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魔法の国のお姫様
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月日が経つのはあっという間で……
テスは7歳になった。
人形のように可愛らしく、元気いっぱい、健康そのもの。
父親に似たのか、少々自由な性格だ。
「ねぇねぇ。私ね、最近夢を見るの」
「ふふふ、どんな夢かしら?」
ふかふかのベッドの中で母親におとぎ話を読んでもらっていると、ふと思い出したようにテスが話し出した。
頬を赤く染め、目をキラキラと輝かせながら。
「あのね……みんなには内緒ね? いっつも同じ男の子が出てきてお話してるんだよ」
「まぁまぁまぁ……!」
これは、もしや--運命の赤い糸の相手では?
母親は途端にテス以上に目をキラキラと輝かせる。
なんたって、かわいいかわいい愛娘の、将来の旦那様&義理の息子なのかもしれないのだ。
「その子はどんな子なの? イケメン? 優しい? それとも面白い??」
「んー……それがね、いっつもこんな風にね、ムスーってしてて……」
眉間にシワを寄せる。
怒っているようだ。
「『ああ』とか『ふーん』とかしか言わなくて……」
……夢の中の少年は、ずいぶん塩対応らしい。
にも関わらず、テスは楽しそうに話しているので、きっと、悪い少年ではないのだろう、たぶん。
と、母親が微笑ましく話を聞いていると、テスがうとうとしだした。
もう眠る時間だ。
「でもね……最近は、……のこと……教えてくれるように、なっ……」
「あらあらあら。もう眠そうねぇ。それじゃあおやすみなさい、テス」
「おやすみなさーい……」
母親が部屋の明かりを消して、部屋を出る音を聞きながら、テスはぼんやりと願った。
今夜もまた、あの男の子--ジャックに会いたいな、と。
***
ふわふわ。
ふわふわ。
10歳になったテスは、いつもの不思議な感覚に目をゆっくりと開けてみる。
その目に映るのは--どこまでも続く、美しい大草原だ。
心地よい風は、とても現実的だ。
けれど、テスにはここが『夢の中』なのだと、ちゃんと分かっていた。
いつものこと、だからだ。
この場所でいつも会えるから、きっと今日も彼に会えるかもしれない。
テスが彼を探しに行こうと、歩き出そうとした時だ。
「……なんだ、またお前か」
すでに先客がいたらしい。
背後から聞き慣れたダルそうな声が聞こえてきて、テスはパァ、と嬉しそうに振り返る。
すると、草原に寝転がっていた少年と、目があった。
--年はテスと同じ年くらい。
少々目つきは悪いが、よく見ると目鼻立ちのハッキリした整った顔。
なでなでしてみたくなる、柔らかそうな黒く短い髪の毛。
……人を寄せ付けない雰囲気。
そんな少年に、テスは満面の笑みを浮かべて駆け寄った。
そして、
「ジャック!」
嬉しそうに、少年--ジャックの名前を口にする。
いつからか覚えていない。
気がついたら、夢の中でジャックと会うようになった。
気がついたら、彼に会うのがとても楽しみになっていた。
「なぁ……お前、なんでいっつもオレの夢に出てくるんだ?」
「んー……どうしてだろね?」
分かんない、と首をかしげるテスに、ジャックは体を起こしながらあくびをする。
ジャックもまた、ここが夢の中の世界だと認識しているようだ。
ということは、ジャックはテスの夢の中の住人という訳ではないのかもしれない。
テスと同じように、どこかで現実の世界に生きているのだろうか。
……だとしたら、いつか現実の世界でも会えるのだろうか。
最近、そんなことをよく考えるようになった。
「ねぇねぇ! 今日も地上の景色、何か見せて!」
目をキラキラと輝かせながら、お願いお願いと催促するテスに、ジャックはめんどくさそうに無言で空を見上げる。
