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33星森
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ヴァスコーネス王国からの支援物資を運ぶ使者として、マティアスとサキは結局毎日北の新しい国という名の集落へと足を運んだ。人手はあっても材料が足りなかった狼人タルブたちはサキたちの来訪を喜び、作業は一気にはかどっていった。
潤沢な物資を前にしてこの分なら冬も越せそうだと、狼人タルブがエーヴェルト宛ての親書をしたためている。
狼人タルブがこの新しい国の王になるのかとサキが尋ねると、とんでもないと笑われた。王に相応しい獣人がいれば国のことは頼みたいが、取り急ぎの案件は誰かが引き受けなくてはならないからやっているまでと言う。
星の森に戻らないムスタを王に仕立てる予定でいたのだが、番がサキじゃ向こうへ行くのも仕方ねぇかと苦笑いをされた。
マティアスやサキがいなくても転移で行き来できるように、中間地点に魔法陣を設置する案が進められている。優秀な高位魔法師たちが開発に当たっているから、雪解けの頃には形になっているかもしれない。
もちろん氷城のあった場所へも毎日確認へ行き、辺りの状態を確かめている。
「父さん、ムスタ師匠は今後どこへ住むようになるの?」
「以前の館でも構わぬとエーヴェルトは言っていたが、うちで一緒に住めばどうだ?」
「えっ、いいの?」
「私は構わない、ムスタさえ良ければ聞いてみるといい」
「ありがとう、父さん。大好き!」
久しくなかったサキからの飛びつきを受け止め、マティアスは片頬を上げた。ムスタと想いを繋げたサキは最近では花畑へ行かずとも魔力が安定しているのが分かる。サキはどう見ても幸せに輝かんばかりであるし、双方にとって良い影響を与え合っているのならばマティアスに否やはない。
10日後そろそろ大丈夫だろうとマティアスが判断し、ムスタが外へと出られることとなった。カティの料理は美味しいしサキの身の安全も第一に考えられたマティアスの館へと、一緒に住むことをムスタは快諾していた。
久しぶりに地下から上がり陽の光を浴びてムスタは心地良さげにのびをする。サキはムスタを視てどこかへと繋がる細い糸が存在しないことを確認した。
「もう完全に、繋がりはなくなっているみたい」
「そういえば、力を吸い出される感じもせぬな」
「良かったあ。もうこれでムスも地下にこもらず済むね」
「サキと二人きり、朝も夜もない乱れた地下生活も捨てがたいがの」
「………またそういうことを……」
実際には規則正しく早朝に目覚めると地下で武術をさらってからサキは出かけていたし、二人きりの時間はそう長くはとれなかった。だがサキが地下に戻ればムスタは甘く抱擁したし、短い時間を埋め合うように互いを欲して身体を繋げた。
甘くて熱い日々を思い出し、サキは一人で赤面する。ムスタは変わらず飄々とした姿でいるから自分ばかりが恥ずかしがっているのが面白くなくて、サキはムスタに飛びつきいきなり深いキスを仕掛けた。
背伸びでムスタへとしがみつき舌をにゅるりと入れれば、ムスタの金瞳が一瞬見開かれ次いで細められる。仕掛けたはずが逆に食いつかれるように奪われ、サキの後頭部をしっかりと抑え込んで動けなくしたムスタの舌が口腔内を犯していく。
背筋をびりっと痺れが走る、まるで後ろの孔を直接犯されているかのような濃厚で深い口づけの合間にサキの口からは喘ぎが漏れる。腰は張りつめてムスタに触れられるのを待ちかねているし、早く中に熱いものを挿れて欲しい。
サキの精気が乱れたことにより纏う雰囲気が変わりかけたことに気づいたムスタが、やり過ぎたかと軽く舌打ちをしてそのまま抱きかかえて地下へと走って戻った。テントへ走り込んでクッションの間にサキを横たわらせると、目覚めかけた能力を抑えるためにサキを宥め口に含みしごいて抜いてやる、一度白濁を吐けばサキはひとまず落ち着くのだ。
