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第二章 モモとダンジョン
第53話 モモと隊長(2)
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「『ひるやすみ』、この文字は『昼休憩』のことですよね」
「ああ、そうだな」
「なるほど、了解です」
モモは日本語で『ひるやすみ』と書くと、すぐ横にこっちの文字で『昼休憩』と書いていく。
「『バスケ』は、『ボール遊び』ですよね」
「うーん、分かりやすいように『ボール遊び』と読んだが、本当はバスケと言うスポーツなんだ」
「そうなんですか?」
そう聞き返すモモに、その次のコマで男子生徒が持っているバスケットボールを指差した。
「このボールを高い場所に設置したリングに、入れる競技だな」
「なるほどー」
モモは俺の説明を感心したように言うと、『バスケ』と日本語で書いて行く。その横に競技の説明書きを書いていくが、俺の説明では伝わり切れないのがわかる。
今度、何か弾むボールが手に入ったら、やって見せてやろうと思った。
「しかし、この文字はさっきのごじゅう……おんですか? にはなかったです」
そんなことをその文字を指差して、聞いてくるモモ。
俺はしばらく考えて、気がついた。
「……そうか、カタカナか!」
そうだ。日本では自然に使っていたので気がつかなかった。日本語のかなには、平仮名とカタカナがある。
「カタカナって何ですか?」
「うーんとだな」
俺は別のページにカタカナの五十音を書くと、彼女に『あ』は『ア』だと教え、後の並びは同じだと教えた。
「ええと、同じ音なのに違う表記があるんですね」
「ああ、そうだな」
俺は基本的に平仮名とカタカナで書く言葉は、決まっていることを説明する。
「ええと、つまり単語と一緒にカタカナか平仮名かを覚えればいいんですね」
「ああ、そうだな」
「わかりました」
そうしてモモは漫画のセリフを次々と書いて、横にこの世界の言葉で説明書きを加えていく。
彼女がちょうど話の中盤あたりまで書いたところで、俺は今さらながらに気がついた。
「モモ、ひょっとして……」
「はい。なんですか?」
「お前、話の内容を全部覚えているのか」
俺のその質問に顔をこちらに向け、小首をかしげると、何を言い出すのかというような不思議そうな眼差しを向ける。
「はい」
そう当たり前のように答えると、再び漫画に目線を戻した。
「モモ、お前凄いな」
俺のその言葉に目を少し宙に泳がせると、モモははっとした表情を見せる。そして少し照れながら答えた。
「いいえ、凄くなんて……普通です」
彼女にとっては、これが本当に普通のことなのだろう。いくら真剣に聞いていたとしても、すべてのセリフを見たことのない文字と合わせて覚えているのは凄いことだ。
モモは優秀だと思っていたが、その能力は俺が思っているよりも、はるかに凄いのかもしれない。
「そういえば……なあ、魔法学園に入るのって、どのくらい難しいんだ」
俺は彼女が魔法学園への推薦をもらっていたことを思い出した。なぜそこに行かなかったかの理由は、みんな似たり寄ったりだ。お金の無い平民、特に亜人にはあまり選択肢のないのが、この国である。
「えーと、そんなに難しくないと思いますよ。私の村でも5~6年に一人ぐらいは推薦で行けるらしいんで」
「それって凄くないか?」
「えっ!? いいえ、私が行けるんでそんなには……」
彼女はそう言って考え込むが、5~6年に一人の枠に亜人が選ばれたのだ。飛びぬけて優秀じゃないと推薦されないだろう。
そして俺は、さらに彼女の勉強のようすをじっと見ていて、もう一つあることに気がついた。
「もしかして……」
「えっ、何か間違えましたか?」
彼女はもう一度ページを戻り、五十音表を見返す。そして文字を一通り指で追った後、俺の顔をじっと見る。
「すみません。わかりません」
そう謝る彼女に、俺は首を横に振って聞いた。
「もう五十音を全部覚えたのか?」
「は、はい」
俺の言葉に彼女は一番後ろの白いページを開くと、俺が書いた順番に平仮名とカタカナを書き始めた。
その書いていく様に俺は戸惑いを隠せずにいた。「ぬ」と「め」、「ヌ」と「ス」を一度間違えたもののすぐに書き直す。その様を呆気にとられ、口を半開きにして見ている俺の横で、彼女はさらに質問してきた。
「この『ヲ』って文字が、一つもでてこないのは何でですか?」
彼女は漫画の本を見返すと、『ヲ』が一度も出てこないことを尋ねてくる。
「『ヲ』はほとんど使わないな、平仮名の『を』を普通は使うから」
「そうなんですね」
そう言うとノートに『ヲ』と書いた横に、『あまり使わない』と書き加える。