それにつられて、テスも空を見上げてみると。
「……うわぁ……! あれ、なに? 何か飛んでる!」
大きな物体が、空を飛んでいるではないか。
あんなもの、魔法の国クラスタでは見たこともない。
空を飛ぶものといえば、鳥か箒に乗った魔女くらいだ。
はしゃぐテスに、
「飛空船」
一言、そう教えてくれるジャック。
聞きなれない言葉だ。
「ひくーせん?」
「空を飛ぶ船だ」
「どうやって飛ぶの? 魔法?」
「地上に魔法なんてねーよ。……なんで飛ぶかはオレもよく分かんねーけど」
「けど?」
テスはジャックの隣に座って、わくわくしながら話を促すと、
「……いつかあれを自分の手で造って、世界を旅するのが俺の夢だ」
ポツリと、飛空船を見上げながら、そう教えてくれたのだった。
自分のことはいつもあまり話さない、不思議な地上の少年ジャックの夢を聞いて、テスはすごく嬉しくなった。
「……応援する。私、ジャックの夢を応援する。頑張ってね!」
笑顔でそう話すテスを見て、ジャックは「ああ」とだけ返事をすると、少し間をおいてから、
「……お前の夢は?」
そう、聞いてきた。
彼がテスの事を聞いてくるなんて、滅多にない。
なんだか分からないが、嬉しくてたまらなかった。
しかし、
「んー……夢?」
思わず悩んでしまう。
テスには、夢がないのだ。
ないというか、まだ考えたことがなかった。
けれど。
「……私も乗ってみたいなぁー、飛空船。それに、いつか地上に行ってみたいかも!」
ジャックと出会ってから、地上の話や景色をたくさん見せてもらってきた。
空に浮かぶクラスタにいたら見れないようなものを、たくさん。
テスは、地上のことに興味津々なのだ。
……とはいえ、クラスタと地上を行き来する方法などテスには分からないので、無理なのかもしれないが。
「ふーん……。なら、乗せてやる」
「えっ?」
「俺の飛空船に、いつか乗せてやる」
当たり前のように話すジャックに、テスは嬉しくてたまらなくて、満面の笑みを向けた。
「ありがとう!」
テスは7歳になった。
人形のように可愛らしく、元気いっぱい、健康そのもの。
父親に似たのか、少々自由な性格だ。
「ねぇねぇ。私ね、最近夢を見るの」
「ふふふ、どんな夢かしら?」
ふかふかのベッドの中で母親におとぎ話を読んでもらっていると、ふと思い出したようにテスが話し出した。
頬を赤く染め、目をキラキラと輝かせながら。
「あのね……みんなには内緒ね? いっつも同じ男の子が出てきてお話してるんだよ」
「まぁまぁまぁ……!」
これは、もしや--運命の赤い糸の相手では?
母親は途端にテス以上に目をキラキラと輝かせる。
なんたって、かわいいかわいい愛娘の、将来の旦那様&義理の息子なのかもしれないのだ。
「その子はどんな子なの? イケメン? 優しい? それとも面白い??」
「んー……それがね、いっつもこんな風にね、ムスーってしてて……」
眉間にシワを寄せる。
怒っているようだ。
「『ああ』とか『ふーん』とかしか言わなくて……」
……夢の中の少年は、ずいぶん塩対応らしい。
にも関わらず、テスは楽しそうに話しているので、きっと、悪い少年ではないのだろう、たぶん。
と、母親が微笑ましく話を聞いていると、テスがうとうとしだした。
もう眠る時間だ。
「でもね……最近は、……のこと……教えてくれるように、なっ……」
「あらあらあら。もう眠そうねぇ。それじゃあおやすみなさい、テス」
「おやすみなさーい……」
母親が部屋の明かりを消して、部屋を出る音を聞きながら、テスはぼんやりと願った。
今夜もまた、あの男の子--ジャックに会いたいな、と。
***
ふわふわ。
ふわふわ。
10歳になったテスは、いつもの不思議な感覚に目をゆっくりと開けてみる。
その目に映るのは--どこまでも続く、美しい大草原だ。
心地よい風は、とても現実的だ。
