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あけましておめでとう
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「明けましておめでとうございます」
「本年もよろしくお願いいたします」
互いに頭を下げあって、田中と俺はよし、と顔を上げて見つめ合った。
田中の薄いくせに太い眉毛の下にある瞳が、じっと俺を見ているので、俺はひとまずチュッとキスをした。
軽くキスをして、さあ出かけようと立ち上がったところを、後ろから伸びてきた田中の手がそれを阻止した。
後ろへとバランスを崩した俺を、背後からギュッと抱きしめて、田中が俺の首元で深呼吸する。
「なんだよ田中、出かけないのか」
「ん~、行きたくなくなった」
「別にいいけど……」
「鈴木とずっと、こうしてたい。もうちょっと離れるのもやだし、必ずどっか触れ合ってたい」
「そんなの触手かなんかじゃないと、無理だろ」
笑った俺に、田中は真面目な顔で、触手かとつぶやいている。
こいつ、大丈夫だろうか。
田中は頭はいいのに、時々おかしなことを言い出すからな。
まあそんなとこも、面白くて飽きなくて、好きなんだけど。
「え、今なんか言った?」
「いや、なんも~」
「うそ、今俺のこと好きって思ったでしょ?」
「いやいや、なんで思ったことが、言ったことになってんだよ田中」
「え、え?でも今、好きって思ったっしょ」
ギュウギュウ締められて、俺はあっけなく白状する。
「言った、思った、田中が好きだって」
田中は、んふ~と奇妙な声を上げて、俺にさらにまとわりついた。
なんかこいつ、今日おかしいな。
熱でもでたか、と田中のおでこに手のひらを当てたら、不思議そうな顔をされた。
「田中、お前すげ熱くね?」
「ん?」
「体温計とかねーのかよ、この家」
「あー、居間の方にあるかも」
俺は田中の部屋を出ると階段を下り、勝手知ったる田中の家の居間から救急箱を探し出すと、体温計を取った。
ついでに冷蔵庫からスポーツドリンクを持って、冷凍庫の小さな保冷剤もつかんで、二階へ戻る。
田中は38.2℃の熱が出ていた。
とりあえずベッドに寝かせて、保冷剤をタオルでくるんで額を冷やす。
枕元にスポーツドリンクを置くと、俺はもう一度階段を下りて、田中の家の台所で、おばさんが作っておいてくれたおでんを火にかけた。
温まったおでんの鍋をテーブルに置いて、救急箱から出した熱に効く風邪薬、と書いてある市販の薬も、テーブルに出しておく。
二階に上がり、田中を起こしておでんを食べさせた。
田中は熱のせいか無口だけど、いつもと同じくらいよく食べたから、すぐ治るだろう。俺は薬を飲ませて、ベッドへと戻らせた。
田中が大人しく寝ているそばで、俺は田中の部屋に置いてある漫画を適当に何冊か手に取って、ベッドの下に座り読みふける。
「鈴木ぃ」
「なんだ田中、どうした」
「すきぃ」
「そか、俺も好きだぞ」
「すきぃ、帰らないで。一緒にいて」
熱で苦しいから気弱になっているのか、田中の薄くて太い眉がへにょりとハの字をかいている。
俺のほうに伸ばした手を取ると、いやに熱くて、俺は急に心配になった。
「なぁ、田中。このままもう少し様子みて、熱下がらなければ病院行くか」
「やだ、一緒にいたい」
「一緒にいるから。もし熱が下がらなかったら、病院も一緒行くから。な?」
頭を撫でてやると、田中が俺の手にすり寄ってきた。
「冷たくて気持ちいい」
俺は自分の手を触ってみる、そんなに冷えてはいない。
田中のおでこを触ると、なにかで熱したように熱かった。
様子見なんていってないで、すぐに病院へ行ったほうがいいんだろうか。
だが田中は、薬が効いたのかそのままスッと眠ってしまった。
俺は保冷剤でおでこを冷やしながら、たまに田中の熱を確認するために、おでこに手を置いた。
田中は眠り続け、俺はそばで漫画を読み続けた。
漫画の文字が追えないくらい、空が暗くなるころ、田中が目を覚ました。
「……鈴木?」
「おう田中、大丈夫か」