案の定ムスタの口の中へとさらりとした液を放出したサキは己を取り戻し、また夢魔の能力に引っ張られて我を忘れたのかと落ち込んだ。
「僕こんなに淫乱になっちゃって、これからどうなるんだろう……」
こればかりは結界ではどうにもならない、サキ自身の問題である。もっと自分自身を強く持って精気を乱さぬように訓練するしかないのだ。
「サキの精気を乱さぬには慣れるしかあるまい、このまま訓練を続けるか」
「えっ……ぁっ……ムス………っ」
サキに有無を言わさずムスタは少々強引にサキを解していった。最近ではムスタの形を覚えた後孔は指を添えれば潤滑液を滴らせるまでになっている。それでいてサキ本人はムスタが仕掛ける愛技に対して常に恥ずかしがってみせるのだから堪らない。
ムスタはゆったりとしたパンツの前立てだけをくつろげ膝立ちになると、サキの後孔へと屹立をあてがい奥へと腰を進めた。尻だけをこちらに見せたサキの腰を支えて前後に揺すれば四つん這いになったサキの身体だけが前後に動く。
尻と腰が当たるぱつっぱつっという音が同じリズムを刻み続ける。繰り返す律動にサキの前は触らずとも透明の液を零した。
やがてムスタにも限界が訪れサキの中へと熱い飛沫を放つと前立てを直し、鼻を擦り合わせ額に浮いた汗を舌で舐めとってやりいつものように濡れた布巾でサキの身体を清めていく。
サキの負担にならぬよう、繋がる時間は短く己の射精は一度きりとムスタは定めている。
最近では身体を繋げる行為にも慣れてきたのか、サキが精液を吸収後すぐに寝てしまうことはなくなってきた。
だが黒瞳を潤ませムスタだけを見つめ、身体をほの赤く染めて荒く息をつくサキは非常に扇情的である。治まったはずの下腹部にまた熱がこもりそうになるのを抑えてムスタは黙って手だけを動かした。
訓練と言いつつ結局盛ってそのまま挿入まで致してしまうムスタとサキである。番を得た獣人の蜜月なのだから仕方ないのだが、館では執事のネストリとカティがサキたちの帰りを今か今かと待ちわびていることを知るのは、この数時間後のことであった。
ヴァスコーネス王国より遠く離れた星森の国のある一室で、先ほど受けた影からの報告に混血の獣人が絨毯の上で頭を抱えていた。
「次代様、かの国で宗主様が番を娶られました」
確かに影はそう言った。それを聞いて飛びあがり吠えそうになった次代をぐっと押し留めたのは、その祝うべき話の続きであった。
「番は数えで15歳の少年です」
(15歳の……少年……)
この際年齢はどうでもいい、しかし番ならば子を持ってもらわねば星森としては困るのである。
(それとてこちらの勝手な話か……)
次代様と呼ばれた混血の獣人はため息をついた。宗主様が星森を次代へと託して早や18年の月日が経っている、18年という年の流れは寿命の長い獣人といえども決して短くはない。特に次代にとっては18歳でこの星森を頼むと宗主様本人に託されてから、同じだけの年数が経ったのである。
(占星は今でも俺を宗主と認めてはくれぬ)
年に一度の儀式にて行われる占星で、前の年もまたムスタファが宗主であると出た。今年もまた占星の目は変わらぬのだろう。次代はもう一度深くため息をついた。
「カシュパル様……お茶、飲む?」
「ルカーシュ、お茶を持ってきてくれたのか。ありがとう」
声を掛けられ次代カシュパルは顔を上げて眉を下げる、頭からかぶるだけの貫頭衣を羽織ったルカーシュが木の盆に載せた木のカップを滑らないように片手で支えてそこに居た。
ルカーシュは若い叔母の息子で次代のいとこに当たる半獣人である。次代カシュパルは褐色の肌に黄豹の獣耳と尻尾を持つ半獣人だが、ルカーシュの見た目は人間に近い。人間である父親に似て肌も白く髪も白のような色をしており、瞳だけが獣人の特徴を持ち金瞳に輝く。