そして、俺は「次をお願いします」とせがむ彼女に、次の話を読んでいく。
こうしてモモは夢中で漫画の台詞を翻訳し続けたのだった。
「ああ、そうだな」
「なるほど、了解です」
モモは日本語で『ひるやすみ』と書くと、すぐ横にこっちの文字で『昼休憩』と書いていく。
「『バスケ』は、『ボール遊び』ですよね」
「うーん、分かりやすいように『ボール遊び』と読んだが、本当はバスケと言うスポーツなんだ」
「そうなんですか?」
そう聞き返すモモに、その次のコマで男子生徒が持っているバスケットボールを指差した。
「このボールを高い場所に設置したリングに、入れる競技だな」
「なるほどー」
モモは俺の説明を感心したように言うと、『バスケ』と日本語で書いて行く。その横に競技の説明書きを書いていくが、俺の説明では伝わり切れないのがわかる。
今度、何か弾むボールが手に入ったら、やって見せてやろうと思った。
「しかし、この文字はさっきのごじゅう……おんですか? にはなかったです」
そんなことをその文字を指差して、聞いてくるモモ。
俺はしばらく考えて、気がついた。
「……そうか、カタカナか!」
そうだ。日本では自然に使っていたので気がつかなかった。日本語のかなには、平仮名とカタカナがある。
「カタカナって何ですか?」
「うーんとだな」
俺は別のページにカタカナの五十音を書くと、彼女に『あ』は『ア』だと教え、後の並びは同じだと教えた。
「ええと、同じ音なのに違う表記があるんですね」
「ああ、そうだな」
俺は基本的に平仮名とカタカナで書く言葉は、決まっていることを説明する。
「ええと、つまり単語と一緒にカタカナか平仮名かを覚えればいいんですね」
「ああ、そうだな」
「わかりました」
そうしてモモは漫画のセリフを次々と書いて、横にこの世界の言葉で説明書きを加えていく。
彼女がちょうど話の中盤あたりまで書いたところで、俺は今さらながらに気がついた。
「モモ、ひょっとして……」
「はい。なんですか?」
「お前、話の内容を全部覚えているのか」
俺のその質問に顔をこちらに向け、小首をかしげると、何を言い出すのかというような不思議そうな眼差しを向ける。
「はい」
そう当たり前のように答えると、再び漫画に目線を戻した。
「モモ、お前凄いな」
俺のその言葉に目を少し宙に泳がせると、モモははっとした表情を見せる。そして少し照れながら答えた。
「いいえ、凄くなんて……普通です」
彼女にとっては、これが本当に普通のことなのだろう。いくら真剣に聞いていたとしても、すべてのセリフを見たことのない文字と合わせて覚えているのは凄いことだ。
モモは優秀だと思っていたが、その能力は俺が思っているよりも、はるかに凄いのかもしれない。
「そういえば……なあ、魔法学園に入るのって、どのくらい難しいんだ」
俺は彼女が魔法学園への推薦をもらっていたことを思い出した。なぜそこに行かなかったかの理由は、みんな似たり寄ったりだ。お金の無い平民、特に亜人にはあまり選択肢のないのが、この国である。
「えーと、そんなに難しくないと思いますよ。私の村でも5~6年に一人ぐらいは推薦で行けるらしいんで」
「それって凄くないか?」
「えっ!? いいえ、私が行けるんでそんなには……」
彼女はそう言って考え込むが、5~6年に一人の枠に亜人が選ばれたのだ。飛びぬけて優秀じゃないと推薦されないだろう。
そして俺は、さらに彼女の勉強のようすをじっと見ていて、もう一つあることに気がついた。
「もしかして……」
「えっ、何か間違えましたか?」
彼女はもう一度ページを戻り、五十音表を見返す。そして文字を一通り指で追った後、俺の顔をじっと見る。
「すみません。わかりません」
そう謝る彼女に、俺は首を横に振って聞いた。
「もう五十音を全部覚えたのか?」
「は、はい」
俺の言葉に彼女は一番後ろの白いページを開くと、俺が書いた順番に平仮名とカタカナを書き始めた。
その書いていく様に俺は戸惑いを隠せずにいた。「ぬ」と「め」、「ヌ」と「ス」を一度間違えたもののすぐに書き直す。その様を呆気にとられ、口を半開きにして見ている俺の横で、彼女はさらに質問してきた。
「この『ヲ』って文字が、一つもでてこないのは何でですか?」
彼女は漫画の本を見返すと、『ヲ』が一度も出てこないことを尋ねてくる。
「『ヲ』はほとんど使わないな、平仮名の『を』を普通は使うから」
「そうなんですね」
そう言うとノートに『ヲ』と書いた横に、『あまり使わない』と書き加える。
そして、俺は「次をお願いします」とせがむ彼女に、次の話を読んでいく。
こうしてモモは夢中で漫画の台詞を翻訳し続けたのだった。
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