永遠の誓い

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番外編

過去の記憶4

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***


それから……
青年とともに旅するようになって、数ヶ月が経ちました。

ハンターである青年は
町の者からは歓迎され、魔物を狩れば感謝され、報酬もたくさん差し出されます。

しかし、差し出された報酬のほとんどを受け取りません。
“困ってる人を放っておけないだけだから”という、それだけの理由で。


「……もらえるもんはもらっときゃいいのに、あんた、ほんと変わってんな」


次の町に向かう、道の途中で
シェイドがポツリと、呆れたように言いました。

数ヶ月ともに旅をしていますが、いまだに理解できないのです。

ハンターになれるのは、ごく一握りの強者だけ。
そのほとんどの者は、命がけで魔物を狩る代わりに、多額の報酬を受け取ります。

なのにこの青年は、見ず知らずの町のために、見返りもなく命をはっているのです。
それに、


「お人好しすぎんだろ。……オレみたいなガキの面倒、いつまで見る気だ?」


自分で言うのも何ですが、ずっと不思議でならなかったのです。

青年はこの数ヶ月、シェイドを一度たりとも見捨てはしませんでした。
足手まといなはずなのに。
それどころか、戦い方、身の守り方……生きる術を叩き込んでくれるのです。


「……あの人が、見つかるまで」
「は?」


シェイドの話を聞いていないのか、青年は立ち止まり、ポツリと口を開きます。
そして振り返り、ニコリと笑みを浮かべました。


「シェイド、人を探してるんだろ? きっと、必ず見つかるよ」
「……どうだか」


探し人がいるということは、話したことがありました。
しかしまさか、それが夢に出てくる女性だとは……口が裂けても言えません。

シェイドが肩をすくめてみせると、


「ボクが必ず、連れていくから」


何故か青年が、真剣な表情でそう約束してくれました。


「……お人好しにも程があんだろ」


シェイドは思わず、ぷっと吹き出してしまいました。
……その時です。


ーーザッ……


二人の前に、魔物が立ちふさがりました。

大きさは、青年の倍以上でしょうか。
全身を黒い体毛で覆われ、頭部からは角が生えており
飢えているのか、とても殺気だっている様子で二人を見ています。


「……おい、ヤバくねぇか?」
「……そうだね」


二人がそう言うのも、仕方のないことでしょう。

なぜなら
立ちふさがる魔物の仲間数体が、いつの間にかシェイドたちを囲んでいたのです。


「シェイド……ボクが道を作るから、その隙に全速力で走って」


いつも冷静な青年ですが、さすがに動揺を隠せないようです。
鞘から剣を出して構えながら、シェイドに逃げるよう指示しました。


「は? ……いくらあんたでも、この数は無理だろ。オレもやる」


まだまだ青年には遠く及びません。
しかし、青年を置いて逃げることなど、シェイドにはできなかったのです。

青年は、命の恩人。
それに
彼を見捨てれば、きっと……彼女は泣くのでしょう。

……漠然とですが、そんな気がするのです。


「ダメだシェイド、キミは……」


青年が何かを言おうとした瞬間。
魔物が一斉に、襲いかかってきました。


「……ッ、」


……青年の言う通り
逃げていれば、良かったのかもしれません。

かろうじて、全ての魔物を倒した後。
シェイドの目に映るのは、血まみれで倒れる、青年の姿でした。


「……大丈夫、か? シェイド……」


うつろな目をしながらも、青年はただ、シェイドの身を案じます。
そんな青年に駆け寄り、シェイドは歯を食いしばりながら問いました。


「なんで、なんでオレを庇ったりしたんだよ」


戦いの最中
シェイドを庇ったため、青年は魔物に致命的なダメージをくらったのです。

シェイドには全く理解できず、困惑しました。
“お人好し”という言葉では、済まされないのです。


「……西の果ての、島……」


青年は青い顔で笑みを浮かべると、ポツリと口を開きます。


「西の……果て?」
「彼女は……きっと、必ず……島の近くにいるから、」
「さっきから何言って……」
「絶対……探し出して、ほしいんだ……」