確か20歳だったと思うのだがルカーシュは身体が小さい上に見た目が幼く、少年のような容貌をしている。かわいらしい容貌だとは思うのだがカシュパルの好みではない。にも関わらずルカーシュはカシュパルの一体どこを好いているのか、事あるごとにカシュパルの周りの世話を焼いては何とか情を貰おうと必死である。
(先ほどの影の報告、聞かれたろうな)
ルカーシュはカシュパルを宗主にと押す一派に属しているため、反ムスタファ派といってもいい。一部の者が反対したところで占星は絶対であるのに、困ったものである。一応口止めはしておかねばなるまいとカシュパルはルカーシュを向いた。
「ルカーシュ、分かっているとは思うが……」
「カシュパル様、俺は何も聞いていません」
つまり聞いていたという事だ、口外しないための口止め料を寄こせと言っているのである。ルカーシュは年を重ねるごとにその見た目をあざとく利用し、行動は大胆になっていく。しかし本人がどんなに狡猾なつもりでもやはりまだ若いのである、カシュパルはそれが少し心配であった。
カシュパルの心配をよそにルカーシュはさっさと茶を置くと遠慮なく絨毯に座るカシュパルへと跨り、首に手を回して口づけをねだった。自分では誘うように微笑んでいるつもりなのだろうが、ルカーシュが全く好みではないカシュパルにしてみれば心に何も響かない。
しかし舌を絡めて腹から入り込んだ細い指に直接股間を弄られれば勃ちもする。止める間もなくルカーシュは貫頭衣の下から手を入れて尻からとろりと濡れた木の張り型を抜くと、カシュパルの屹立を張り型の形に大きく口を開けた尻へと一気に飲み込んだ。
カシュパルが己の勃起したものを尻に突っ込んでいるはずなのに、股ぐらの上で激しく腰を振るルカーシュにいいように絞られうめき声を上げながら、犯されているのは自分自身のような心地がする。
快感よりも虚しさを覚え、もう止せと声を掛けルカーシュの肩を掴んで動きを止める。肩を掴まれたルカーシュは腰つきを変えると尻の奥だけでルカーシュを犯し続ける。
止めろと強く言って肩を掴む手に力を入れれば、ルカーシュはかくかくと腰を前後に揺すりながら目を開く。開いた金瞳が一瞬ムスタファを思い起こさせて、カシュパルはかっとして肩を掴んでいた手を乱暴に突き出した。
己の放った精液とルカーシュの先端から出る精液とが、空中を飛んで絨毯を汚す。遅れて吹き飛んだルカーシュが絨毯へとどさっと背中から倒れ込む。尻から男根が抜けるときにぷしゅっぽんっ、と音がしたのがひどく可笑しくてルカーシュは乾いた笑いをこぼした。
まだ濡れている木の張り型を拾ったルカーシュは、カシュパルへと尻を向け見せつけるようにもう一度それを尻の中に納めると、乾いた笑いを残して汚れた絨毯はそのままに部屋を出て行った。
カシュパルは萎えた男根を晒したまま、両手で顔を覆ってしばらく俯いていた。
「もう十分です、俺を解放してください。ムスタファ……」
18年前から変わることのない占星、宗主不在の国、努力しても認められない次代、決して現れぬ番。
耐えてきた重荷にそろそろ耐えきれそうにない、頼る者のいないカシュパルの心はとうに折れていた。
「なぜ俺だったんです、なぜあなたにだけ番が現れたのです」
片や早々に国を捨て悠々自適に過ごしていると聞くムスタファに、番が現れた。それも子を成さぬ男子だという。
カシュパルはくつくつと一人笑った。宗主と認められずとも、自分が望めばそうと頼まずとも望みを叶えようと勝手に動く者ならいるではないか。部屋の外にまだ残るルカーシュの気配を感じて、カシュパルは笑いを止めなかった。
「おいでルカーシュ、最初からもっと丁寧に楽しもう」
すぐに姿を現したルカーシュの金瞳だけを睨みつけるように見ながら、カシュパルは今度こそルカーシュを犯しつくした。深く血が流れるほどの噛み痕をつけ流れる血を舌で舐めとり、激しく吸った。
ルカーシュの血を啜りながら、ムスタファにだけ番が現れたのはおかしいと繰り返した。
私とお前はこれだけして番じゃないのに、と骨同士がぶつかる音を激しく響かせて、精液が透明になるまでカシュパルは金瞳だけを見据えて腰を振り続けた。