「平気、ちとトイレ」
のそりと起き上がった田中は、汗をずいぶんかいていた。
「田中、汗もかいてるから、ついでに着替えてこいよ」
「あぁ……うん」
トントン、と階段を下りる音が聞こえて、じきに着替えた田中が戻ってきた。
スポーツドリンクを手渡せば、田中は大きなペットボトルのそれを、一気に半分ほど飲んだ。
「悪いな、せっかくの正月に」
「気にすんな。それより熱は?」
今日一日ずっとそうしていたように、田中のおでこに手のひらを当てて熱を確かめる。
熱も引いているっぽい、一応体温計で確認すると、平熱まで下がっていた。
やっぱり体力あるやつは違う。
「熱も引いたみたいで、良かったな」
「普段、風邪なんかひかないし、熱も出ないから気づかなかったわ」
「ぶっ、……だろうな」
田中が元気ないところなんて、想像もできなかったけど、実際に具合の悪いところを見ると、いつもの元気がありがたかった。
こいつの辛そうな姿なんて、見ていられない。
体温計を置いてから、俺はベッドに腰掛ける田中の膝にまたがって、力一杯抱きしめた。
無言でギュウギュウと締め付けていると、田中に頭を撫でられた。
「ごめんな、心配かけて」
「田中、もう次はさ」
「うん?」
「次は、人間やめて、二人で触手になろう」
「………」
「そいで、ずっと絡まったまま、一緒にいよう」
すごい告白だな、と田中が笑ったけど、鼻をズズッとすするから格好つかなかった。
俺のシャツの襟のへんが、田中の涙でグチャグチャになったけど、田中はそれを汗だと言い張った。
田中の風邪はそのまま治ったけれど、その夜から、今度は俺が熱を出した。
田中は同じように看病してくれた。
田中が作ってくれた、ベチャッとしたチャーハンを食べて薬を飲んだら、俺の熱も一晩ですぐに下がった。
「それで、病み上がりの俺たちがなんだ、田中」
「うん、二人とも治ったろ?」
「ああ、おかげさまで。ありがとな」
「だから」
姫初めって、知ってる? と俺の顔を覗き込んで、田中が聞いてきた。
どっちが姫だよ、と聞けば、どっちも姫になったらいいじゃんと田中が言うので、俺も一緒になって笑った。
「本年もよろしくお願いいたします」
互いに頭を下げあって、田中と俺はよし、と顔を上げて見つめ合った。
田中の薄いくせに太い眉毛の下にある瞳が、じっと俺を見ているので、俺はひとまずチュッとキスをした。
軽くキスをして、さあ出かけようと立ち上がったところを、後ろから伸びてきた田中の手がそれを阻止した。
後ろへとバランスを崩した俺を、背後からギュッと抱きしめて、田中が俺の首元で深呼吸する。
「なんだよ田中、出かけないのか」
「ん~、行きたくなくなった」
「別にいいけど……」
「鈴木とずっと、こうしてたい。もうちょっと離れるのもやだし、必ずどっか触れ合ってたい」
「そんなの触手かなんかじゃないと、無理だろ」
笑った俺に、田中は真面目な顔で、触手かとつぶやいている。
こいつ、大丈夫だろうか。
田中は頭はいいのに、時々おかしなことを言い出すからな。
まあそんなとこも、面白くて飽きなくて、好きなんだけど。
「え、今なんか言った?」
「いや、なんも~」
「うそ、今俺のこと好きって思ったでしょ?」
「いやいや、なんで思ったことが、言ったことになってんだよ田中」
「え、え?でも今、好きって思ったっしょ」
ギュウギュウ締められて、俺はあっけなく白状する。
「言った、思った、田中が好きだって」
田中は、んふ~と奇妙な声を上げて、俺にさらにまとわりついた。
なんかこいつ、今日おかしいな。
熱でもでたか、と田中のおでこに手のひらを当てたら、不思議そうな顔をされた。
「田中、お前すげ熱くね?」
「ん?」
「体温計とかねーのかよ、この家」
「あー、居間の方にあるかも」
俺は田中の部屋を出ると階段を下り、勝手知ったる田中の家の居間から救急箱を探し出すと、体温計を取った。
ついでに冷蔵庫からスポーツドリンクを持って、冷凍庫の小さな保冷剤もつかんで、二階へ戻る。
田中は38.2℃の熱が出ていた。
とりあえずベッドに寝かせて、保冷剤をタオルでくるんで額を冷やす。
