すジャックに苛立ち、突然殴りかかってきたのだった。
「おい、なめてんじゃねぇぞ!」
ガッ、と頬に痛みが走った。
離れたところで見ていたらしい、女子生徒の悲鳴が聞こえる。
どちらが先に手を出したのか、目撃者はいる。
ならば、
「……うぐ!」
基本的に、売られた喧嘩は買う。
やられっぱなしは癪だからだ。
ジャックは無言で、男の一人の腹に躊躇なく蹴りを入れた。
「て、てめぇ!」
「ボコボコにしてやる!」
残りの二人が掴みかかってくるが、ジャックは顔色ひとつ変えず。
……あっというまに、二人まとめて地面にひれ伏させたのであった。
「ジャック様、ジャック様ダメですって!」
「け、怪我……してます……」
騒ぎを聞きつけて駆けつけたジーグとミリアが、ジャックを強引に医務室へと連れて行こうとした時。
3人組から聞こえてきたのは、
「ちくしょお……」
「なんでそんなやつと……」
「可愛い……ミリアちゃん……」
なぜか、ミリアの名前だった。
ジャックが不可解だ、と言わんばかりの表情で男たちを見ると、ジーグがニコニコしながら説明をしてきた。
「ああ。彼らはミリア様のファンクラブ会員らしいですよ。だから婚約者のジャック様にいちゃもんを」
……なるほど。
よく分からない。
ミリアを見下ろしてみれば、彼女はオロオロしながら自分のハンカチでジャックの口もとの血を拭おうとしてた。
「いい」
ジャックは顔を背け、何事もなかったかのように歩き廊下を出す。
大した傷ではない。
何より、人に触れられるのは好きじゃない。
***
「痛そう……。もしかして、喧嘩した?」
「向こうが吹っかけてきた」
夢の中。
草原に並んで座り、ジャックの口もとにソッと優しく触れるのは、テスだ。
夢の中でまで怪我の痛みがあるなんて、なんだか変な感じがする。
「ねぇねぇ、喧嘩は勝った?」
なぜかわくわくしてるテスに、ああ、と当たり前に返事をしたら、
「ジャック、強いんだね!」
説教するわけでもなく。
テスは、どこか楽しそうにそう口にした。
「でも、どうして喧嘩、ふっかけられたの?」
「ミリアの婚約者だから、らしい」
聞かれたから答えた。
それだけなのだが。
…………。
…………。
テスから、何も返事がない。
ふと隣のテスへ視線をやると、どこか作り笑いを浮かべて、
「ミリアさん、って言うんだ」
そうポツリとつぶやくだけだった。
一体、なんなのだろう。
二人の間に沈黙が流れた。
…………。
別に、誰かと話すのは好きじゃない。
めんどくさい。
いつもなら気にもしない沈黙なのだが。
「お前、なに怒ってるんだ?」
気になった。
いつもの笑顔とは違う、なんだか距離を置かれたような、そんな作り笑いが。
不機嫌そうな、雰囲気が。
だから、だ。
だから、 沈黙を破った。
「……怒ってないよ? けど、」
テスがジャックを潤んだ瞳で見上げてきた。
宝石のような緑色の瞳で。
「いいなぁーって」
どこか寂しげに笑ったように見えた。
「……あっ、雨?」
ポツポツと、空から降り出す雨。
ここは夢の中なので、別に風邪をひいたりしないのだろうけれど。
ジャックは立ち上がり、テスの手をとった。
「雨宿りするぞ」
「う、うん」
手を握り合って、雨宿りできそうな場所を探しにしばらく走ると、大きな木を発見できた。
ここならば、雨宿りできるだろう。
はぁはぁ、と息を切らすテスだが、先ほどよりもずいぶんと楽しそうだ。
「夢の中なのに、雨宿りする意味ってあるのかな?」
「……さぁ」
「良かったね。雷、鳴ってない」
「…………」
以前の失態を思い出し、なんとも言えない。
「雨、やまないね」
二人並んで空を見上げてみれば、雨はまだやみそうにない。
しばらくはこのままだろう。
……繋いだ手を離すタイミングを、失ってしまった気がする。
だが、まぁ別にいいか、とも思った。
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