翌日ルカーシュが星森から消えた。知らせを受けたカシュパルは誰もいなくなった部屋の中ほの暗い顔で笑った。
潤沢な物資を前にしてこの分なら冬も越せそうだと、狼人タルブがエーヴェルト宛ての親書をしたためている。
狼人タルブがこの新しい国の王になるのかとサキが尋ねると、とんでもないと笑われた。王に相応しい獣人がいれば国のことは頼みたいが、取り急ぎの案件は誰かが引き受けなくてはならないからやっているまでと言う。
星の森に戻らないムスタを王に仕立てる予定でいたのだが、番がサキじゃ向こうへ行くのも仕方ねぇかと苦笑いをされた。
マティアスやサキがいなくても転移で行き来できるように、中間地点に魔法陣を設置する案が進められている。優秀な高位魔法師たちが開発に当たっているから、雪解けの頃には形になっているかもしれない。
もちろん氷城のあった場所へも毎日確認へ行き、辺りの状態を確かめている。
「父さん、ムスタ師匠は今後どこへ住むようになるの?」
「以前の館でも構わぬとエーヴェルトは言っていたが、うちで一緒に住めばどうだ?」
「えっ、いいの?」
「私は構わない、ムスタさえ良ければ聞いてみるといい」
「ありがとう、父さん。大好き!」
久しくなかったサキからの飛びつきを受け止め、マティアスは片頬を上げた。ムスタと想いを繋げたサキは最近では花畑へ行かずとも魔力が安定しているのが分かる。サキはどう見ても幸せに輝かんばかりであるし、双方にとって良い影響を与え合っているのならばマティアスに否やはない。
10日後そろそろ大丈夫だろうとマティアスが判断し、ムスタが外へと出られることとなった。カティの料理は美味しいしサキの身の安全も第一に考えられたマティアスの館へと、一緒に住むことをムスタは快諾していた。
久しぶりに地下から上がり陽の光を浴びてムスタは心地良さげにのびをする。サキはムスタを視てどこかへと繋がる細い糸が存在しないことを確認した。
「もう完全に、繋がりはなくなっているみたい」
「そういえば、力を吸い出される感じもせぬな」
「良かったあ。もうこれでムスも地下にこもらず済むね」
「サキと二人きり、朝も夜もない乱れた地下生活も捨てがたいがの」
「………またそういうことを……」
実際には規則正しく早朝に目覚めると地下で武術をさらってからサキは出かけていたし、二人きりの時間はそう長くはとれなかった。だがサキが地下に戻ればムスタは甘く抱擁したし、短い時間を埋め合うように互いを欲して身体を繋げた。
甘くて熱い日々を思い出し、サキは一人で赤面する。ムスタは変わらず飄々とした姿でいるから自分ばかりが恥ずかしがっているのが面白くなくて、サキはムスタに飛びつきいきなり深いキスを仕掛けた。
背伸びでムスタへとしがみつき舌をにゅるりと入れれば、ムスタの金瞳が一瞬見開かれ次いで細められる。仕掛けたはずが逆に食いつかれるように奪われ、サキの後頭部をしっかりと抑え込んで動けなくしたムスタの舌が口腔内を犯していく。
背筋をびりっと痺れが走る、まるで後ろの孔を直接犯されているかのような濃厚で深い口づけの合間にサキの口からは喘ぎが漏れる。腰は張りつめてムスタに触れられるのを待ちかねているし、早く中に熱いものを挿れて欲しい。
サキの精気が乱れたことにより纏う雰囲気が変わりかけたことに気づいたムスタが、やり過ぎたかと軽く舌打ちをしてそのまま抱きかかえて地下へと走って戻った。テントへ走り込んでクッションの間にサキを横たわらせると、目覚めかけた能力を抑えるためにサキを宥め口に含みしごいて抜いてやる、一度白濁を吐けばサキはひとまず落ち着くのだ。
案の定ムスタの口の中へとさらりとした液を放出したサキは己を取り戻し、また夢魔の能力に引っ張られて我を忘れたのかと落ち込んだ。
「僕こんなに淫乱になっちゃって、これからどうなるんだろう……」