そこまで話すと
青年はスッと、目を閉じました。


***


「……どうしたの? シェイド……」


目を覚ますと
シェイドを心配そうに見下ろす、彼女の姿が映ります。

ふわふわとした長い髪の、美しい女性……ジルの姿が。

シェイドはジルの長い髪に、ソッと触れました。


「……そういや、お前と会ってから……前世の夢、見なくなった」
「そうなの?」


むくりと起き上がり
シェイドはジルの華奢な体を、強く抱きしめました。

突然の抱擁に驚いたのか、それとも慣れてないからか、ジルはビクリと体をこわばらせます。
しかしシェイドの背中に手を回すと、ちゃんと抱きしめ返してくれました。


「……シェイド、好きよ」
「……あぁ」


あれから……
青年と別れてから、もう十年近くが経ちます。

西の果ての島……。
そこは、シェイドがめざしていた島だったのです。

西の大地は特に魔物が多く、しかも凶暴。

鍛えられたとはいえ、十五歳にも満たないシェイド一人では、なかなか足を踏み入れることができませんでした。
強くなるために魔物を相手に日夜戦い、島を探し回り、気づけばハンターの称号を手に入れ……
ついに、目的の島を見つけたのです。

そして青年の言う通り、この港町でジルを……いつも夢に見ていた彼女を見つけました。

彼は、一体何者だったのでしょうか。
何故、ジルとのことを知っていたのでしょうか。


「……そろそろ、この町を出るから準備しろ」
「え……?」


ポツリとシェイドが提案すると、ジルは困惑した表情を浮かべます。
きっと、この港町にずっといたいのでしょう。

そんなジルに、シェイドは青年のことを話すことにしました。


「オレがここにたどり着けたのは、お人好しな男がいたからだ」
「……?」


キョトンとするジルに構わず、シェイドは少し懐かしく思いながら続けます。


「あいつがいなかったら、今頃野たれ死んでたな……。その男は、お前のことを必ず探せって、言ってた」
「私を……?」
「この町へは、また帰ってくる。

その男……ハクに、お前をちゃんと見つけたこと……報告しときてぇから」


あの時
シェイドが気を失った青年を急いで近くの町に連れていったため、一命は取り留めました。

しかし、目を覚まさなかったのです。

医者は、二度と目を覚まさないかもしれないし、明日にでも目を覚ますかもしれないと言っていました。

恩人である青年を、目覚めるまで看病することも考えはしました。
しかし、


『絶対……探し出して、ほしいんだ……』


最後に言った青年の言葉を思い出し、一人旅に出ることにしました。
青年が、それを望んでいるような気がしたのです。


「……な、なんだよ」


青年のことを考えていたシェイドは、ようやく気づきます。
ジルが、ポロポロと涙を流していることに。


「……人間に生まれ変わったのね。あの子は、ハクは元気?」
「知ってんのか?」


シェイドの問いに、ジルは嬉しそうな笑みを浮かべました。


「会いたいわ」


その笑みに……
シェイドは、自分の胸が高鳴るのを嫌でも感じます。




誰も
誰も自分を必要としませんでした。

けれど、ジルと心通わせることができて、気づいたことがあります。

エドにマシューにローズ。
彼らは確かに、仲間でした。

しかし、一度たりとも、シェイドは彼らに心を開いたことはありませんでした。
彼らを心のどこかで、拒絶していたのです。
そんな自分が裏切られたのは、仕方のなかったことかもしれないと……今は思います。


「……じゃ、メシ食ってから出発だな。なんか、目を覚ましてる気がする」
「?」



--誰も
誰も必要ともしませんでした。

しかし、それは違ったのかもしれません。

ほんの数ヶ月の旅でしたが
確かにシェイドは、青年を必要としていました。
それを認めたら、自分が強くなれないような……そんな気がしたのです。

けれど
もう大丈夫だと、シェイドには分かっています。

すべてを愛してくれる女性を
自分の居場所を、ようやく手に入れたからです。


「……ん……」


シェイドはジルに、触れるだけの口づけを落としました。


“愛してる”


そう、心の中でささやきながら。







end
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