枕元にスポーツドリンクを置くと、俺はもう一度階段を下りて、田中の家の台所で、おばさんが作っておいてくれたおでんを火にかけた。
温まったおでんの鍋をテーブルに置いて、救急箱から出した熱に効く風邪薬、と書いてある市販の薬も、テーブルに出しておく。
二階に上がり、田中を起こしておでんを食べさせた。
田中は熱のせいか無口だけど、いつもと同じくらいよく食べたから、すぐ治るだろう。俺は薬を飲ませて、ベッドへと戻らせた。
田中が大人しく寝ているそばで、俺は田中の部屋に置いてある漫画を適当に何冊か手に取って、ベッドの下に座り読みふける。
「鈴木ぃ」
「なんだ田中、どうした」
「すきぃ」
「そか、俺も好きだぞ」
「すきぃ、帰らないで。一緒にいて」
熱で苦しいから気弱になっているのか、田中の薄くて太い眉がへにょりとハの字をかいている。
俺のほうに伸ばした手を取ると、いやに熱くて、俺は急に心配になった。
「なぁ、田中。このままもう少し様子みて、熱下がらなければ病院行くか」
「やだ、一緒にいたい」
「一緒にいるから。もし熱が下がらなかったら、病院も一緒行くから。な?」
頭を撫でてやると、田中が俺の手にすり寄ってきた。
「冷たくて気持ちいい」
俺は自分の手を触ってみる、そんなに冷えてはいない。
田中のおでこを触ると、なにかで熱したように熱かった。
様子見なんていってないで、すぐに病院へ行ったほうがいいんだろうか。
だが田中は、薬が効いたのかそのままスッと眠ってしまった。
俺は保冷剤でおでこを冷やしながら、たまに田中の熱を確認するために、おでこに手を置いた。
田中は眠り続け、俺はそばで漫画を読み続けた。
漫画の文字が追えないくらい、空が暗くなるころ、田中が目を覚ました。
「……鈴木?」
「おう田中、大丈夫か」
「平気、ちとトイレ」
のそりと起き上がった田中は、汗をずいぶんかいていた。
「田中、汗もかいてるから、ついでに着替えてこいよ」
「あぁ……うん」
トントン、と階段を下りる音が聞こえて、じきに着替えた田中が戻ってきた。
スポーツドリンクを手渡せば、田中は大きなペットボトルのそれを、一気に半分ほど飲んだ。
「悪いな、せっかくの正月に」
「気にすんな。それより熱は?」
今日一日ずっとそうしていたように、田中のおでこに手のひらを当てて熱を確かめる。
熱も引いているっぽい、一応体温計で確認すると、平熱まで下がっていた。
やっぱり体力あるやつは違う。
「熱も引いたみたいで、良かったな」
「普段、風邪なんかひかないし、熱も出ないから気づかなかったわ」
「ぶっ、……だろうな」
田中が元気ないところなんて、想像もできなかったけど、実際に具合の悪いところを見ると、いつもの元気がありがたかった。
こいつの辛そうな姿なんて、見ていられない。
体温計を置いてから、俺はベッドに腰掛ける田中の膝にまたがって、力一杯抱きしめた。
無言でギュウギュウと締め付けていると、田中に頭を撫でられた。
「ごめんな、心配かけて」
「田中、もう次はさ」
「うん?」
「次は、人間やめて、二人で触手になろう」
「………」
「そいで、ずっと絡まったまま、一緒にいよう」
すごい告白だな、と田中が笑ったけど、鼻をズズッとすするから格好つかなかった。
俺のシャツの襟のへんが、田中の涙でグチャグチャになったけど、田中はそれを汗だと言い張った。
田中の風邪はそのまま治ったけれど、その夜から、今度は俺が熱を出した。
田中は同じように看病してくれた。
田中が作ってくれた、ベチャッとしたチャーハンを食べて薬を飲んだら、俺の熱も一晩ですぐに下がった。
「それで、病み上がりの俺たちがなんだ、田中」
「うん、二人とも治ったろ?」
「ああ、おかげさまで。ありがとな」
「だから」
姫初めって、知ってる? と俺の顔を覗き込んで、田中が聞いてきた。
どっちが姫だよ、と聞けば、どっちも姫になったらいいじゃんと田中が言うので、俺も一緒になって笑った。
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