こればかりは結界ではどうにもならない、サキ自身の問題である。もっと自分自身を強く持って精気を乱さぬように訓練するしかないのだ。
「サキの精気を乱さぬには慣れるしかあるまい、このまま訓練を続けるか」
「えっ……ぁっ……ムス………っ」
サキに有無を言わさずムスタは少々強引にサキを解していった。最近ではムスタの形を覚えた後孔は指を添えれば潤滑液を滴らせるまでになっている。それでいてサキ本人はムスタが仕掛ける愛技に対して常に恥ずかしがってみせるのだから堪らない。
ムスタはゆったりとしたパンツの前立てだけをくつろげ膝立ちになると、サキの後孔へと屹立をあてがい奥へと腰を進めた。尻だけをこちらに見せたサキの腰を支えて前後に揺すれば四つん這いになったサキの身体だけが前後に動く。
尻と腰が当たるぱつっぱつっという音が同じリズムを刻み続ける。繰り返す律動にサキの前は触らずとも透明の液を零した。
やがてムスタにも限界が訪れサキの中へと熱い飛沫を放つと前立てを直し、鼻を擦り合わせ額に浮いた汗を舌で舐めとってやりいつものように濡れた布巾でサキの身体を清めていく。
サキの負担にならぬよう、繋がる時間は短く己の射精は一度きりとムスタは定めている。
最近では身体を繋げる行為にも慣れてきたのか、サキが精液を吸収後すぐに寝てしまうことはなくなってきた。
だが黒瞳を潤ませムスタだけを見つめ、身体をほの赤く染めて荒く息をつくサキは非常に扇情的である。治まったはずの下腹部にまた熱がこもりそうになるのを抑えてムスタは黙って手だけを動かした。
訓練と言いつつ結局盛ってそのまま挿入まで致してしまうムスタとサキである。番を得た獣人の蜜月なのだから仕方ないのだが、館では執事のネストリとカティがサキたちの帰りを今か今かと待ちわびていることを知るのは、この数時間後のことであった。
ヴァスコーネス王国より遠く離れた星森の国のある一室で、先ほど受けた影からの報告に混血の獣人が絨毯の上で頭を抱えていた。
「次代様、かの国で宗主様が番を娶られました」
確かに影はそう言った。それを聞いて飛びあがり吠えそうになった次代をぐっと押し留めたのは、その祝うべき話の続きであった。
「番は数えで15歳の少年です」
(15歳の……少年……)
この際年齢はどうでもいい、しかし番ならば子を持ってもらわねば星森としては困るのである。
(それとてこちらの勝手な話か……)
次代様と呼ばれた混血の獣人はため息をついた。宗主様が星森を次代へと託して早や18年の月日が経っている、18年という年の流れは寿命の長い獣人といえども決して短くはない。特に次代にとっては18歳でこの星森を頼むと宗主様本人に託されてから、同じだけの年数が経ったのである。
(占星は今でも俺を宗主と認めてはくれぬ)
年に一度の儀式にて行われる占星で、前の年もまたムスタファが宗主であると出た。今年もまた占星の目は変わらぬのだろう。次代はもう一度深くため息をついた。
「カシュパル様……お茶、飲む?」
「ルカーシュ、お茶を持ってきてくれたのか。ありがとう」
声を掛けられ次代カシュパルは顔を上げて眉を下げる、頭からかぶるだけの貫頭衣を羽織ったルカーシュが木の盆に載せた木のカップを滑らないように片手で支えてそこに居た。
ルカーシュは若い叔母の息子で次代のいとこに当たる半獣人である。次代カシュパルは褐色の肌に黄豹の獣耳と尻尾を持つ半獣人だが、ルカーシュの見た目は人間に近い。人間である父親に似て肌も白く髪も白のような色をしており、瞳だけが獣人の特徴を持ち金瞳に輝く。
確か20歳だったと思うのだがルカーシュは身体が小さい上に見た目が幼く、少年のような容貌をしている。かわいらしい容貌だとは思うのだがカシュパルの好みではない。にも関わらずルカーシュはカシュパルの一体どこを好いているのか、事あるごとにカシュパルの周りの世話を焼いては何とか情を貰おうと必死である。
(先ほどの影の報告、聞かれたろうな)