けれど、テスにはここが『夢の中』なのだと、ちゃんと分かっていた。
いつものこと、だからだ。
この場所でいつも会えるから、きっと今日も彼に会えるかもしれない。
テスが彼を探しに行こうと、歩き出そうとした時だ。
「……なんだ、またお前か」
すでに先客がいたらしい。
背後から聞き慣れたダルそうな声が聞こえてきて、テスはパァ、と嬉しそうに振り返る。
すると、草原に寝転がっていた少年と、目があった。
--年はテスと同じ年くらい。
少々目つきは悪いが、よく見ると目鼻立ちのハッキリした整った顔。
なでなでしてみたくなる、柔らかそうな黒く短い髪の毛。
……人を寄せ付けない雰囲気。
そんな少年に、テスは満面の笑みを浮かべて駆け寄った。
そして、
「ジャック!」
嬉しそうに、少年--ジャックの名前を口にする。
いつからか覚えていない。
気がついたら、夢の中でジャックと会うようになった。
気がついたら、彼に会うのがとても楽しみになっていた。
「なぁ……お前、なんでいっつもオレの夢に出てくるんだ?」
「んー……どうしてだろね?」
分かんない、と首をかしげるテスに、ジャックは体を起こしながらあくびをする。
ジャックもまた、ここが夢の中の世界だと認識しているようだ。
ということは、ジャックはテスの夢の中の住人という訳ではないのかもしれない。
テスと同じように、どこかで現実の世界に生きているのだろうか。
……だとしたら、いつか現実の世界でも会えるのだろうか。
最近、そんなことをよく考えるようになった。
「ねぇねぇ! 今日も地上の景色、何か見せて!」
目をキラキラと輝かせながら、お願いお願いと催促するテスに、ジャックはめんどくさそうに無言で空を見上げる。
それにつられて、テスも空を見上げてみると。
「……うわぁ……! あれ、なに? 何か飛んでる!」
大きな物体が、空を飛んでいるではないか。
あんなもの、魔法の国クラスタでは見たこともない。
空を飛ぶものといえば、鳥か箒に乗った魔女くらいだ。
はしゃぐテスに、
「飛空船」
一言、そう教えてくれるジャック。
聞きなれない言葉だ。
「ひくーせん?」
「空を飛ぶ船だ」
「どうやって飛ぶの? 魔法?」
「地上に魔法なんてねーよ。……なんで飛ぶかはオレもよく分かんねーけど」
「けど?」
テスはジャックの隣に座って、わくわくしながら話を促すと、
「……いつかあれを自分の手で造って、世界を旅するのが俺の夢だ」
ポツリと、飛空船を見上げながら、そう教えてくれたのだった。
自分のことはいつもあまり話さない、不思議な地上の少年ジャックの夢を聞いて、テスはすごく嬉しくなった。
「……応援する。私、ジャックの夢を応援する。頑張ってね!」
笑顔でそう話すテスを見て、ジャックは「ああ」とだけ返事をすると、少し間をおいてから、
「……お前の夢は?」
そう、聞いてきた。
彼がテスの事を聞いてくるなんて、滅多にない。
なんだか分からないが、嬉しくてたまらなかった。
しかし、
「んー……夢?」
思わず悩んでしまう。
テスには、夢がないのだ。
ないというか、まだ考えたことがなかった。
けれど。
「……私も乗ってみたいなぁー、飛空船。それに、いつか地上に行ってみたいかも!」
ジャックと出会ってから、地上の話や景色をたくさん見せてもらってきた。
空に浮かぶクラスタにいたら見れないようなものを、たくさん。
テスは、地上のことに興味津々なのだ。
……とはいえ、クラスタと地上を行き来する方法などテスには分からないので、無理なのかもしれないが。
「ふーん……。なら、乗せてやる」
「えっ?」
「俺の飛空船に、いつか乗せてやる」
当たり前のように話すジャックに、テスは嬉しくてたまらなくて、満面の笑みを向けた。
「ありがとう!」
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