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緑の大地の野蛮な人間
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ザアザアと降りしきる雨の中、テスは傘もささずにキョロキョロとしながら歩き回っていた。
ここは夢の中だ。
どこかにジャックがいるかもしれない。
それなのに、ジャックの姿はどこにも見当たらないことに、なんだか不安を覚えた。
「や、やっぱり勝手にキスしたこと、怒ってる?」
だから、テスの前に姿を現さないのだろうか。
その考えに行き着くと、テスは立ち止まってサーッと真っ青になった。
緑色の瞳がうるうるし出す。
「どうしようー!」
こんなはずじゃなかったのに。
テスが一人ショックを受けていると、グイ、と腕を引かれた。
涙目で振り向くと、腕を引いた人物は、
「おい……風邪ひくぞ」
どこか顔色の悪いジャックだった。
「ジャック! ……どうしたの? 大丈夫?」
もう会ってくれないのかと思った。
テスは嬉しくて笑顔を浮かべるが、なんだかジャックの様子がおかしいことにすぐに気がついた。
テスの腕を掴むその手が、少しだけ震えているように感じる。
「いや……」
--ピカッと光る空に、ゴロゴロと鳴る雲。
「そういえば……この天気、ジャックがイメージしてる?」
「……かもな」
ジャックのイメージが強すぎるらしい。
どうも、この天気が変わる様子はない。
再び、ピカッと光る空。
そして、次第に近づく不穏な音。
「…………」
ジャックが固まっている。
珍しい。
「……雷、怖い?」
ひょいと、うつむくジャックの顔を覗き込んで聞いてみる。
すると、目をそらされた。
「別に……」
と、ジャックが口にした瞬間。
--ピカッ、と空が光ったと同時に、バリバリッと大きな音が鳴り響いた。
地面が、ビリビリと揺れる。
「ッ、」
テスが驚いたのは、雷が近くに落ちたから、という理由だけではない。
「……だ、大丈夫だよ、ジャック……」
「…………」
ジャックに、抱きしめられたからだ。
小さく震えてる。
こんなジャックは、初めて見た。
いつも無愛想で、取り乱すことなどなさそうなジャックが……雷に震えてる。
意外すぎる一面を見て、テスはきゅう、と胸が締め付けられた。
「私がいるから、大丈夫。ねっ?」
彼の婚約者も、ジャックのこんな一面を知ってるのだろうか。
知らないといいな、と思う。
ジャックの広い背中に、生まれてはじめて手を回してみる。
思っていた以上にたくましい体に、テスは耳まで真っ赤に染まってしまうのを感じた。
その広い背中を優しく撫でると、ジャックの震えが止まった気がする。
「……こーしてたら、怖くない?」
「……そうだな」
耳元で囁くように返事をする、低い男の声。
そういえば、いつのまにか声変わりをしていたことに、今更気がついた。
すっかり、少年ではなく青年に成長していた。
テスはゆっくりと目を閉じて、ギュウ、とジャックの体をずっと、ずっと抱きしめる。
あったかくて、とても満たされた気分だ。
幸せを感じた。
いつのまにか雨はやみ、雷もどこかへと消え去っており、空は晴れ渡っていた。
ザアザアと降りしきる雨の中、テスは傘もささずにキョロキョロとしながら歩き回っていた。
ここは夢の中だ。
どこかにジャックがいるかもしれない。
それなのに、ジャックの姿はどこにも見当たらないことに、なんだか不安を覚えた。
「や、やっぱり勝手にキスしたこと、怒ってる?」
だから、テスの前に姿を現さないのだろうか。
その考えに行き着くと、テスは立ち止まってサーッと真っ青になった。
緑色の瞳がうるうるし出す。
「どうしようー!」
こんなはずじゃなかったのに。
テスが一人ショックを受けていると、グイ、と腕を引かれた。
涙目で振り向くと、腕を引いた人物は、
「おい……風邪ひくぞ」
どこか顔色の悪いジャックだった。
「ジャック! ……どうしたの? 大丈夫?」
もう会ってくれないのかと思った。
テスは嬉しくて笑顔を浮かべるが、なんだかジャックの様子がおかしいことにすぐに気がついた。
テスの腕を掴むその手が、少しだけ震えているように感じる。
「いや……」
--ピカッと光る空に、ゴロゴロと鳴る雲。
「そういえば……この天気、ジャックがイメージしてる?」
「……かもな」
ジャックのイメージが強すぎるらしい。
どうも、この天気が変わる様子はない。
再び、ピカッと光る空。
そして、次第に近づく不穏な音。
「…………」
ジャックが固まっている。
珍しい。
「……雷、怖い?」
ひょいと、うつむくジャックの顔を覗き込んで聞いてみる。
すると、目をそらされた。
「別に……」
と、ジャックが口にした瞬間。
--ピカッ、と空が光ったと同時に、バリバリッと大きな音が鳴り響いた。
地面が、ビリビリと揺れる。
「ッ、」
テスが驚いたのは、雷が近くに落ちたから、という理由だけではない。
「……だ、大丈夫だよ、ジャック……」
「…………」
ジャックに、抱きしめられたからだ。
小さく震えてる。
こんなジャックは、初めて見た。
いつも無愛想で、取り乱すことなどなさそうなジャックが……雷に震えてる。
意外すぎる一面を見て、テスはきゅう、と胸が締め付けられた。
「私がいるから、大丈夫。ねっ?」
彼の婚約者も、ジャックのこんな一面を知ってるのだろうか。
知らないといいな、と思う。
ジャックの広い背中に、生まれてはじめて手を回してみる。
思っていた以上にたくましい体に、テスは耳まで真っ赤に染まってしまうのを感じた。
その広い背中を優しく撫でると、ジャックの震えが止まった気がする。
「……こーしてたら、怖くない?」
「……そうだな」
耳元で囁くように返事をする、低い男の声。
そういえば、いつのまにか声変わりをしていたことに、今更気がついた。
すっかり、少年ではなく青年に成長していた。
テスはゆっくりと目を閉じて、ギュウ、とジャックの体をずっと、ずっと抱きしめる。
あったかくて、とても満たされた気分だ。
幸せを感じた。
いつのまにか雨はやみ、雷もどこかへと消え去っており、空は晴れ渡っていた。
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