ルカーシュはカシュパルを宗主にと押す一派に属しているため、反ムスタファ派といってもいい。一部の者が反対したところで占星は絶対であるのに、困ったものである。一応口止めはしておかねばなるまいとカシュパルはルカーシュを向いた。
「ルカーシュ、分かっているとは思うが……」
「カシュパル様、俺は何も聞いていません」
つまり聞いていたという事だ、口外しないための口止め料を寄こせと言っているのである。ルカーシュは年を重ねるごとにその見た目をあざとく利用し、行動は大胆になっていく。しかし本人がどんなに狡猾なつもりでもやはりまだ若いのである、カシュパルはそれが少し心配であった。
カシュパルの心配をよそにルカーシュはさっさと茶を置くと遠慮なく絨毯に座るカシュパルへと跨り、首に手を回して口づけをねだった。自分では誘うように微笑んでいるつもりなのだろうが、ルカーシュが全く好みではないカシュパルにしてみれば心に何も響かない。
しかし舌を絡めて腹から入り込んだ細い指に直接股間を弄られれば勃ちもする。止める間もなくルカーシュは貫頭衣の下から手を入れて尻からとろりと濡れた木の張り型を抜くと、カシュパルの屹立を張り型の形に大きく口を開けた尻へと一気に飲み込んだ。
カシュパルが己の勃起したものを尻に突っ込んでいるはずなのに、股ぐらの上で激しく腰を振るルカーシュにいいように絞られうめき声を上げながら、犯されているのは自分自身のような心地がする。
快感よりも虚しさを覚え、もう止せと声を掛けルカーシュの肩を掴んで動きを止める。肩を掴まれたルカーシュは腰つきを変えると尻の奥だけでルカーシュを犯し続ける。
止めろと強く言って肩を掴む手に力を入れれば、ルカーシュはかくかくと腰を前後に揺すりながら目を開く。開いた金瞳が一瞬ムスタファを思い起こさせて、カシュパルはかっとして肩を掴んでいた手を乱暴に突き出した。
己の放った精液とルカーシュの先端から出る精液とが、空中を飛んで絨毯を汚す。遅れて吹き飛んだルカーシュが絨毯へとどさっと背中から倒れ込む。尻から男根が抜けるときにぷしゅっぽんっ、と音がしたのがひどく可笑しくてルカーシュは乾いた笑いをこぼした。
まだ濡れている木の張り型を拾ったルカーシュは、カシュパルへと尻を向け見せつけるようにもう一度それを尻の中に納めると、乾いた笑いを残して汚れた絨毯はそのままに部屋を出て行った。
カシュパルは萎えた男根を晒したまま、両手で顔を覆ってしばらく俯いていた。
「もう十分です、俺を解放してください。ムスタファ……」
18年前から変わることのない占星、宗主不在の国、努力しても認められない次代、決して現れぬ番。
耐えてきた重荷にそろそろ耐えきれそうにない、頼る者のいないカシュパルの心はとうに折れていた。
「なぜ俺だったんです、なぜあなたにだけ番が現れたのです」
片や早々に国を捨て悠々自適に過ごしていると聞くムスタファに、番が現れた。それも子を成さぬ男子だという。
カシュパルはくつくつと一人笑った。宗主と認められずとも、自分が望めばそうと頼まずとも望みを叶えようと勝手に動く者ならいるではないか。部屋の外にまだ残るルカーシュの気配を感じて、カシュパルは笑いを止めなかった。
「おいでルカーシュ、最初からもっと丁寧に楽しもう」
すぐに姿を現したルカーシュの金瞳だけを睨みつけるように見ながら、カシュパルは今度こそルカーシュを犯しつくした。深く血が流れるほどの噛み痕をつけ流れる血を舌で舐めとり、激しく吸った。
ルカーシュの血を啜りながら、ムスタファにだけ番が現れたのはおかしいと繰り返した。
私とお前はこれだけして番じゃないのに、と骨同士がぶつかる音を激しく響かせて、精液が透明になるまでカシュパルは金瞳だけを見据えて腰を振り続けた。
翌日ルカーシュが星森から消えた。知らせを受けたカシュパルは誰もいなくなった部屋の中ほの暗い顔で笑った。
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